日本一小さな農業高校に、3日間通ってみた

日本一小さな農業高校に、3日間通ってみた

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2023.03.30

文:「あまから手帖」編集部・森 千尋 / 撮影:太田恭史

三重県伊賀市にある、全寮制・愛農学園農業高校。生徒が育てた農産物をもとに、朝昼晩の食事は全て学内で調理。食全体の7割を自給自足でまかなっている。

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自由な高校生羽ばたく姿 学校情報

自由な高校生羽ばたく姿

その場所に来たのは約1年半振りのことである。未来の農業の担い手となる高校生を応援したいと、かつて「育てる教室」「SCHOOL MADE!」と農業高校に密着する連載を持たせてもらっていた。たくさんの学校を取材して回るなかで、一際目を引いたのが、三重県伊賀市にある「愛農学園農業高等学校」だった。全寮制で、スマホもゲームも禁止。思春期の10代にとっては過酷な環境だ。

当時の取材はコロナ禍真っ只中の2021年。生徒たちは誰もマスクを着けていなかった。それだけで、別の世界へ辿り着いたような気持ちになった。ここでは教職員家族を含めた周辺に暮らす約100名の住人が、一つのコミュニティとなり“共同体”として存在している。大人も子どもも関係なく、学校で自給自足の生活を送る。まるでその場所が、ひとつの村のように独立していた。

話だけを聞くと「籠の中の鳥」のような状況、というのは適切な表現かは分からない。私は少し怖気づいてしまったが、杞憂だった。生徒たちは誰よりも自由だと感じた。

「何してるの?」
「土地が空いたから、ここを自分専用の畑にしようと思って。イチジクを育てたいんです」

「何してるの?」
「鹿が作物を食い荒らすから、罠を作りました。掛かったらソーセージにしようかなって!」

「何してるの?」
「余ったぶどうを潰してます。ワイン造ってみて、成功したら先生にプレゼントします」

「すごいね!」と驚く取材班に対して皆「スマホがないから、その代わりというか。楽しみは自分たちで見つけます」と曇りのない笑顔で答えてくれた。この時、数時間だけの取材では足りない。絶対に再訪したい。そんな想いを胸に抱くことになる。

そして2023年4月号にて、【18歳の春「卒業前夜」】というタイトルで改めて“あいのう”に密着させていただく機会ができた。今回の取材は3日間。卒業間際の3年生・養豚部「そーた」と果樹部「りょーちん」を主人公としたドキュメンタリーとなっている。

そういえば、ソーセージの彼は精肉店に、ワインの彼は醸造所にそれぞれ就職したらしい。

豚舎の前で全寮制で有機農業を実践する、日本一小さな農業高校。

■店名
『愛農学園農業高等学校』
■詳細
【住所】三重県伊賀市別府690
【電話番号】0595-52-0327
【公式サイト】https://ainogakuen.ed.jp/

掲載号
『あまから手帖2023年4月号「日本酒の味」』

Writer ライター

あまから手帖 編集部

あまから手帖 編集部

amakara techo

1984年の創刊以来、関西グルメの豊かさをお届けしてきた月刊誌「あまから手帖」編集部。 旨いものを求めて東奔西走、食べ歩いた店は数知れず。パン一つ、漬物一つ掲載するにも、関西の人気店を回って商品を買い集め、食べ比べる真面目なチーム・食いしん坊。

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