カウンターの醍醐味を謳歌できる“美意識の居酒屋”。大阪『酒や肴 よしむら』

カウンターの醍醐味を謳歌できる“美意識の居酒屋”。大阪『酒や肴 よしむら』

河宮拓郎の「ひとり居酒屋放浪記」

2023.07.24

文・撮影:河宮拓郎

大阪の真ん中にあり、ご夫婦して酒への愛と造詣深く、アテも抜群。となれば店が流行るのは必定。手を広げようと思えばきっと大きなこともできそうな『よしむら』はしかし、移転リニューアルしても小体なままだ。なぜだろう? カウンターに肘を置き、酒肴の取合せに唸りながら考えた。

目次

任せずとも任されてくれる、盤石の酒食。 移転で際立った、主の願う居酒屋像。 店舗情報

任せずとも任されてくれる、盤石の酒食。

「どんな感じで呑まはります?」と店主の吉村康昌さん。最近は酒のセレクトをお店に頼りっぱなし。なんならアテまでおまかせのコース(6~7品・5000円)にしてしまってもいいのだが…。
「どないとでも。うち、月2回ペースで『独酌居酒屋の日』を設けてるんですよ。ひとり呑みで、酒とアテの合わせ方に思いをはせてもらえたらと思って」
なるほど、全体重を預けずに自分でも選び取るほうが楽しいですよと、これは酒呑みとしての自立を促されているな。しかしせめて、アテだけ先に全部選んで、酒は女将の仁実さんにあてがってもらおう。

以下、出てきた順だ。

『酒や肴 よしむら』付き出し付出しのもずくと秘伝豆とジュンサイ酢の物に、含みのある酸味が印象的な福島「おだやか」生酛 夏の純米吟醸90㎖600円。

『酒や肴 よしむら』白和えアスパラと春菊の白和え700円。ゴマが醸す強靱な旨みで、豆腐が珍味並みに酒を吸うアテになる。

『酒や肴 よしむら』造り造り盛り1800円は左手前から時計回りに、マナガツオ炙り、カツオ、アコウと、ひと切れだけ白アマダイ。血の甘み、白身の旨み、脂のりと味わい多彩。

『酒や肴 よしむら』アジのぬた和えたたかないアジのぬた和え700円。アジは軽く〆られて酢味噌と混ざり、複雑な旨みを漏らす。

『酒や肴 よしむら』酒蒸しこの宵の奮発メニュー、アコウ頭の昆布酒蒸し2000円。これに、温めすぎては台無しの「奥能登の白菊」。甘みが際立っている。

『酒や肴 よしむら』厚揚げ主菜の後のつまみにこれ以上があるか、と快哉を叫びたくなる揚げたて厚揚げ500円。醤油なしでも、ついもう一杯頼みたくなる酒との相性。

「ワインのペアリングやないから、お出しする前後の料理に“ざっくり合う”というくらいですよ」という口上を経て出てきた酒は…。

・福島「おだやか」生酛 夏の純米吟醸/冷酒
・宮城「黄金澤」山廃純米原酒 玉響(たまゆら)/冷酒と冷やの間
・島根「天穏」純米吟醸 馨(かおる)/冷や
・石川「奥能登の白菊」純米吟醸 無濾過火入れR1BY/人肌燗~ぬる燗

この微妙な温度帯の移ろい。この店にハマれる呑み助さんであれば、黙読するだけで喉が鳴るのではなかろうか。
「天穏」を用意するときに仁実さんが「お好みは燗です? 冷やもアリな感じ?」と尋ねてくれたのは、「うちは冷やもイケますよ」のメッセージか。なにせ、厨房で幅を利かせるふたつの大きな酒クーラー、その向かって右側は3℃設定だが、左側は14℃設定。酒を傷めず、かつ呑んで美味しい温度に保つために、わざわざ冷蔵用と同じ大きさのクーラーを1基備えているのだ。冷やがイケないわけはない。
しだいに室温に近づいていく酒の味わい、これまた微妙な移ろいであり、こういう演出を家呑みでやるかというと、まあ面倒でやらない。その小異を楽しむ贅沢が、この店では当たり前のように楽しめる。思えば、上燗に至らずぬる燗どまりであったのも、ジトジトに蒸す梅雨の宵、涼やかに呑ませようという心ばせが透けている。

移転で際立った、主の願う居酒屋像。

千客来来、間口のだだっ広い店かというとそうでもない。入店は3人連れまで。「声のトーンは控えめに」といった貼り紙で酔っ払いを牽制もする。なに、酒徒としての身の処し方をわきまえているなら何の問題もないのだが。
入口を多少絞ったとて、人気が出るに決まっているこの店は、2020年の改装で、いかにもお金がかかっていよう、品のいい設えになってもカウンター10席のみ。広い物件に越してテーブルでも置けば…とも思うのだが、営業マンから日本酒好きが高じて店を開いた吉村さんだけに、居酒屋の喜びを主客で共有したいという欲求は抑えがたく、その目的を果たすためなら過ぎた儲けは脇に置いていい、というくらいのスタンスだとお見受けする。

上記の酒食を平らげ、気づけば滞在3時間超。お勘定はこれで8000円台半ば。値打ちであること、論を俟(ま)たず。

『酒や肴 よしむら』カウンターパーソナルスペースは男性の肩幅プラスα。ちょい狭めだが、吉村さんの視界にお客を置いて楽しませるにはこのサイズが肝要だろう。手前の仁実さんは酒選びと給仕・燗つけを担当。この人も腕っこき。

■店名
『酒や肴 よしむら』
■詳細
【住所】大阪市北区天神橋1-13-21 ノモス天神1F
【電話番号】06-6353-4460
【Facebook】https://www.facebook.com/sakeyasakana.yoshimura/
【Instagram】https://www.instagram.com/sakeyasakana.yoshimura/

掲載号
あまから手帖2021年4月号/日本酒アップグレード(この店主、燗酒党。より)

Writer ライター

河宮 拓郎

河宮 拓郎

Takuo Kawamiya

食中に向く日本酒および酒呼ぶ肴を愛するが、「この酒、旨いわ!」「それ、前も同じテンションで言うてたで」を頻発させる健忘ライター。過去に取材した居酒屋は、数えていないがおそらく100軒には届かず。しかし、ロケハン(店の下見)総数はその数倍。それが「あまから手帖」。

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