柳月堂と鴨川デルタの泥棒
U-1000円以下の口福
京阪出町柳駅近くにあるお気に入りのパン屋「柳月堂」。ここのくるみパンをめぐって、何年か越しに「あいつ」と対峙(?)することになった。
目次
くるみパンと私とあいつ
大学時代によく通っていた「柳月堂」というパン屋がある。私はとにかくここのくるみパンが好きで、味だけでなく見た目も愛でている。まるく、手になじむ大きさで、ふんわりした食感にくるみが香ばしい。食べるたびに、バターもジャムもいらんなあと思う。
2月号の取材先が京都の喫茶店だったので出町柳駅で下車し、久しぶりに柳月堂の扉をくぐった。町のパン屋さんの風情は変わらないが、くるみパンも相変わらずで、レジ横の棚に大勢並べられていた。その光景だけで、パンを買って自転車をこぎ、京都を転げまわっていた日々が思い出されてくる。
柳月堂のくるみパン1個100円。
なつかしい、なつかしいと一つ購入して、ちょっと行儀はよろしくないが、出町柳駅と鴨川デルタをつなぐ河合橋の上でビニール袋のセロハンテープを剥がし、ひとかじり。あああこの味だ~と笑みがこぼれた瞬間。
すぱん、と音がして手からくるみパンが消えた。
はっとよみがえる過去の記憶。大学時代、同じく柳月堂で買ったくるみパンをデルタ付近でほおばっていると、頭上を優雅に旋回していたはずのトンビが気配なく背後から迫り、私の食べかけを引っ掴んで上空へと逃げ去っていったのだ。
同じ場所、同じシチュエーションに声も出ず唖然とするが、空を見上げても犯人の姿はもうない。まだひと口しか食べてなかったのに。あいつ、デルタの木の影で「おまえ全然成長してねえな」とあざ笑っているに違いない。
鴨川デルタに架かる河合橋。油断しているとトンビに襲撃される。
■店名
『ベーカリー柳月堂』
■詳細
【住所】京都市左京区田中下柳町5-1 柳月堂ビル1F
【電話番号】075-781-5161
Writer ライター
あまから手帖 編集部
amakara techo