レコードバー『泥』で懐かしの昭和歌謡にテンション爆上がり!
世代を超えて人と音楽がつながる夜
店に入ってすぐ、思わず足を止めた。
レコード棚に並んでいたのは、渡辺美里のシングル盤。
学生時代、カセットテープに録音して何度も聴いた曲たちだ。ジャケットを目にした瞬間、一気に青春時代へ引き戻される。スマートフォンもサブスクもなかった時代、好きなアーティストの新譜を心待ちにしながらレコード店へ通った日々。そんな記憶が鮮やかによみがえった。
店があるのは、西院の路地に佇む古いビル。内装デザインを手掛けたのは、京都を拠点に国内外でインテリアデザインや店舗プロデュースを行う「everedge」井上拓馬氏だ。『RECORD BAR 泥』も、建物が元々持っていた魅力を無理に塗り替えず、吹き抜けのある立体的な構造やガラスブロック、鉄骨の質感など、昭和の建築が持つ独特の空気感を残しながら、個性的なネオンサインなどを加えることで現代的な感覚へと更新している。古いものと新しいものが自然に同居する、その絶妙なバランスが格好いい。
渡辺美里を聴きながら、語り合う
懐かしいレコード盤に反応していると、店主の13ELL(ベル)さんが「好きなら聴きますか?」と声をかけてくれた。おもむろに棚から取り出してかけてくれたのは、渡辺美里のLP盤。ターンテーブルに盤が乗り、静かに針が落ちる。ほんのわずかな間合いを経て、「夢を追いかけるなら〜たやすく泣いちゃだめさ〜♪」と、スピーカーから流れ出す歌声にテンションが上がる。
カウンター越しに話しかけてくれたのは24歳のバーテンダー。年齢差を感じるかと思いきや、音楽が間にあるだけで、世代の違いは案外関係なくなるものらしい。近所の飲み屋の話から、人生観やタイを旅した話にまで広がった。
21時を過ぎて、一人の男性客が訪れた。聞けば、この日、店にレコードを寄贈したという。また音楽がかわり、ターンテーブルから流れるのは「シャネルズ」、のちの「ラッツ&スター」。続いてカーペンターズ……。懐かしい音楽が流れるたびに、表情が少しずつほころんでいく。
針を落とす。そのひと手間が心地いい。
いま音楽は、スマートフォンひとつで何千万曲も聴ける時代になった。けれど、その便利さと引き換えに失ったものもある。誰かと同じ曲を聴く時間。ジャケットを手に取りながら語る時間。音楽をきっかけに知らない人と話す時間。「泥」にいると、そんなことを思う。
店名の「泥」一文字のネオンサインが存在感たっぷり。由来は、泥水の“泥”、形を持たず変化する“泥”、そして英語の“Day”を重ねた響き。人が集まり、その時々で表情を変えていく場所になればという思いが込められている。
スタッフは音楽関係に関わる若い世代の男女10名が所属。三者三様のセレクター、歌謡曲や様々な音楽を愛する人が訪れ、ここで初めてレコードの音に触れる人もいる。そうした人たちが少しずつ混ざり合いながら、この場所の空気感をつくっている。
data
- 店名
- RECORD BAR 泥(デイ)
- 住所
- 京都市右京区西院高山寺町12-6
- 営業時間
- 20:00〜4:00
- 定休日
- 不定休
- 交通
- 阪急西院駅から徒歩2分
writer
中野 弘子
Nakano Hiroko
京都コーディネーターⓇ&フリー編集者。京都の月刊情報誌「Leaf」編集長時代に「町家でごはん」を企画。京都の日常暮らしから全国の伝統文化、エンタメなどを多数取材。著書「よそさんが心地いい京都」(交通新聞社)、ペンネーム古瀬ヒロ著「京都謹製きもの和こもの」「京都いっぴん日用品」(淡交社)などがある。
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