門上武司の旅vol.9:長浜の古民家『ビワコラージュ』で、滋賀×イタリア料理。

年間1000軒以上外食する、関西を代表するグルマン・門上武司。その食欲は、御年70歳を過ぎてなお旺盛だ。「アレが食べたい」と頭をよぎれば、もう居ても立っても居られない。日本全国どこへでも、トランクひとつで東奔西走。拠点の関西を飛び出して、各地の美食を訪ねる旅企画「皿までひとっとび」。第9回目は、滋賀・長浜のイタリアン『ビワコラージュ』へ。

戦国時代に思いを馳せ、イタリア料理と出合う。

滋賀・長浜『ビワコラージュ』内観
滋賀・長浜
長浜の市街地を流れる米川。
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滋賀・長浜は羽柴秀吉が初めて城持ち大名となり開いた城下町。石田三成の生地であり、浅井長政は居城の地とするなど、戦国武将とゆかりの深い町である。その名残を感じさせる古の街並みは今も残っている。JR長浜駅から歩くこと約15分、古い街道沿いにイタリア料理店『ビワコラージュ』はある。

歴史を感じさせる建物。それを巧みに生かした家具の配置。随所に工夫が凝らされているのが分かる。カウンター席はシェフズテーブルともいえる。厨房内のシェフの動きが全て見える。
シェフの市山技(たくみ)さんは大阪や京都の名店で料理長を歴任した料理人である。縁があり、この地で料理を作ることになったのが2020年末。4年強の歳月が流れ滋賀の食材や生産者とのネットワークもかなり広がってきた。

滋賀・長浜『ビワコラージュ』カウンター
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目の前でスープ「黄金色」が仕上がってゆく。
「20ℓの大量の鶏ガラを10時間煮込んで14ℓに、そこに胸肉のミンチや卵白、玉ねぎなどを加えて透明に仕上げ、3日かけて8ℓになります」。
そこに鰹節を加え漉したスープはいわば市山シェフのご挨拶。口に含むとコクと香りを感じ、滋味が身体に染み渡ってゆく。シェフの料理の受け入れ体制は整ったと思ったが。

スライサーで自家製生ハムを極薄に切ると、それをおもむろに掌に乗せられた。手の温度で透明感が増す。食べると品格のある柔らかな甘さが口中を覆う。うっとりしたところで焼き立てのパンにバターと生ハム。これは禁断の味わいである。2種の異なる脂分とコク、甘美な味わいが喉を通る時に頂点を迎えた。 「これは召し上がっていただきたい一品です」とシェフがすすめてくれたのは「地人参のババロワ」。サラッとした口当たりから、口中温度で甘さがどんどん増してくる。この変化は楽しい。

滋賀・長浜『ビワコラージュ』自家製プロシュートと滋賀の恵
「自家製プロシュートと滋賀の恵」。滋賀の恵は、滋賀県産小麦と余呉の湧き水で仕上げた自家製パン。料理はすべてランチ「Chef’s Table Pranzo」8500円から。スープ「黄金色」と自家製生パスタを含む全8皿のシェフのおまかせコース。
滋賀・長浜『ビワコラージュ』地人参のババロア
「地人参のババロア」
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琵琶湖の文化と西洋の融合

続くはシェフが滋賀県という地域の文化と西洋の融合を考えた結果であろうアプローチ。
カウンターに置かれたのは円盤形の料理。一瞬デザートかと思う。なんとフォアグラと鮒すしのマリアージュ。軽やかに焼き上げられたサブレに鮒すしの飯とフォアグラを挟む。飯の微かな発酵の香りとフォアグラの甘みが渾然一体となり、最後に干し柿の味わいがやってくる。
ブルーチーズと蜂蜜や熟れた果実のような一般的に合うような感じであるが、フォアグラと鮒すしというのは、これまであまり味わったことのない味覚のプレゼンテーションともいえる。シェフに興味が湧いてくる。

滋賀・長浜『ビワコラージュ』フォアグラと鮒ずし飯と干し柿
「フォアグラと鮒ずし飯と干し柿」
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モッツァレラとホワイトソースの伊吹蕎麦クレープ包み。下にはモッツレラを作るときにできるホエとザワークラフト、地元『富田酒造』の酒粕を使ったソースが敷かれている。ここでも発酵文化はしっかり表現されている。

イタリア料理を象徴するパスタには、滋賀県産ブレンド小麦と卵を使った生パスタを使い、茹で時間を短く歯応えが残る麺の硬さに仕上げていた。ソースは魚介のエキスを生かしたペスカトーレ。赤座海老の味噌の旨みやムール貝のコク、ホタテの甘さが印象的。

滋賀・長浜『ビワコラージュ』伊吹蕎麦のクレープ 七本槍酒粕とキャベツ
「伊吹蕎麦のクレープ 七本槍酒粕とキャベツ」
滋賀・長浜『ビワコラージュ』伊吹蕎麦のクレープ 七本槍酒粕とキャベツ、持ち上げ
滋賀・長浜『ビワコラージュ』自家製生パスタ
パスタは毎日シェフ自ら製麺している。
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「この地域で暮らすようになり、5年近くになります。滋賀には、発酵といった先人が培った食文化があり、まだまだ知らないことのほうが多いですが、少しずつそこからヒントをいただき、ここならではの料理を作りたいと思っています」と話してくれた。その思いをひしひしと感じる料理ばかりであった。

滋賀・長浜『ビワコラージュ』自家製生パスタ
自家製生パスタは、魚介のオイルベースパスタ「パスタフレスカ・フルッティ・ディ・マーレ」。
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門上 武司

kadokamitakeshi

関西の食雑誌「あまから手帖」編集顧問。年間外食350日という生活を30年以上続けるも、いまだ胃袋健在…。ゆえに食の知識の深さはいわずもがな。
食に携わる生産者・流通・料理人・サービス・消費者をつなぎ、発信すべく、日々奔走している。