門上武司の旅vol.17:鶏に鯛に豚。安住しない新・ご当地ラーメン、徳島『とりとたい 鳴門店』
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鶏&鯛でスープをとる
前回紹介した上勝町『ペルトナーレ』を後にして、徳島市内に向かう。
道すがら、15年ほど前に訪れた市内の自家焙煎コーヒー店『アアルトコーヒー』のことを思い出した。調べてみると、庄野雄治さんが営む本店は移転していて、もとあった場所には妻のえつこさんが『14g(ワンフォージー)』というコーヒーを中心としたセレクトショップを開いていた。ここで深煎りのブレンドを購入し、目指すラーメン店に車を走らせる。東京のあるラーメンフリーク氏から話を聞いていた、『とりとたい 鳴門店』という店だ。
夕方の開店と同時に店に入る。ガラスを多用し、天井が高い開放的でシャープな空間である。製麺室までガラスで覆われており、いわゆるラーメン屋らしさからは遠い店構え。
名は体を表すと言うが、こちらのスープは、濃厚な鶏白湯(パイタン)に鳴門海峡名産の鯛を使うもの。つまり「とりとたい」である。僕は「味噌鶏白湯」ラーメン、同行のカメラマンは「特製とりとたい」ラーメンを頼み、やはり徳島・和田島産のしらす丼を二人でシェアすることにした。
考え抜かれたマッチング
「味噌鶏白湯」のスープを口にしてみると、麺に絡む濃厚な白湯の旨みを追いかけて、味噌のコクが口中に行き渡る。いわゆる味噌ラーメンとは一線を画するスープだ。
麺は自家製、多加水系でプルプルとした弾力を備える中太麺である。スープだけを飲むと味噌の主張をしっかり感じるのだが、麺と一緒になると、麺に寄り添うスープであることが分かる。
続いて、カメラマンの「特製とりとたい」を分けてもらう。鶏白湯+鯛だしのスープは濃厚だが、キレがよくあっさりした後味だから、中太麺の味わいはよりクリアに伝わる。このスープと麺のマッチングが店の基点なのだな、と得心がいく相性だ。
チャーシューには「阿波尾鶏」と徳島県産の銘柄豚「阿波とん豚」のバラとモモ肉を使用。「阿波とん豚」は上品でスッキリした甘さ。この甘みでスープと麺の味わいがグッと高まる。チャーシューだけをもう少し食べたくなったぐらいである。
「鶏白湯は定番のスープですが、ここに鳴門の鯛だしを加えることで、クリーミーでもくどさは感じないでしょう」と店長の町田寛和さん。全くその通りだ。
「ご当地食材を使う」だけじゃない
魚介のスープは、魚の鮮度がよくないとどうしてもくさみが出てしまうものだが、ここのスープはその気配が微塵もない。地産の食材だからとただ鳴門の鯛を使っているわけではない、という気概を感じてしまうのである。
そして、新鮮さはしらす丼も同様。濃厚なラーメンの合間に食べるには最適な、あっさりした潮気が嬉しい丼であった。
徳島県産の食材を使いながら、従来の徳島ラーメンの枠に収まらない新味のある一杯を提供したい、という意思を強く感じるラーメン店である。各食材の鮮度や質にまでこだわる姿勢は、これからのご当地ラーメンの向かうべき方向を示唆していると言えるだろう。またその思いは、店構えにもはっきり現れている。
ラーメンマニアに的を絞らず、広く県内外の老若男女に楽しんでもらいたいという思いがかたちになった『とりとたい』。旅の帰りに立ち寄る一軒として、とてもいい選択だと思う。
data
- 店名
- とりとたい 鳴門店
- 住所
- 徳島県鳴門市撫養町大桑島字濘岩浜48‐60
- 電話番号
- 088-624-8185
- 営業時間
- 11:00〜15:30、17:00〜20:00(土・日曜、祝日は通し営業)
- 交通
- JR鳴門駅から徒歩17分
- 席数
- カウンター6席、テーブル18席、テラス席4席 ※テラス席のみペット可
- メニュー
- とりとたいラーメン980円、特製とりとたいラーメン1580円、味噌鶏白湯ラーメンは1050円、和田島産しらす丼650円。
- 外国語メニュー
- 英語、中国語

writer

門上 武司
kadokamitakeshi
関西の食雑誌「あまから手帖」編集顧問。年間外食350日という生活を30年以上続けるも、いまだ胃袋健在…。ゆえに食の知識の深さはいわずもがな。
食に携わる生産者・流通・料理人・サービス・消費者をつなぎ、発信すべく、日々奔走している。
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