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摩耶山で夜景をスルーし、水道筋の名店『高田屋旭店一色屋』へ/六甲山編その4

「登山の後の一杯は、登頂にも勝る至福の瞬間!むしろそれ目的に山に登る」と語る“酒飲みハイカー”ミツルさんとアラフォーの自称山ガール・おばやしが、初心者向けトレッキングと「下山後すぐに酒が飲める店」を訪ね歩く。

今回は六甲山最高峰への足がかりとも言える標高702mの摩耶山を目指す。山頂の掬星台(きくせいだい)は夜景で知られるデートスポットだが、ミツルとおばやしという中年ハイカーコンビの目的は夜景ではなく、あくまで街に煌(きら)めく下山後の酒場だ。

厳しい急登が連続する天狗道

ミツル

六甲山の山行も4回目。いよいよ六甲山最高点への足がかりとして、今回は標高702mの摩耶山攻略を目指しましょう。


これまで登ってきた旗振山、須磨アルプス、再度山の2倍近い標高です。少々手強い山となりますが、標高931mの六甲山最高峰を登頂するためには、やはりこの山は避けて通れません。おばやしさんの今の実力を知るためにも最適な山と言えます。

おばやし
お、おう! 私もこれまでの山行で、体力がついたと思いますから、気を引き締めて挑みたいところ。なめてもらっちゃあ困る!
ミツル

うむ。その前向きな姿勢がよろしい。では今回のコースの説明をしましょう。スタートは新神戸駅。駅のすぐ脇から続く遊歩道を通って、『おんたき茶屋』、『紅葉の茶屋』を過ぎ、稲妻坂、天狗道を経由して、夜景スポット・掬星台で知られる摩耶山山頂を目指す片道約2時間半のコースです。


下山は約1時間半。ただしロープウェイとケーブルを使って下ることもできるので、山頂での疲労度を見てから下山方法は決めましょう。

おばやし

茶屋をランドマークにした説明ではさっぱり分からないですが(この人、どんだけ茶屋好きやねん)。とはいえ、ロープウェイとケーブル!なんて素敵な響きでしょう。急に心が軽くなりました♪

ちょっと気がかりなのは、稲妻坂や天狗道など、なにやらいわくのありそうな道の名前…。大丈夫かしら。

ミツル
ロープウェイとケーブルと聞いて目を輝かせるとは、相変わらず生ぬるい。道の名前の由来は行けばわかります。さあ、行きますよ!
摩耶山ルート
本日のルート。新神戸駅から遊歩道を経て、稲妻坂~天狗道を歩き、摩耶山山頂へ。下りはロープウェイとケーブルも利用可能。下山後は阪急王子公園駅近くの水道筋商店街にある「高田屋旭店一色屋」を目指す。果たして、おばやしは自力で下る選択をするのか!?
おばやし
新神戸駅からちょっと山側に入っただけで、豊かな自然に包まれるなんて、神戸って本当に素敵なまちですね!道も整備されていて歩きやすい…て、およよ!なんで急な階段の道の方へ行くんですか。しんどいんですけど!
摩耶山
ミツル
むむむ~。今日に限って布引の滝へと続く緩やかな道が、あいにく通行止めで致し方ない。その分標高と距離が稼げると思えば、不幸中の幸い、いや幸い中の不幸か。
おばやし
それってただの不幸では? あ、みはらし展望台ですよ。早速休憩を取りましょうよ。スタートからたった15分でこの眺望!山頂からの眺めもさぞかしきれいでしょうね~。
ミツル
ほんと休憩が大好きね…。さあ先を急ぎましょう。この先、稲妻坂までは緩やかで歩きやすい道が続くから、ここで休憩するほどでもないですよ。
五本松のかくれ滝
1900(明治33)年に作られた五本松ダムのダム湖・布引貯水池がオーバーフローした時にだけ流れ出る「五本松のかくれ滝」。

夜景じゃなくても楽しめる屈指の眺望

おばやし
フフフン~♫。平坦な道、だぁ~い好き! あ、布引貯水池にカモさん一家が浮かんでますよ!きゃわいぃ~♥
ミツル
なんですかそのテンション?ついていけませんよ。野鳥観察もいいですが、この周辺は分かれ道も多いのでしっかり道標を確認してくださいよ!
摩耶山
天狗道へと繋がる稲妻坂への分岐は「新市ケ原砂防ダム」の看板を過ぎてある古い道標が目印。
おばやし
は、はい!ひ~分岐から急に傾斜がきつくなってきた!木で階段状に道は整備されているけど、つづら折りがどこまで続いている!も、もしやこのジグザク上の急登から“稲妻坂”という名前がついたのかしら!?
ミツル
稲妻坂の由来は定かではありませんが、この先の天狗道も厳しい急登です。一説によると、稲妻や天狗しか駆け上がることができないほど急な道とも言われています。天狗道に関しては、かつてここを山伏が修験のために歩いたそうで、その姿が天狗に見えたことが由来らしいですよ。
おばやし
出ました!得意のネット情報!
ミツル
人の揚げ足をとるより、しっかり自分の足元に注意して登ってください。
天狗道
学校林道との合流地点を過ぎると天狗道は岩場の急な上りが続く。所によっては滑りやすい岩場もあるので足元に注意!
おばやし
うぬぬ。一時間近くずっと登り…マジきつい! え? ここで下って…あ、また合流地点。なになに「掬星台(コロコロ坂)」!? まだ坂が続くんですか!
摩耶山
山頂直下合流地点からコロコロ坂を見上げるおばやし。この先の石段を登りきれば山頂はすぐそこ。
ミツル
この先のコロコロ坂は整備された石段で歩きやすいですよ。これを登りきって車道に出れば山頂です。さあ、もう一踏ん張り。
おばやし

コロコロ坂ってかわいい名前!のくせに、しぇ~しんどい!!よっこいしょ!
あ、車道ですね。え~と山頂は?あ、「摩耶山三角点」の道標がありました。これに従って車道からまた森に入って…。ン?ここが山頂ですか?全然眺めが良くない。

ミツル
摩耶山の三等三角点があるこの場所(標高698.6m)が正式には山頂になります。ただ夜景で有名な掬星台はここから約10分先にあります。
おばやし
なんか拍子抜けですけど、仕方ありませんね。ではもうちょっと歩くとしますか。あ、開けた場所に出ました。ここが掬星台!わあ~すごい眺め。これまでの眺めとは高度感が違います!弧を描いた大阪湾がよく分かる。夜景もきっときれいなのでしょうね~。
摩耶山掬星台
「登山当日はあいにくの曇り空ながら、大阪湾の絶景を堪能できました」(おばやし)

水道筋に燦然と輝く老舗酒場『高田屋旭店一色屋』

ミツル
うわ!雨がぱらついてきました。これはロープウェイとケーブルを乗り継いて、急いで下山したほうがよさそうです。
おばやし
(ヤター!!!)いやぁ雨はしょうがないですよね!下りも歩く気満々だったのにぃ。麓のケーブル駅からは坂バスで王子公園まで下りちゃいましょうよ!
ミツル
うむ。今回は致し方ない。それでは水道筋にある『灘温泉 水道筋店』で冷えた体を温めると同時に、「背が縮む」と言われるほどの水圧で噴射される打たせ湯にでも打たれるとしますか。『高田屋旭店一色屋』は灘温泉のすぐ隣りにありますしね。
高田屋旭店一色屋
水道筋商店街のアーケードを抜けた場所にある『高田屋旭店一色屋』。
おばやし

あ~温泉気持ちよかった・・・。マジであの打たせ湯で背が縮むと思いましたよ。


では、気を取り直して乾杯しましょう! あ、ここはやはり瓶ビールですかね? え~と中瓶(550円)がアサヒスーパードライで、大瓶(650円)がサッポロの赤星だ。しかも生はアサヒマルエフで大(800円)、中(550円)、小(380円)という今や希少とも言える三役揃い踏み! ビールのバリエーションだけで、老舗酒場としての矜持を感じさせます。

じゃあ、赤星で乾杯!ぷは~!下山後に加え湯上がりはお酒の味をさらにおいしくしてくれますね!

ミツル

ほほう。おばやしさんもなかなか目が肥えてきましたね。飲む姿も肥えてきた?い、いや失礼!


ところで『高田屋』は、同じ屋号の居酒屋が現在神戸市内に3軒あります。それぞれ同門ながら経営は別ですが、いずれも古き良き正統派の大衆酒場です。一説によると、かつては『高田屋』系の店が暖簾分けで増えて、40軒近くもあったそうですよ。


ちなみにこちらの創業は1926(昭和元)年。100年近くの歴史を誇る老舗です。高田屋から分店した『高田屋旭店』で修行した初代が『一色屋』として独立。そこで『高田屋旭店 一色屋』と名乗るようになったようです。現在は四代目の橋本匠平さんを中心にご家族で切り盛りされています。


しょうへい、あけみ、かーこ、やす、と下の名前で呼び合いながらテンポよく仕事する風景は、家族ならではの阿吽の呼吸。実にアットホームですな~。

高田屋旭店一色屋
おばやし

はいはい、説明は分かりましたから。
え~と、じゃあ私はおいしそうなおでんを頼もうかしら。大根、キンチャク、玉子、厚揚げお願いしま~す! ん? 辛子と白味噌ダレをどっちにするかって?ダブルでお願いしまーす。

ミツル

10数種類が揃うおでん(110円~)は外せません。おでんは低カロリーでお腹にも溜まるからヘルシー。上品なだしとほのかに甘い白味噌ダレが合いますよね。ここはやはり熱燗と行きましょう。熱燗二合(一合450円)と追加のアテはだし巻き玉子(400円)で!

こちらの基本の日本酒は灘の酒蔵『福寿』の五風十雨(ごふうじゅうう)。しかも味わいある湯煎機で燗付けしてくれるのが嬉しいですね。 あえて二合で頼んだのは、決して量を飲みたいからではなく、熱燗一合でキレのある味を、冷めてきたぬる燗一合で優しくふくらみある味を楽しむため。真の酒飲みとはそこまで計算しているのです。

おばやし
私は串カツ(400円)と揚げシューマイ(400円)、それに山芋短冊揚げ(450円)を!う~ん、揚げ物最高! え?さっきなにか言ってました?酒飲みがどうたらこうたら。
ミツル

……まあいいです。どうです、このだし巻き玉子の無駄のないフォルム。つややかでふっくらした肌はプリンとした弾力もある。卵本来の味とだしの風味がお見事。もう、添い寝したいほど愛おしいな~。
ん?酔っ払いだと? いやいや夜はこれからですよ。さあて、水道筋は魅惑的なお店がたくさんありますからね。そういや小粋なバーもあったはず。ちょっくら先に失礼しますよ。

おばやし

出た得意の食い逃げ。もう手口は分かっていますから、そうはさせませんよ。ここも二軒目もしっかり払ってもらいますからね。
あ、女将さん、領収書は私宛でお願いしま~す!

高田屋旭店一色屋

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藤川 満

藤川 満

神戸在住のフリーライター。全国各地の低山と酒場をフィールドに飛び回る。日本酒をこよなく愛し「日本酒では全く酔わない」が口癖。

おばやし零余子

おばやし零余子

兵庫県宝塚市在住の独身アラフォー編集者。酒と酒場好きで、年々大きくなる身体に危機感を覚え山登りに目覚めるが、一向に痩せる気配なし。最後の晩餐は雑煮。

脱力系山歩き酒飲み連載「下山go酒場」

ベテラン酒飲みハイカー・ミツルと、初心者ハイカー・おばやしが下山後の至福の一杯を求めてトレッキング。

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