客が客をもてなす、メニューのない狭小日本酒カフェ『SAKE Cafe ハンナ』【前編】

客が客をもてなす、メニューのない狭小日本酒カフェ『SAKE Cafe ハンナ』【前編】

河宮拓郎の「ひとり居酒屋放浪記」

2023.04.20

文・撮影:河宮拓郎

目指してこなければまず見過ごしてしまう、控えめすぎる日本酒処が『SAKE Cafeハンナ』だ。少し混めば肩がふれ合い、客が主をイジり、客が客をもてなす濃密空間。その閉じた世界がとても愉しいのだが、スモールワールドの心地よさにはまり込んでヘベレケまで呑んでしまった私、かの「店となり」をしかとお伝えできるだろうか…。

目次

辿り着くまでの苦労の先に メニューはなくとも“便乗”があるさ 店舗情報

辿り着くまでの苦労の先に

すぐ隣には、かの予約困難店『食堂おがわ』、他にも、名の通った居酒屋、小料理屋が。
河原町通り、もしくは木屋町通りから細道を入ったこの界隈は、呑み助的にはベリーホットなスポットなのだが、『ハンナ』は簡単には見つからない。特に、通りを西から歩いてきた場合、東に向いた小さな看板を、まず一度は見過ごすことになるだろう。

どうにかたどり着いて、洒落た引き戸を開けると先客は5人。それでも、小さな店はまあまあミッチリとして見える。

『SAKE Cafe ハンナ』店内引き戸の先はこの景色。カウンターに座る客全員からの視線を受け、その背中にかすりながら奥へズリズリ、着席。初めての人はビビるかもしれないが、程なく両隣から話しかけられ、なんなら注文を取りもってもらうことになる。

メニューはなくとも“便乗”があるさ

久しぶりの私、やや怖じ気づいての着席となったが、右隣のお兄さんがすぐさま「お酒はどうします?」と訊いてくる。え、お店の人?
内心ギョッとしながら「あ、えーと、発泡モンで何か…」なんて言っていると、「私ひとりの店なので、手が塞がっているときは常連さんが他のお客さんの世話を焼いてくれるんですよ」と店主のハンナさん。

なるほど、私が客としてここを訪ねたのは、開店からそう間のない頃。それから10年余、“こういう”立派な酒処に育ったのだなと。
こういう、というのは、酒はもちろん料理の品書きまでなくなった、というのもそう。「メニューが多いと、私ひとりでは料理の手が回らないうえ、どうしても食材にロスが出てしまいます。食べものを捨てたくないので、書くのをやめちゃいました」。

じゃあどう頼めばいいのか。ハンナさんに「今日はどんなんあります」と尋ねてみるのもいいが、簡単なのは、他のお客の注文に便乗することだ。
というより、美味しそうなメニュー名を隣で発声されてしまっては、食べたくなるのだ、それも無性に。「あ、それこっちも!」。

酒は通常、お店オリジナルの陶器グラスで130㎖、700円から。
このラインを大きく外れるものを薦めるときには、値段を提示して伺いを立ててくれるので心配は要らない。

そして、ラインナップは常に高速で入れ替わっており、店の大定番を除けば、ある日の酒が次に訪ねたときにはもうないということがしばしばだ。
価格は入荷のつど、ハンナさんが瓶ごとに算出しており、以下、価格を表記しない酒については上記の価格帯前後に収まるものと思いなしていただきたい。

付き出し付出しの、スナップエンドウのマヨ明太和えと、ハンナさん曰く「(春たけなわの)この時期、酢味噌和えは皆さんよく食べてはると思うので」とホタルイカのナムル、菜の花ゴマ和え。つまみやすく、ボリュームもある先陣アテだ。

神開スパークリングなべかんむり長女一杯目、「神開スパークリングなべかんむり長女」は、グラス2杯分の300㎖瓶1400円での販売。「うちのレギュラーに近いお酒で、発泡のお薦めだけど、いろいろ呑みたいなら瓶は多過ぎですよねェ」とハンナさんが困れば、右隣の京大OBさんが「あ、僕に半分で割り勘しましょうよ」。男前~。

この日、初めから食べようと決めていたのは大定番のクリチーポテサラだけ。あとで登場する親鶏のネギソース、赤糸コンニャク、梅干しはいずれも、便乗か、お隣に薦められて頼んだものだ。

草とクリームチーズの酒肴ポテサラ私的キラーメニュー、草とクリームチーズの酒肴ポテサラ650円。クリームチーズとディルの清涼な取合せが、ベーコンでググッと食べ応えを増す。ヴィヴィッドな無濾過生酒系から熟成酒までなんでも来いの広大なフトコロ。

親鶏のネギソースと赤糸コンニャク(左)左隣さんが「今日、親鶏は?」、ハンナさん「ありますよ♡」。反射的に脇から便乗した、親鶏のねぎソース700円。締まった繊維の隅々までゴマ油が香る醤油ベースのソースが染みて、嚥下するまでに1分は楽しめる。 (右)やはりつられオーダーの赤こんにゃく明太子和え500円。「赤コンは京都でも売ってるけど、糸コンの赤いのはないねんなァ」と一つ向こうのお客さん。探したことはなかったが、そうなのか。染みただしと海苔で蕎麦のようにチュルン。

『青木酒造』の「米宗(こめそう)」純米吟醸うすにごり生酒と「萩の露」の純米吟醸 里山 生原酒(左)関西ではあまり見かけない愛知『青木酒造』の「米宗(こめそう)」純米吟醸うすにごり生酒。底の深い果実味と、かすかに舌を撫でる澱。ホタルイカにはどうだろうと思いきや、試してみればとてもいい相性。 (右)「萩の露」の純米吟醸 里山 生原酒。蔵のお膝元、滋賀・高島町は畑(はた)の棚田で育てられたコシヒカリで醸す酒。ポテサラと合わせると、ほのかにジュニパーベリーのような香りが湧く不思議。生原酒だが15%と低アル系。

さて、では本腰入れて呑みますか。
あれ? この連載の担当編集さんが遠くから何か叫んでいる。
なになに、「文章が長すぎるから今回はここまで!」だって。
これは失礼。程なくアップされるだろう後半戦へ続きます。

■店名
『SAKE Cafe ハンナ』
■詳細
【住所】京都市下京区四条通木屋町下ル船頭町203
【電話番号】075-351-0705
【Facebook】https://m.facebook.com/profile.php?id=508601189226005&__tn__
【公式ブログ】https://ameblo.jp/hannarihutatabi/
【Instagram】https://www.instagram.com/sayurihanna/
【Twitter】https://mobile.twitter.com/hannarihanna

Writer ライター

河宮 拓郎

河宮 拓郎

Takuo Kawamiya

食中に向く日本酒および酒呼ぶ肴を愛するが、「この酒、旨いわ!」「それ、前も同じテンションで言うてたで」を頻発させる健忘ライター。過去に取材した居酒屋は、数えていないがおそらく100軒には届かず。しかし、ロケハン(店の下見)総数はその数倍。それが「あまから手帖」。

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