人気の牛バラ麺を中華カレーで。
曽束政昭の「一麺口福」
庭木や道端の雑草たちが芽吹き始めてきた。風も緩くなる頃。目鼻がムズ痒い人にはスパイスが効くとか、血液サラサラにするにはアレコレ食べろとか、健康情報が溢れている。そんな時はスパイスがしっくりくる。しかもカレースパイスだけでなく中華とのミックスが、より深みを感じうまく、この一麺が口福への近道だ。
八角とあのスパイスが誘う。
前回に続き、神戸の麺を推したい。
広東料理の店が多い神戸。その中でも横浜などを経由して神戸で店を開いたのがこちらの店主・李松林さん。今は息子の順華さんにほぼ店を任せているそうだ。
右が店主・李松林さん、左が順華さん。薬膳を学んだ順華さんは、特製薬膳スープなどもメニューに加えた。
広東の家庭料理でもある牛バラ煮込み、それを使った中華風カレーもあり、1975年開店以来、いずれもライスと麺が人気だそうで。牛バラ飯、牛バラ拉麺と各カレーバージョンがある。
牛バラカレー拉麺1100円。牛バラ肉にレンコン、菜の花、ニンジンなど季節により入れ替わる。
ネギ、ショウガ、八角、シナモンなどを炒めて香りを立てたところへ、茹でこぼしてアク抜きした牛バラ肉を入れて炊く。味付けは醤油やオイスターソースに、少し砂糖で甘みを加えてある。
ベースのスープは牛骨の背骨、鶏ガラをメインに、これにも八角やローリエ、ネギ、生姜のほかにニンジンや大根と炊いてある。
合わせるカレー粉は神戸の中国料理店でよく見かけるS&B。缶のサイズは店ごとに違うが、広東系の店ではよく見かける。スープが中華スパイスの味付けでしっかりしているから、シンプル(というか馴染みある味)なミックススパイスの味がマッチしているのだ。
細めの卵麺も素直な味で、勢いよく啜れば、スープもカレーあんもよく引き上げてくれている。刺激は控えめながらもじんわり広がる風味と旨みの芳醇なこと。
さらりとしたスープなので細麺がちょうどいい具合。しなやかでプルリとした食感。風味はほんのり卵の香りで、スパイス感を引き立てる。
順華さん曰く「太麺だとウチのスープに合わないから」と細麺を近所の製麺所に特注している。この見た目より細めに仕上がる。
牛バラはしっかり肉感も残っているタイプで、ところどころとろける感じがいい。季節の野菜もたっぷり入ることで、(例によって?)罪悪感が軽減されるのもいい。
「去年の秋から淡路島の農園で自家栽培始めました。無農薬でね」と、ちょっぴりドヤ顔で教えてくれた順華さん。
レンコンやエリンギは仕入れるが、菜の花などは採れたてなのだ。スープや牛バラの風味に負けず、野菜の味わいがしっかりとしている。説明されてからはより野菜の力が強く感じた。いろんな風味や刺激や食材を集めているのに、それぞれが手を繋ぐように一つにまとまっているようで。
はっぴいえんどの 「風をあつめて」ではないけれど、風味を集めて紡がれた一杯だ。その余韻や「匂いでいっぱい」(これは大瀧詠一さんの「それはぼくぢゃないよ」)になりながら、「春よ来い」の歌詞ではないが、街が活気づくほんとの春の訪れはそう遠くはないはず。
最近神戸にいてらっしゃる松本隆さんに、会えるかもしれんと思いながら、トアロード沿いを歩いて帰ってみた。
鯉川筋から東へすぐ。ドア窓には広東餐館の文字。
紅を基調とした店内は円卓が並び、壁には中国の風景画や著名人のサインがびっしり飾られている。
■店名
『紅宝石』
■詳細
【住所】神戸市中央区下山手通3-5-9
【電話番号】078-331-6162
【営業時間】11:30~14:00、17:00~20:30
【定休日】火曜(予約可・要相談)
【お料理】野菜牛バラ汁そば1100円、牛バラ焼きそば1100円。紅宝石風牛バラカレーライス1100円。薬膳スープセット1700円。
Writer ライター
曽束 政昭
Masaaki Sotsuka