原田マハさん(後編)『YOLOs』と念願のフォーチュンクッキー

原田マハさん(後編)『YOLOs』と念願のフォーチュンクッキー

関西ファン !

2023.12.05

文:柴田くみ子 撮影:香西ジュン

「関西ファン!」第3回目のゲストは作家の原田マハさん。前編に続き、後編では、京都にあるマハさんプロデュースの[食]のセレクトショップ『YOLOs(よろず)』について聴いてみました。コンパクトな空間には、調味料やチーズ、ワインやポテトチップスなども並んでいます。そこに、この秋マハさん念願の商品が加わったとか。

目次

食とアートと物語のある空間に 「おすすめは…全部です!(笑)」 物語(ストーリー)と一緒に楽しんで

食とアートと物語のある空間に

—『YOLOs』をオープンしたきっかけはどんなことだったのですか?

京都でアートイベントをやった時に出会った仲間たちと、いつも美味しいものの話題で盛り上がっていたんです。いつか何かできたらいいね、なんて言っていたら、たまたまご縁のある方からこの場所が空くから「何かやってみませんか?」って声をかけていただいて。京都の真ん中、烏丸という立地もいいし、これはチャンスかも!と思って仲間に相談したらみんなも乗り気で、じゃあやってみよう!ってことで「よろずうまいもん」を集めた「食」のセレクトショップができました。

—名店の限定品なども揃っていますが、商品はどんな基準でセレクトしているのですか?

自分たちのことを「食のキュレーター」なんて呼んでいるんですが(笑)、それぞれにこだわって選りすぐった食品、お酒、雑貨などを全国各地から集めています。
ちょっと贅沢なバターやマスタードって、なくても生きていけるけど、あったら暮らしを彩ってくれる。アートや小説とも近いなって思うんです。食品だけでなく、背景に作り手の想いや物語のあるものは、人に話したり、すすめたくなりますよね。そんな食と物語とアートのある空間にしたくて。小さいけれど「ここに来たら、なんかいいものが見つかるよね」と思ってもらえるような、ライフスタイル全体を提案できるようなお店を目指しています。

「おすすめは…全部です!(笑)」

—おすすめの商品を教えてください。

おすすめと言われたら全部なんですが、最近びっくりしたのは滋賀のローズティ。香りがすごく良くて、ちょっとヤバイくらいですよ(笑)。それと調味料。塩や粒マスタード、XO醤や豆乳マヨなんかは、お土産としてパリへ持っていくとすごく喜ばれるし、料理に使うとめちゃくちゃ美味しくできるから、向こうではほぼ100%自炊です。

YOLOsの商品左/琵琶湖のほとりにある農園で育てられる和ばらの花びらを使ったWABARA「WABARA ROSE TEA」。右/ポルトガルの自然海塩・マリソル「FLOS SALIS」と、京都・鹿ケ谷にあるプルストカフェ=風味制作所の粒マスタード。

オリジナルの商品で言えば「洛中カヌレ」。週に3日間だけ1日10セット(2個入り)の販売なんですが、開発に半年近くかけた自信作です。イートインもできるので、たまたま通りがかったフランス人がこれを食べて「僕は(カヌレの本場)ボルドー出身だけど、今まで食べた中で一番美味しいよ」って言ってくれたんです。ヨッシャー!って(笑)。

それともう一つは今年10月に誕生したフォーチュンクッキー「こと葉」です。

原田マハさんと「こと葉」「こと葉」を楽しそうに眺めるマハさん。この日のコーディネート、実は「こと葉」カラー!

—「こと葉」といえば、ご著書『本日は、お日柄もよく』に登場する主人公の名前ですよね?

実はこれ、私がずっとずっとやりたかったことなんです。20年ぐらい前、勤めていた美術館を辞めてモヤモヤした気持ちでニューヨークへ行った時のこと。チャイナタウンの安い中華料理店で食事をしたんです。残念ながら料理は美味しくなかったんだけど、会計の時に伝票と一緒に袋入りのクッキーが置かれていて。開けてみると、クッキーの中に小さな紙片。そこに書かれていた言葉が「It‘s all right.(大丈夫)」。

クッキーはやはり美味しくなかったけれど(笑)、すごくハッピーな気分になって、それをずっと財布に入れて元気の素にしていました。言葉の持つ力って凄いですよね。いつか、自分が言葉に携わる仕事をするようになったら、誰かを元気にしたり励ましたりするものを書く人になりたい!と。それで書いたのが『本日は、お日柄もよく』なんです。薄焼きクッキー『こと葉』の中に詰めた紙片には、そんな思いを込めたメッセージを印字しています。

「こと葉」フォーチュンクッキーには、ポジティブなメッセージが。

物語(ストーリー)と一緒に楽しんで

—ステキな品々を集めたこの場所は、どんな風に楽しんでもらいたいですか?

小さなカウンターではイートインもできるので、『吉田牧場』のチーズをアテにワインを飲んだり、カヌレとお茶のセットを召し上がっていただいても。天気の良い日ならテラス席でお茶を飲みながら読書というのもおすすめ。気になる商品があったら、店長やスタッフにどんどん訊ねてみてください。きっとその商品の背景に潜む奥深〜いストーリーを語ってくれると思いますよ。

YOLOs店内店内はマハさんのセンスで溢れている。左下のように、マハさん愛用の雑貨が並ぶことも。右下は、「これ絶対バズる!」とマハさんがニューヨークで見つけて“捕獲”し連れ帰ってきたマナティのティーストレーナーを使ったイートインメニュー「ManaTEA」。「いまいち伝わらないみたいで全然バズってないんです(笑)」

YOLOs外観


原田マハさん

森ビル森美術館設立準備室在籍中に、ニューヨーク近代美術館に派遣され同館にて半年間勤務。その後独立、フリーのキュレーター、カルチャーライターへ転身。2005年「カフーを待ちわびて」で第1回日本ラブストーリー大賞受賞、2012年「楽園のカンヴァス」で山本周五郎賞など、受賞歴多数。2010年「本日は、お日柄もよく」は累計70万部突破のロングセラーに。アート小説から号泣必至の勇気をもらえる本まで、多数の著書で読者を魅了している。最新刊は「黒い絵」「お帰り キネマの神様」。


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