「ラーメン河」を手伝う常連客の話。

「ラーメン河」を手伝う常連客の話。

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2024.03.25

文:「あまから手帖」編集部 写真:百々武

奈良の山奥にて1日50食限定のラーメンを出す「ラーメン河」。開店前から並ぶ人の姿がちらほら見えるほどの、知る人ぞ知る人気店だ。しかし店主は一人だというのに、厨房からは何やら楽し気なしゃべり声が聞こえてくる…。

目次

「弟子もどきですよ」と笑うお客たち

「弟子もどきですよ」と笑うお客たち

奈良は吉野の山奥に、開店前から人が並び、お昼ごろを過ぎると売り切れてしまうラーメン店があるという。しかもメニューはラーメンとマグロ丼のみ。興味を惹かれはするものの、大阪市内に住み、車も持たない身からすると輪をかけてハードルが高い。

ラーメン河の眼前にある吉野川「ラーメン河」の眼前に広がる吉野川。

2月半ば。眠い目をこすりながら近鉄大和上市駅に降り、カメラマンの車に乗りこんだ。吉野川沿いに東へ東へと進んでいく。飲食店の気配が一切しない外の景色を疑りながらも、一行は無事現地に到着。白いテントをはった屋外に、1人用の椅子とテーブルすべてが吉野川に向けて配置されている。コロナ禍でよく見かけた一方向スタイル。メニューはほんとうにラーメンとマグロ丼のみのようだ。

ラーメン河の内観ここで皆が一斉に川の方向を向いてラーメンをいただく。

詳細は本誌4月号の記事を楽しんでいただくとして、取材時の話を。

店主の長田さんが快く取材を引き受けてくれたので、後日改めて話を聞きに訪れた。撮影用の1食分と言わず、3人分用意しますから!!という長田さんのご厚意に恐縮しながら席につくと、後ろで食事をしていたお客さんたちがすっと立ち上がり、空になった食器を持って厨房に入っていく。そして、一向に出てこない。

ラーメン河の調理風景長田さんが手際よくラーメンを仕上げていく。

厨房を覗くと、3人の男性が食器を洗っており、それが終わると湯気の立ち昇る鍋を囲んで談笑。ときどき、鍋の蓋を開けてゆで具合かなにかを確認している。皆さんは従業員ですかと聞くと「いえ、客です」。「ごちそうさまですー」の声が聞こえたら、はいよはいよと出て行って、会計までも手伝っている。「何名ですか?」と並んでいる人の誘導もする。
聞けば皆それぞれこのお店の常連で、長年通ううちに長田さんを手伝うようになったという。「弟子もどきですよ」と男性の一人がちょっと誇らしげに笑う。

「ラーメン河」のラーメンとマグロ丼ラーメンとマグロ丼のセット2000円。

3人と楽しげに喋りながら、長田さんは複数のラーメンとマグロ丼を仕上げ、お盆に乗せて一気に運んでいく。取材班の分も出てきたので、川に向かって手を合わせ、ありがたくいただくことにする。この日はあいにくの雨だったが、反対に何かを急いでも仕方がないという心地になるのは、自然に囲まれている場での食事ならではだ。

次の注文に取りかかる長田さんが忙しそうだったので、厨房に食器を運んでいくと、常連のお一人が「どうもどうも」とにこやかに受け取ってくれた。
うーむ。
ラーメンとマグロ丼は美味しいし、客席と厨房はシームレスだし、長田さんは気のいいおっちゃんだし。なんとなく、この流れで手伝いたくなる気持ちが分かる。通い続けたら、自分もきっとそのうち食器を洗って、この方たちと一緒に鍋を眺めている気がした。

■店名
ラーメン河
■詳細
【住所】奈良県吉野郡吉野町菜摘470
【電話】0746-32-8384
【営業時間】10:00~14:00 売り切れ次第終了
【定休日】水・木曜日(夏季、冬季休暇あり)

2024年4月号「名店とは何か?」

あまから手帖では今回、「名店とは何か?」を色々な切り口から考え、関西の「名店」を厳選。一生に一度は行きたい高級店、唯一無二の味、会いに行きたい名物店主、さらには浪速の名酒場や、売切れ御免の秘境ラーメン店、名店を継いだ名店、贈って喜ばれる口福の名品など。知られざる名店、むしろ迷店まで、あなたなりの「名店」にきっと巡り合えるはず。

Writer ライター

あまから手帖 編集部

あまから手帖 編集部

amakara techo

1984年の創刊以来、関西グルメの豊かさをお届けしてきた月刊誌「あまから手帖」編集部。 旨いものを求めて東奔西走、食べ歩いた店は数知れず。パン一つ、漬物一つ掲載するにも、関西の人気店を回って商品を買い集め、食べ比べる真面目なチーム・食いしん坊。

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