大阪『Udon Kyutaro』の「Typhoon」は、新感覚の東南アジア的うどん。

大阪『Udon Kyutaro』の「Typhoon」は、新感覚の東南アジア的うどん。

曽束政昭の「一麺口福」

2023.07.13

文:曽束政昭 / 撮影:高見尊裕

今年は台風が早かった。梅雨の始まりと終わりはいつも曖昧だけれど、夏の暑さを吹き飛ばすようなシビれる麺を食べたくなることだけは、はっきりしている。讃岐の完全手打ちうどんを大阪・船場に持ち込み、しかも立ち食いスタイルで提供する店にその麺はあった。

目次

讃岐クラシック技法と新世代のセンス。 店舗情報

讃岐クラシック技法と新世代のセンス。

香川・丸亀の『純手打ちうどん よしや』と高松の『手打十段うどんバカ一代』に修行のために単身赴任したという店主・太田博和さん。
デビューしたときから、「朝うどん」という讃岐文化と、完全手打ちの仕事をほどこしたうどんを目当てに連日盛況。今も出勤前と思しき人たちや、この店を目指して来た風のうどん好きたちで行列必死のご様子だ。

2017年秋の開店以来、人気店となってもう6年が経とうとしている。シンプルなかけうどんから、「ひやあつ」とも「ぬる」とも言われるうどんで、その実力を知るのもいい。太田さんのお母さん・指子さんが作るコロッケなど、揚げ物を選んであわせて楽しむのがこの店の日常である。

太田さんの師匠の一人、『よしや』の山下義高さんは、完全手打ちを守りつつ、「すだちひやひや」、豚肉を炙った「炙っていいとも!」などユニークなうどんを提供している。

太田さんは、その影響を受けながら、さらにブーストをかけたような創作うどんを次々と編み出した。
「ABURI」とは、煮込んだ豚モモ肉と炙ったバラ肉に柚子胡椒を合わせ、しょうゆうどん、かけうどんで味わえる。豚肉は宮崎ブランドポーク。
先月にお伝えした『き田たけうどん』が元祖のキムチとラー油をのせた「キムラくん」もある。これは「鶴橋のキムチ」シリーズとして、「キムラくん」と、焼肉のタレで肉を炙った「キムラゲンキくん」、温玉と合わせた「温玉キムチ」といった具合にバリエーションを広げながら展開する。
キーマカレーを鉢の半分に盛り付け、海苔の天ぷらで仕切った「IKI」は、あまから手帖2018年6月号「うどん新派」特集で表紙となった。

一躍関西うどんシーンの台風の目となった訳だが、今回紹介したい「Typhoon」も、今までになかったセンスが盛り込まれた一杯だ。

『Udon Kyutaro』の「Typhoon」「Typhoon」900円。グッと麺のコシを噛み締めると、一緒に何かしらの刺激や風味が広がって、うどんシーンの進化の進行形にあることを感じる。

『Udon Kyutaro』は毎月限定品を出しており、「Typhoon」も、もともと「アジアのやつ」というメニューだったが、あまりの人気に定番メニュー化された。

青唐辛子の薬味を豚バラ肉の上にのせた具に、クミンをふりかけた新タマネギのスライス、パクチー、スライスしたスダチ。ぶるんとしなやかさとコシを併せ持つうどんの麺に、昆布、カツオ、イリコの冷やかけダシ(温も選べるけど冷やで)。ダシの上にはラー油をドット柄のようにポタポタポタ。
混ぜながら食べると確かにアジア。讃岐から東南アジアの熱気を帯びた海の水蒸気に巻き込まれながらも、青唐辛子のギュンと口腔から脳天に走り抜ける辛さ、クミンやスダチの風味、ダシに混ざるラー油、全部まとめてうどんをヅルヅルー、で食べ終わった時の爽快感がすばらしい――。

古くは八尾の『釜揚げうどん一忠』(平成28年7月末日で閉店)店主も同じように讃岐へ単身赴任したことはうどん業界では有名な話。
『一忠』は釜揚げ専門の道を44年歩み続けたが、太田さんは「新たなうどんの創造を続ける」という道を選んだように見える。安易なようで、イバラの道にも見える。けれども、太田さんの飄々としたキャラが、それを感じさせない。むしろ常に刺激を求め、コミュ力も高く貪欲にカレー好きや料理店とのコラボを広げながら、うどん界の台風の目であり続けるのだろう。

「こんな台風なら、毎日でも直撃されてかまわんよなあ」と誰かを巻き込んで食べに行こう。台風一過の爽快感は、味だけでなく気分までもきっと。

『Udon Kyutaro』の店主と奥さま、スタッフ店は奥のカウンターで天ぷらなどを選んで注文。アイランドカウンターを囲んで食べる、半セルフ式。左から奥さまの里見さん、太田さん、スタッフのひろさわ君とまこちゃん。

■店名
『Udon Kyutaro』
■詳細
【住所】大阪市中央区久太郎町3-1-16 丼池繊維会館102南
【電話番号】080-2516-2680
【営業時間】7:00~10:00、11:00~15:00(売り切れ次第終了)
【定休日】日曜、祝日休 
【お料理】ABURI850円、かけ450円、しょうゆ450円、ぶっかけ450円。天ぷら100円、いなり150円、炊き込みご飯150円。

掲載号
あまから手帖2023年1月号/大阪案内。

Writer ライター

曽束 政昭

曽束 政昭

Masaaki Sotsuka

京都府出身。関西のラーメンを中心に、うどんや蕎麦にも精通する、言わずと知れた麺ライター。「最近は食が細くなった」と話すも、「2杯ずつ連続2軒の取材なら守備範囲」。コメンテーターやレポートなどマルチに活躍中。

Related article 関連記事