3月号の懺悔②また全部ボツになりました

3月号の懺悔②また全部ボツになりました

今月の…お蔵入り

2023.02.28

文:「あまから手帖」編集部・松崎聖子 撮影:佐伯慎亮

雑誌とは、実にいろいろな意向や事情が絡み合って作られている。誌面に出ている部分はほんの一部で、その向こうには何十倍もの「出なかったもの」が隠されているのだ。ということを痛感した、ある取材。

目次

「客入り店内風景」を撮るための苦労 良い表情をカメラに収めホクホクしていたが 「せっかく撮らせてもらったのにボツ」はよくある 店舗情報

「客入り店内風景」を撮るための苦労

誌面を作る時は一応(?)、それぞれのページのテーマを定めて取材に行く。今回の3月号特集内の「ガチ中華」なら、できるだけ中国人で賑わっているカオスな雰囲気を出したい、など。

でも取材を受けてくれる日はだいたい平日だし、アイドルタイムと呼ばれるランチ営業とディナー営業の間。ということはお客さんもいない。ほぼ100%、店員がまかない食べている時間。だから、賑わう店内風景なんて撮れないのだ。

望湘楼料理「望湘楼」の店主一押しは、カリフラワー炒めとのこと。もっと他にもスゴい料理があるのだが…(笑)

料理撮影と別の日に再訪してお客さん入りの風景を撮る場合も多く、この「望湘楼」での取材もそうだった。店主に聞くと19時ぐらいから団体客が入るとのこと。後日その時間に伺ったところ、確かに店内は人で溢れ返っていた。おっしゃーと気合いを入れてカメラマンと撮影に臨んだが…

なんと全員日本人だった。いつもは中国人しかいない店なのに、なぜこの日に限って…。しかし、みな若い男性で、体格も良く、めっちゃくちゃ美味しそうに料理をかき込んでいる。この店の美味しさが笑顔から伝わるような微笑ましい光景である。

学生たち「辛いの無理!」と泣き笑いしながら激辛麺を食べる学生

良い表情をカメラに収めホクホクしていたが

彼らは大阪商業大学の学生さんで、今日の集まりは中国近現代史のゼミの課外活動。「本場の中国料理を体験する」という楽しい会だそうだ。隅には日本人の先生が座っていた。雑誌の取材で撮影したいという旨を伝えると大層喜んでくださった。

良い写真が撮れたし、このページは楽しそうな人々の顔で埋め尽くされるだろうな~グッジョブ自分とホクホクしながら撮影した写真をセレクト。デザイナーに送り、レイアウトへと進む。果たして上がってきた誌面は、人の写真が一枚も使われていなかった。

エプロンする学生よく見ると中国語が描かれた紙エプロンを着けている。どこで入手したんだそれ

誌面とは編集者の意図とデザイナーの意向のせめぎ合いで作られるものだ。こちらが絶対使いたい!とプッシュした写真でも、ページの流れの中で浮いたり、テーマに合っていなかったりすると、容赦なくボツとなる。今回も、料理写真を大使いしたいので人物は不要かな~とのことだった。

学生ピンゼミでこんな課外活動があるって、羨ましい

「せっかく撮らせてもらったのにボツ」はよくある

というわけで、泣く泣く、学生たちの笑顔も誌面デビューを見送ることとなった。そういえばこの店で、他の大学の教授たちの写真もボツになってしまったな。カイコの串焼きの写真は大きく載せたのに…。因縁の店だ。いや店は悪くない。

しかし島之内近辺で何軒も取材した中で、一番日本語が通じない店だったのに、中国文化関係の大学教授や研究者がこぞって訪れているのがこの店だった。そのスジの間では一目置かれる店なのかもしれない。

中国人カップルこちらは無関係の中国人。ちなみにお客さんが写真に入る時は、一人残らず(後ろ姿でも)声がけしてから撮ります

ともあれ、大阪商業大学の石黒亜維先生と学生の皆様、誌面で写真を使えなくてごめんなさい。この場を借りて美味しそうな表情をご紹介させていただきます。あとあれ撮ってこれ撮ってと引っ張り回してしまったカメラマンさんにも、お詫びします。

■店名
『望湘楼』
■詳細
【住所】大阪府大阪市中央区宗右衛門町3-11 リバーサイド磯ふくビル B1F 【電話番号】06-6211-7518

掲載号
あまから手帖2023年3月号『中華の町へ』
おそらく関西の雑誌史上、最もディープに攻めた中華料理特集。「鉄鍋炖」に「第三の王将」…、中華の沼は深いのだ。

Writer ライター

あまから手帖 編集部

あまから手帖 編集部

amakara techo

1984年の創刊以来、関西グルメの豊かさをお届けしてきた月刊誌「あまから手帖」編集部。 旨いものを求めて東奔西走、食べ歩いた店は数知れず。パン一つ、漬物一つ掲載するにも、関西の人気店を回って商品を買い集め、食べ比べる真面目なチーム・食いしん坊。

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