即覆面調査でなくなった時の処世術の巻
覆面調査の現場より
「取材させていただく店には必ず事前に食べに行く」というのが、「あまから手帖」編集部のモットー。その覆面調査の裏話をお届けする本連載。第3回目は、ライター寺下光彦さんと伺った大阪・北新地『有 伽藍堂』(う がらんどう)の現場より。
最初からバラしてしまう覆面調査とは!?
覆面調査とはいえ、始めに自ら正体を名乗ってしまうこともある。
前回のように、ライターがテレビ出演している場合もそうだが、一番多いのは、長期に渡り、最前線を突っ走ってきた店が心機一転、リニューアルや移転開業するパターンだ。
有名店であれば過去に取材していることはもちろん、仮に「あまから手帖」で掲載がなくても、複数誌を渡り歩くライター陣は、店主と懇意にしていることがほとんど。当然、「お連れの方はどなた?」となる。
そして、どんなに有名な店やシェフであっても、新装などで店が変われば、必ずチェックしに行くのが「あまから手帖」の習わし。
その日、ライターの寺下光彦さんと伺った『有 伽藍堂』はまさにその典型だった。
前身は、大阪・新町の『空心』。いわゆる前衛的な中国料理で、イノベーティブとかフュージョンという言葉が世に浸透していない頃から、自由な発想で、国籍や食材を問わず、中国料理を表現してきた、言わば草分け的存在の店だ。
そこから独立した弟子の中には、今や予約困難店を営む店主がいたり、昨秋開業の若手もいて、今年は寺下さんと共に、そうした『空心』独立組を巡る機会も。それだけに、「いよいよ本丸ですね」と、なんだかドラクエの最終ダンジョンに到達したような気分に。
寺下さんも、「行きましょう!」と、いつもよりテンション高めで店内へ。ワイン講師を務めるほどワイン通の寺下さんだが、意外にも中華も守備範囲。「エビチリにはこのワインが合う」などとよく教えてくれるので、今回も楽しみだ。自分もその後を追って中に入る。“ザッザッザッ”というドラクエの効果音と共に——。
即素性明かしのメリット&デメリット
店内はまさに、ドラクエの最終ダンジョン…、もとい、瀟洒な内装でラグジュアリー感があり、さすがは北新地といった設えだ。
入店後すぐ、出迎えてくれたのはオーナーシェフの大澤広晃さん。「いやぁ、寺下さん、早速ありがとございます!」と、即ライター顔バレ、からの、大澤さんとは初対面にもかかわらず、「あまから手帖です!」と名乗ってしまう自分。
店主とライターが顔見知りなら、遅かれ早かれ、こちらの素性は分かるだろうし、ならば、最初から名乗って、「普通に食べに来ました」という体にしてしまう方がいい。
掲載基準を満たせば、直アポの恩恵にあやかれるし、厳しい場合は、「ご馳走様でした」で退散するのみ、だが、それは何とも後味悪く…。ジーザス、避けたい事態…。
しかし、そもそも、即正体を明かす時ほど、直アポの確率の方が高いのだ。
今回の場合も『空心』の大将とくれば、もはやラスボスだ(最強という意味で)。
店名が変わったことには驚いたが、料理よしは変わらないハズ。 大丈夫(こんな心労もデメリットか…)。
訪れたこの日は平日なのに、カウンターはすでに満席で、仕切りのあるテーブル席も埋まっている。連れとめいめい話をしていた客たちが一斉に顔をあげる。いよいよ、食材が盛られた大皿を開陳するパフォーマンスが始まった。
でもやっぱり、覆面に越したことはない…
めくるめく料理は、最初のひと皿から“会心の一撃”続きで、唸るばかり。
たとえば、コースメニューとしては異色の叉焼メロンパンに、さらに本物のメロンを挟む遊び心などなど。
奇想天外、摩訶不思議な中国料理の数々に、次はどんなひと皿がやって来るのか、わくわくさせられた。
珍しく酔った寺下さんは、「イタリアの三ツ星○○より旨い、行ったことないけど絶対」と店主・大澤さんにまくしたてるなど、久々楽しい調査に。
無事一件落着。
とはいえ、やはり、
店側にこちらの正体がバレないに越したことはない。
いっそハロウィンみたいに、変装もありか!?
なんちゃって。
■店名
『有 伽藍堂』
■詳細
【住所】大阪市北区曽根崎新地1-5-18 零北新地ビル4F
【電話番号】06-4256-6604
【営業時間】18:00一斉スタート(入店は17:30~)
【定休日】土・日曜
【お料理】コース16500円のみ。
これからの旅は、ローカルへ
旅行く先にあるのは
わざわざ目指したい味。
地のもので馳走する、
ローカルレストランとオーベルジュの旅
Writer ライター
あまから手帖 編集部
amakara techo