しなやかな麺の軸となる冷たいつけそば。大阪・西長堀『カドヤ食堂 総本店』
曽束政昭の「一麺口福」
冷水で締めた麺は旨い。カンカン照りでジリジリの日差しから逃れて麺屋に入ったら、季節ものの冷たい麺を探してしまう。喉越しよい麺は喉元過ぎても、しかと通過中の存在感を示す。その喜びを再確認したくなるのは真夏であると、食べ重ねるうちに知ったのは、街中で「冷やし中華始めました」の文字を目にした頃であった。
滑らかな優しい風味を存分に。
2000年代初頭、カドヤ食堂が今福鶴見にあった頃、「なんかすごいラーメン店があるらしいで」を確かめに行った。数年経ってから取材もさせてもらったのだが、食材の良さ、旨みの濃さにも驚いた。2009年に自家製麺をスタートして、ほどなく現在の地に移転。多くの弟子を輩出したが、いずれも人気店となった。
昼時を過ぎても、次々と客が訪れる。ここから多くの人気店が輩出された。
5~6年前だったか、キレキレのラーメン店として認識していたのに「冷やし中華」を始めた。ビジュアルは町中華のそれとさほど変わらぬ要素であったが、一つひとつのエッジな見た目にこれまた驚いた。ハイスペック冷やし中華の時代がはじまったのだが、今回はその一つ前の段階。「つけそば」(1350円)である。
「つけそば」、というより「つけめん」として世に認識されているであろう。一般につけ汁はドロドロかサラサラか。前者が鶏ガラや豚骨、脂で粘りあるタイプで、後者は透明感もあるスープに酢や一味など刺激をプラスしたタイプだ。
この店のつけ汁は後者にあたるが、旨みが強く深く、後を引く。チャーシューの旨さも、肉感と脂のバランスがたまらない。そこにツヤツヤでしなやかでプルプル揺れるような麺をつける。
つやつやの麺。希少な北海道産小麦「はるゆたか」の一等粉をたっぷり使った自家製。ゆえに、滑らかさ、しなやかさが素晴らしく風味も豊か。
盛り付けも美しく、箸で持ち上げるだけでこうして様になる。まずはそのままひとくち。
こちらはつけ汁。名古屋コーチン、かごしま純粋黒豚(霧島高原ロイヤルポーク)、天然羅臼昆布にムロアジ、ホタテ貝柱、甘みある鮭節など、細部まで特選食材。
つけ汁はそのままだと少し濃いくらい。麺を食べ終わったら出汁割りで最後まで飲める。中身が濃い。
名古屋コーチンは20年かけてやっと卸してもらえるようになった生産名人によるもの。豚肉も通常より2ヶ月長く育てられたかごしま純粋黒豚。サツマイモはもとより、芋焼酎の搾りかすなども与えられているという、なんか羨ましさがジワッと出てくる自分を認めたいのかく認めたくないのか。「毎日がプレミアム限定ラーメンのような当店の食材」と解説書きにある通りだ。
つけそばの利点、旨いだけではない。ムニムニのトロトロの豚足トッピングができるのだ。さらに、特製「そばつゆ」もオプションにある。麺量を大盛りにしておかないときっと後悔するだろう。すでに後悔しながらこの原稿を書いているのだから間違いない。
ラーメン店が本気で仕込んだ特製そばつゆで味変するのも一興。190円。
そして、なかなかお店に行けない人にも一つ、その気持ちを紛らわすアイテムがあるとお伝えしておこう。それが今年春発売された「キンレイ」の冷凍つけそば。カドヤ食堂店主・橘和良氏監修で、麺の再現度が凄まじい。つゆはコスト面を考えるとかなりの善戦。レンジで麺とつけ汁を解凍、冷水で締めた麺の仕上がりは、麺好きの間でも評判となっている。冷凍麺のレベルが「なんかすごいことになってるらしいで」と麺業界がざわついている。
店で食べる時も、家で食べる時も、冷たいエアコンにさらされた体や、冷たいものばかり飲んでやわな胃袋がワヤになっていても、内臓から小躍りして喜ぶこの麺をチャージすれば、きっと猛暑も乗り切れる。麺は冷たくてもつけ汁は温かく、出汁割りもとにかく染み入る。「つけそばや、麺に染み入る蝉の声」とでも詠みたくなるほど、そのおいしさに集中してしまう麺なのです。
ではまた次の麺ばなしの機会にお会いしましょう。曽束拝
■店名
『カドヤ食堂 総本店』
■詳細
【住所】大阪市西区新町4-16-13 キャピタル西長堀1F
【電話番号】06-6535-3633
【営業時間】11:00~17:00止
【定休日】火曜休(祝日の場合営業、翌日休)
【お料理】中華そば1080円、煮干し中華そば1080円、黒豚旨みそば1180円。
Writer ライター
曽束 政昭
Masaaki Sotsuka