大阪・本町『422 BOOKCAFE & BAR』。歴史ある在阪の出版社が提案するブックカフェで、静かにページをめくるひと時を

近くにあったら入り浸ってしまいそうな居心地のよいカフェ&バーが5月、大阪のオフィス街にオープンした。1892年創業の老舗出版社が提案する、本と向き合える場である。

約1000冊の本に囲まれて

3月にプレオープン、5月にグランドオープンを果たしたこちらは出版事業をはじめて100年を超える『創元社』が自社ビル1階に開いたカフェ&バーだ。入口右手の棚には、同社が所蔵する貴重な書籍が飾られている。

昭和8年に同社が刊行した谷崎潤一郎の「春琴抄」は普及版と、漆塗りの特別装丁版。昭和15年発行、織田作之助の「夫婦善哉」の初版本など、思わず二度見してしまうほどの貴重なコレクションが並んでいる。

店名の「422」という番号は、出版社ごとに割り当てられる出版コード番号から。
10
中原中也「在りし日の歌」や、ジェラルミン装丁の表紙が珍しい横光利一の「時計」など。書体も素材もこれほど先鋭的なデザインで出版されていたのかと、近代文学ファンならずとも見入ってしまう。
10

店内は木目を基調としたモダンな空間で、およそ1000冊の本が常設されており、好きなものを手に取って読むことができる。ブックカフェ事業を任された同社の松浦利彦さんは開業に当たり、東京で人気のあるブックカフェを巡り、店づくりの構想を練ったそう。

「おしゃれでも、本が読みづらいのはいけない。配置はどうするか空間作りはどうするか。とあるブックカフェで、私自身、もう生涯読み返すことはないだろうと思っていた作家の本を手に取ったところ、不思議なほど没頭して読み進んでしまったんですね。空間のもたらす作用だなと実感しました」と語る。

10

そうして誕生したのがこちらの店内。席はバーカウンターと、低めの椅子を配したテーブル席、ベンチシートのテーブル席などが設けられている。また、ゆっくりと過ごしてもらえるよう、利用客にはできるだけ縛りがないように心がけたという。 例えば、最近のカフェでは長居しないよう、席の利用時間に限りがあったり、パソコンを持ち込んでの作業禁止など、店ごとのルールが増えた。

『422 BOOKCAFE & BAR』は本との出会いを楽しむ場であることから、何か1つドリンクやフードを注文すれば、どれだけ滞在しても構わない。また図書館ではなく「カフェ&バー」なので、おしゃべりもOKだ。携帯電話での通話やWeb会議など他のゲストの邪魔になることは控えてほしいとのことだが、比較的自由で、Wi-Fiも完備、作業も可能だ。

大阪のオフィス街の中に誕生した、隠れ家のような空間は、静かに本を読むにも、考えをまとめるにも、文章を書くにもよさそうだ。

バーカウンターも素敵。1人でふらりと訪ねても落ち着いて過ごせる。
10

本とフードのプロを迎えて

店内の各所に書棚があり、ジャンルごとに分類された本が並んでいる。関西にゆかりのある作家の小説に、関西の食や音楽、落語に漫才などカルチャーに関する本が並ぶ棚。絶版で、書店ではもはや出会うことができない貴重な本なども『創元社』の書庫や編集者の蔵書から陳列されている。難しい書籍ばかりではなく、写真集や図鑑などもあるので、ただページを手繰るだけでも気分転換になる。またカウンター席には文庫本がさりげなく置いてあり、手に取ってみたくなるようなレイアウトになっている。

大阪・兵庫・京都出身の作家の書籍が並ぶコーナー。
10

本のセレクトを任されたのは、元書店員の乾 智紀さん。話を聞いていると30代前半とは思えないほど文学からカルチャーまで、知見が広い。町の書店や古書店、図書館ともまた違う、書籍の数々に店のカラーが表れている。棚を巡って好みの一冊を探す時間が宝探しのようで楽しい。書籍は今後も少しずつ入れ替えていく予定。訪ねるたびに新しい出会いが待っている。

書籍を担当する乾さん(左)と店長の中垣秀夫さん。
10
10

ドリンクやフードも充実している。レストランやカフェで料理を担当してきた中垣秀夫さんがメニューを考案。「できるだけオーガニックのものや国産の食材を取り入れて、体に優しくヘルシーなものをお出しできたらと思っています」。

定番メニューの「たっぷりトマトのリングイネ」は、自家製のトマトソースに、プチトマトと「アメーラトマト」2種のフレッシュトマトをプラスした特製パスタ。プリプリと弾力のある生麺に、このソースがよく絡んでひと口ごとに旨みが広がる。ドリンクは自家製のレモンシロップで作るレモンスカッシュをオーダー。ソースやシロップなども店内で手を掛けて仕込んでいる。

軽食やスイーツとセットでドリンクを注文すれば300円引きになるというのも嬉しい。

「たっぷりトマトのリングイネ」1200円。「自家製レモンスカッシュ」は単品オーダーなら800円。セットの場合は500円。
10

1日を通じて自由な使い方を

黙々と本を読んでいる人もいれば、界隈のビジネスマンが、昼休みにパスタやカレーを目当てにやって来て、さっと食べて店を後にする姿も。フレンチトーストなどスイーツもあるので、友人と午後のティータイムなど、1日を通して、様々な使い方ができる。

アルコールは、11時30分のオープン時間から楽しめるが、夕方17時からのバータイムでは提供種類がぐっと増え、酒のつまみのフードも充実していく。帰宅前に一杯飲んで、少し本を読んで、頭をリセットしてから家路に就くのもいい。

オリーブのマリネ400円。「ハウスグラスワイン(赤)」はイタリアのメルロー700円。
10

目まぐるしいスピードで展開する日々のなか、デジタル疲れの現代人が増えている。おいしいドリンクや、お酒を味わいながら、ページをめくり、心を落ち着けリラックスするひと時は、とても豊かなものである。

『創元社』発行の書籍が並ぶカウンター。入口近くには販売の棚もあるので、購入も可能。
10