羅臼昆布を閉じ込めたシンプルな一杯 / 京都『拳ラーメン』

羅臼昆布を閉じ込めたシンプルな一杯 / 京都『拳ラーメン』

曽束政昭の「一麺口福」

2022.10.05

文:曽束政昭 / 撮影:岡森大輔、曽束政昭、ハリー中西

京都で、いわゆるアキラ系ではない、幾重にも旨みを重ねたラーメンを得意としてきた店主が、真逆の発想で引き算の境地を開いた一杯。用いたのは、なんと羅臼(らうす)昆布だった。

目次

ポイントは、味の濃い羅臼(らうす)昆布 シメまで残したい沁みるスープ 店舗情報

ポイントは羅臼(らうす)昆布

秋風が吹くと、てっちり(ふぐ鍋)が食べたくなる気質である。鍋に欠かせぬ旨みの素といえば、昆布だ。雑多な家庭の鍋でも、大きめにカットした昆布を一緒に炊いて最後まで味わって、なんならそのシメの麺や雑炊まで昆布付きで楽しみ、最後はもっちり味が出て戻って表面が剥がれて、中のむっちむちの半透明の部分を食べて、いつまでも旨みを楽しみたい。それほど昆布の旨みには魅力がある。アミノ酸に引き寄せられるのは、体を作り整える働きがあるから、自然と体が欲求しているのだと、勝手に思っている。

その昆布の中でも、味は濃いが濁りも出る、昆布の暴れん坊将軍ともいいたいのが羅臼昆布。

店主・山内裕嬉吾(ゆきみち)さんは、ラーメンに用いる昆布を、現地まで足を運んで厳選した。何より風味と味の強さに惚れ、その旨みをきっちり引き出すために、前日から水でじっくり低温で炊く。淡口醤油も少し入るが、見た目は透き通った昆布ダシ。香りも立っている。キラキラと輝くオイルは、これも羅臼昆布を植物油で煮た昆布オイル。

京都『拳ラーメン』羅臼昆布かけそば(温・冷)ご飯セット1000円

京都『拳ラーメン』店内画像店内は、カウンター7席、テーブル8席。

シメまで残したい沁みるスープ

「動物系のものを使わず、どこまでできるか。というよりやってみたかった。海外からのお客さんも意識しました」と山内さん。

開発当初は昆布の佃煮をのせていたが、今はペースト状にして、よりダシなじみがよくなった。青シソのスプラウトを添えることで、昆布の風味も爽やかに引き立つ。

少し丸みを感じる細麺は、冷ならきゅっとシメられ、温ならしなやかさを増す。喉越しよく、昆布の風味をずるずるととろみを感じさせながら口へと運んでくれる。良質でナチュラルな味のスープと透明感のある麺は、少し物足りないかなという分量で入っている。

が、麺を食べ終わる頃に思ったのは、スープが足りなくなるのでは、という危惧。途中でぐいぐいスープに引き寄せられるのだ。少しでも飲み残しておいていただきたい。

実山椒を絡めた昆布の佃煮をのせたご飯がつく。その上から、スープをかけて、ダシ茶漬け風にしてサラサラと流し込む。提供された昆布の旨みを、一切逃さずに体に取り込む。随分幸せなことだと感じるのは、やはり本能的に体が求めているからなのか…。

京都『拳ラーメン』羅臼昆布かけそば(温・冷)ご飯セット1000円羅臼昆布かけそば(温・冷)ご飯セット1000円。ご飯の量は「ほんの一口で」と注文した。実際はもう少しちゃんと入っているのでご安心を。

ユーミンの「やさしさに包まれたなら~」のフレーズがぐるぐる回る。冒頭の我が家の鍋の昆布、子供の頃は父親がその昆布を食べている様を、不思議としか感じなかった。だが、今自分がその年齢になって以降は、当たり前のように昆布を食べている。この一杯の写真を見るだけで、昆布の醸し出す味や食感、思い出までもが頭に湧いてくる。

京都『拳ラーメン』外観の画像京都水族館、鉄道博物館、中央卸売市場近く。ちょっと行楽、の後に昆布の風味に包まれて帰りたい。

■店名
『拳ラーメン』
■詳細
【住所】京都市下京区正雀正会町1-16
【電話番号】075-351-3608
【営業時間】11:30~14:30、18:00~21:50LO
【定休日】水曜(祝日の場合は営業、翌日休)
【お料理】京鴨とノドグロ煮干しそば900円、但馬牛肉担々麺900円、瓶ビール小400円。
https://twitter.com/kobushi_ramen

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Writer ライター

曽束 政昭

曽束 政昭

Masaaki Sotsuka

京都府出身。関西のラーメンを中心に、うどんや蕎麦にも精通する、言わずと知れた麺ライター。「最近は食が細くなった」と話すも、「2杯ずつ連続2軒の取材なら守備範囲」。コメンテーターやレポートなどマルチに活躍中。

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