気分は程よい海外テイストのビール
今月の…お蔵入り
食べものや飲み物で海外気分に浸れることはあるけれど、その味わいが、ご当地し過ぎないのが今の気分かも。ふんわり、あくまで美味しいとこ取りビールで心地よく酔いたい。
今夏飲んだ中で楽しめたふんわりビール
強烈な西日がミナミの街をギラギラと射貫く
残暑厳しくも、暦上は秋のとある日。
歩けば汗はダラダラ、ビルの間隙から明滅するようチカチカ現れる太陽は、
焦らすように気力と体力を奪い、わずかな日陰を選び、
往来する人々を見事いじめ抜いてくれている感じだ。
誰もがうなだれている。
早くビールを飲んで、暑さ諸共、すべてを忘れたい。
休日の朝、起き抜けに冷蔵庫を開け、パシュっと背徳の音を何度響かせたか知れない。
今夏、通算何リットル飲んだか定かではないが、
各地で軒並み猛暑日の最長記録が更新されるなか、
きっと自分自身の最多リットルも更新していたに違いない。
ビール工場にそびえるタンクくらい飲んでいたらどうしよう。
まだ見ぬ、成人病の数々が巨象のように押し寄せてきそうで怖い。
嗚呼、どこか公園でもあれば、水道の水を頭から浴びたい。
そんなこんなで、辿り着いた大阪難波の「葉花」。
真っ先にメニューのビール欄を開けば、評判通り、
スパイシーな変わり種が目に飛び込んでくる。
パクチービール。
いかす。
早速オーダーしてみた。
はて、パクチービールとは、どこの国のものだったか。めちゃくちゃタイっぽい気もするけど、ポルトガルでも、メキシコでも見たような……。そもそも飲んだことあったっけ?
記憶を手繰りながら飲んでみれば、見ためを裏切らない味わい。パクチーとビールの相性は想像以上で、爽快感が倍増するように感じられ、記憶に残るビールになった。
ミチェラーダに隠された戦慄の思い出
続いてミチェラーダ。
これは、よく知ったメキシコのビールカクテル。
本場では、各種スパイスやチリソースなどが入り、トマトジュースが少々茶掛かったグロテスクな色をしているが、こちらは、グラスのフチにスパイス入り塩をつけた独自解釈のもの。
スパイシーな塩とすっきりビールの味わいで爽やかだ。
もちろん、本場の味とは違う。が、飲んでいて思う。
この大阪はミナミで、
リアルな味を再現してどうするのかと。
びっくりするくらい現地の味なら、きっとメキシコに行ったことを思い出す。
よかった思い出だけならいいが、嫌なこともリアルな映像となる。
振り返れば、
メキシコシティの空港で出迎えが来ず、途方に暮れたことや、
街の売店で釣りをちょろまかされたことくらいなら序の口。
とある州境をクルマで越境中に、山賊みたいなギャングに出くわしたこと。
リーダー格の一人がスペイン語で、
「あなたの命はいくらですか?」
(言い値で結構、通行料プリーズと)
ツアーコーディネーターが間に入ってくれたおかげで、今まで生きながらえているが、
どんな交渉が行われ、金銭のやり取りがあったか否かについては未だ謎のままだ。
ごっつい4WDの後部座席に一人残された窓の外。
男たちがボソボソ話し合う中、ひたすら口が渇き、
銃乱射が始まりはしないか、生きた心地がしなかった。
そんな光景までも思い出しかねない
(十分思い出しちゃったけど…)。
無事生還したあの日の晩、大活躍のツアーコーディネーターが、
ずっと顔面蒼白な自分に勧めてくれたのは、
奇しくもミチェラーダだった。
この店の味が本格的ならば、どう感じただろう……。
邪気を振り払うように、目の前のグラスを一気に空ける。
やはり日本人好みの味わいで、彼の国の美味しいとこだけ、
ちょこっと感じさせてくれるのが一番いい。
どこかの海外で
出合ったようで、
出合わなかったような、
そんな曖昧さ。
味はしっかり日本人の味覚に合わせて、
エスニックの国々の雰囲気に
ふわりと浸らせてくれる。
円高や物価高で、海外旅行が身近に感じない今
(変った思い出を持つ自分は特殊だが)、
こういう感覚は案外皆の気分かもしれない。
メキシコ然とし過ぎず、スマートなミチェラーダ605円
■店名
葉花
■詳細
大阪府大阪市中央区難波1-5-7
☏06-4708-3668
16:00~23:00(LO)
日曜15:00~22:30(LO)
月曜休、臨時休あり
なんば駅から5分
Writer ライター
あまから手帖 編集部
amakara techo