京都『スター食堂』總本店が復活!100年の洋食文化を未来に

100周年という節目を迎えた京都の老舗洋食店『スター食堂』。寺町の地に、4月29日、40年ぶりとなる總本店が復活した。創業は1925年。“洋食を庶民へ”という志のもと、誰もが気軽に扉を開けられる場として歩んできた歴史が、いま再び動き出す。

100周年の節目に、總本店を再び“洋食店”に

寺町錦小路上ル。長年「WITH YOUビル」として親しまれてきた建物が「スター食堂ビル」となり、40年ぶりに『スター食堂 總本店』が復活。京都市内15店舗目として、そのアイデンティティとも言うべき總本店が100周年を彩る。

創業は1925年。アメリカ帰りの西村寅太郎氏が「洋食を庶民へ」という当時としては革新的な理念を掲げ、錦天満宮前で1軒の食堂からスタート。西洋文化がまだ一部の人のものだった時代に、誰もが気軽に洋食を楽しめる場をつくる。その挑戦は、京都における洋食文化の広がりと深く結びついていく。

昭和4年の開店当時の『スター食堂 總本店』。当時の「STAR」のロゴマークは、今も『レストランスター四条寺町京極店』で使われている。
床のチェッカー模様が印象。復活後はこの模様を再現した。
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1929年に寺町通に面する銀行跡地に總本店を構え、戦前から戦後にかけての激動期も乗り越えながら、「正直にあれ、公平にあれ、勤勉にあれ」という精神を軸に成長。チェーン展開を視野に入れた先進的な構想や、90年前にすでに存在していた詳細なサービスマニュアルなど、その経営思想は当時としては先駆的なものだったという。

1988年に総本店を改装し、食の館「WITH YOU」に。その後は時代の変化に直面しつつも、原点に立ち返ることで再び歩みを進めてきた。そして今回、100周年という節目に、WITH YOUを再び『スター食堂 総本店』として復活。過去を継承しながら未来へとつなぐ、新たなスタートを切った。

当時の床模様を取り入れるなど歴史へのリスペクトを込めて復活した總本店。
パーテーションで仕切りができる個室。
オープンキッチンで、鉄板焼のあるカウンター席はこれまでにはないスタイル。
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昔ながらの洋食からワインに合うフレンチまで

復活後、新たに供される料理は、長年親しまれてきた洋食を軸にしながらも、時代に寄り添うかたちで磨き上げられている。気取らず、それでいて手間暇をかけた一品ぞろい。グランドメニューもあるが、總本店の主流は、チーフを努める「吉田尚生シェフのメニュー」。その日に仕入れた食材を使った旬の野菜を炭焼きやフライなどで提供。コンフィやパテなど、フレンチの要素も取り入れられている。

ケチャップライスではなく、デミグラスソースで大人の味わいの「オムライス」1800円。
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自慢のメニューが並ぶ中で、吉田シェフがぜひとも味わってほしいとのは、「小さな炭焼きハンバーグパティ デミグラスソース〜卵のコンフィ添え〜」と「大海老のフライ」。

ハンバーグは他のメニューも楽しめるようにと、少し小ぶりに仕立てている。小ぶりとはいえ、肉の旨みがぎゅっと凝縮されていて、満足度は◎。大海老の大ぶりな身も海老フライ好きには大満足。フライに使われているソースは、京都の100年企業同士の「オジカソース」とコラボレーションした特注品。

小さな炭焼きハンバーグパティ デミグラスソース〜卵のコンフィ添え〜1200円。
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自家製マヨネーズを使ったタルタルソースもおいしい「大海老フライ」1200円。
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「本日の炭焼き野菜と前菜の盛り合わせ」2800円。この日は、自家製ハムのゼリー寄せ、豚と鶏のリエット、イサキのカルパッチョ イチゴソース、砂肝のコンフィ、フレンチサラミ、海老のマリネ、アジのサオール(南蛮漬け)など。2〜3人で取り分けてもいいくらいのボリューム感。
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自家製ベシャメルソースとトマトソースのブイヨンがよく合う「カニクリームコロッケ」1600円。
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ハンバーグをソースにする⁉ 贅沢なミートスパゲッティ

丁寧に挽き肉を捏ねてハンバーグを作り、フランベしながら焼き上げたと思ったら、なんと鉄板の上で潰す! という驚きのパフォーマンスを披露して仕上げたのは、ミートスパゲッティ。ソースに肉は入っているが、さらにハンバーグだねを加えて“追い肉”する。

麺と肉の割合が同等、と言えるぐらい、肉肉しいスパゲッティだ。

大人の贅沢洋食の一つ、「鉄板で仕上げた焼きミートスパゲッティ」2400円。
鉄板で焼き上げたハンバーグをフランベし……
潔くパレットナイフを入れて崩し、パスタに絡める。
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キム兄「昔、バイトしていました」。復活レセプション盛大に

4月28日、オープン前日には、メディアや関係者の復活レセプションが行われた。芸人であり料理人としても知られるキム兄こと木村祐一氏と、京都が誇る壁画絵師・木村英輝(キーヤン)氏をゲストに迎えた特別対談、總本店のお披露目が行われた。

かつてスター食堂でアルバイトし、「伝説の元店員」と呼ばれていたという縁を持つ。「ここが初めての飲食の現場でした」と振り返り、コーヒーの淹れ方からクロックムッシュ、カルボナーラのつくり方まで、現場で学んだ経験がその後の料理人生の原点になったと語った。

100周年記念レセプションでは、木村祐一氏(左から2番目)、木村英輝氏(中央)、スター食堂代表取締役・西村裕行氏(右から2番目)らが復活を祝った。
レセプションに駆けつけた木村祐一氏。「コック服を着たあの経験がなかったら今はない」と笑顔を見せる姿が印象的だった。
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京都を代表する壁画絵師キーヤンの描き下ろし作品も

当時は町家の木造建築が主流であった時代に、全面ガラス張りの「スターバー」を設計したのは、建築家として、スター食堂各店を手がけていた上野伊三郎氏。またその内部の天井には、妻の上野リチ氏により、銀地に色とりどりの草花が描かれていた。

1963年当時、京都市立美術大学教授であった上野リチ氏は、東京都日比谷の日生劇場地下のレストラン「アクトレス」の制作にあたり、4人の教え子たちに手伝わせた。その4人の中には、木村英輝氏がいた。

今回のスター食堂總本店復活にあたり、「アクトレス」制作を手伝った当時の4人の教え子が集まり、「リツ先生の図案の楽しさを今に伝えたい」との思いから復刻に携わった。

かつての恩師・上野リチ氏の壁画を復刻した木村英輝氏。
当時の壁画は、壁から天井へドーム状の立ち上がりがあったことからベースの内装をやり直し、リツ氏の世界観を再現。
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発見された“90年前のサービスマニュアル”

今回のリニューアルの過程で、90年前のサービスマニュアルが発見されている。「生きるとは呼吸することではなく、何かを成すこと」という言葉も記されており、「背中を殴られたような思いだった」と代表取締役・西村裕行氏。創業から受け継がれてきた精神である「正直に、公平に、勤勉に。そして挑戦を恐れない。一歩ずつ積み重ねていきます」と新たな決意を語った。

「スター食堂で初めてナイフとフォークを使った」という人々も少なくなかった時代。洋食を庶民にもたらし、人々の“笑顔のご馳走”を担ってきた100年の歴史を背負いながら、さらなる100年先の未来への新たな一章が始まった。

マニュアル自体が珍しかった時代の「サービス・リーダー」。これからの時代にも通じる心得や発見をもたらしてくれる貴重な資料。
復刻したマット。「連鎖店(チェーン店)」の語が時代を感じさせる。
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「ご要望が多いのでランチも始める予定です」と話す吉田シェフ。
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writer

中野 弘子

Nakano Hiroko

京都コーディネーターⓇ&フリー編集者。京都の月刊情報誌「Leaf」編集長時代に「町家でごはん」を企画。京都の日常暮らしから全国の伝統文化、エンタメなどを多数取材。著書「よそさんが心地いい京都」(交通新聞社)、ペンネーム古瀬ヒロ著「京都謹製きもの和こもの」「京都いっぴん日用品」(淡交社)などがある。