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門上武司の旅vol.17:鶏に鯛に豚。安住しない新・ご当地ラーメン、徳島『とりとたい 鳴門店』

年間1000軒以上外食する、関西を代表するグルマン・門上武司。その食欲は、御年70歳を過ぎてなお旺盛だ。「アレが食べたい」と頭をよぎれば、もう居ても立ってもいられない。日本全国どこへでも、トランクひとつで東奔西走。拠点の関西を飛び出して、各地の美食を訪ねる旅企画「皿までひとっとび」の第17回は、徳島・鳴門市『とりとたい 鳴門店』へ。

鶏&鯛でスープをとる

前回紹介した上勝町『ペルトナーレ』を後にして、徳島市内に向かう。
道すがら、15年ほど前に訪れた市内の自家焙煎コーヒー店『アアルトコーヒー』のことを思い出した。調べてみると、庄野雄治さんが営む本店は移転していて、もとあった場所には妻のえつこさんが『14g(ワンフォージー)』というコーヒーを中心としたセレクトショップを開いていた。ここで深煎りのブレンドを購入し、目指すラーメン店に車を走らせる。東京のあるラーメンフリーク氏から話を聞いていた、『とりとたい 鳴門店』という店だ。

夕方の開店と同時に店に入る。ガラスを多用し、天井が高い開放的でシャープな空間である。製麺室までガラスで覆われており、いわゆるラーメン屋らしさからは遠い店構え。

徳島『とりとたい 鳴門店』内観
2022年オープン。洒落たカフェのような造りに、ここがラーメン店であることを忘れそうになる。
徳島『とりとたい 鳴門店』スタッフ
写真中央が店長の町田さん。スタッフはみな若く、受け答えにも活気があふれる。
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名は体を表すと言うが、こちらのスープは、濃厚な鶏白湯(パイタン)に鳴門海峡名産の鯛を使うもの。つまり「とりとたい」である。僕は「味噌鶏白湯」ラーメン、同行のカメラマンは「特製とりとたい」ラーメンを頼み、やはり徳島・和田島産のしらす丼を二人でシェアすることにした。

考え抜かれたマッチング

徳島『とりとたい 鳴門店』味噌鶏白湯ラーメン
味噌鶏白湯ラーメンは単品1050円、和田島産しらす丼とセットで1700円。鶏白湯スープに北海道味噌と土生姜のオイルを加え、ブレンダーで乳化させたスープが特徴。
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「味噌鶏白湯」のスープを口にしてみると、麺に絡む濃厚な白湯の旨みを追いかけて、味噌のコクが口中に行き渡る。いわゆる味噌ラーメンとは一線を画するスープだ。
麺は自家製、多加水系でプルプルとした弾力を備える中太麺である。スープだけを飲むと味噌の主張をしっかり感じるのだが、麺と一緒になると、麺に寄り添うスープであることが分かる。

徳島『とりとたい 鳴門店』特製とりとたいラーメン
看板メニューのとりとたいラーメンに、3種のチャーシューをトッピングした特製とりとたいラーメン1580円。麺は独自ブレンドの小麦粉に鳴門の海塩を練り込んだ平打ち麺だ。
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続いて、カメラマンの「特製とりとたい」を分けてもらう。鶏白湯+鯛だしのスープは濃厚だが、キレがよくあっさりした後味だから、中太麺の味わいはよりクリアに伝わる。このスープと麺のマッチングが店の基点なのだな、と得心がいく相性だ。
チャーシューには「阿波尾鶏」と徳島県産の銘柄豚「阿波とん豚」のバラとモモ肉を使用。「阿波とん豚」は上品でスッキリした甘さ。この甘みでスープと麺の味わいがグッと高まる。チャーシューだけをもう少し食べたくなったぐらいである。

徳島『とりとたい 鳴門店』スープ
鳴門鯛を炊いてとった、いわばフレンチのフュメ・ド・ポワソンを鶏白湯に合わせ、セロリと合わせて煮込んだまろやかなスープ。
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「鶏白湯は定番のスープですが、ここに鳴門の鯛だしを加えることで、クリーミーでもくどさは感じないでしょう」と店長の町田寛和さん。全くその通りだ。

「ご当地食材を使う」だけじゃない

魚介のスープは、魚の鮮度がよくないとどうしてもくさみが出てしまうものだが、ここのスープはその気配が微塵もない。地産の食材だからとただ鳴門の鯛を使っているわけではない、という気概を感じてしまうのである。

徳島『とりとたい 鳴門店』和田島産しらす丼
和田島産しらす丼は、清らかなシラスの味わいにご飯が進む。卵黄を崩すとにわかにまったり。
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そして、新鮮さはしらす丼も同様。濃厚なラーメンの合間に食べるには最適な、あっさりした潮気が嬉しい丼であった。
徳島県産の食材を使いながら、従来の徳島ラーメンの枠に収まらない新味のある一杯を提供したい、という意思を強く感じるラーメン店である。各食材の鮮度や質にまでこだわる姿勢は、これからのご当地ラーメンの向かうべき方向を示唆していると言えるだろう。またその思いは、店構えにもはっきり現れている。

徳島『とりとたい 鳴門店』スダチ酢、ニンニク酢、煮干し酢
卓上には味変のために、スダチ酢、ニンニク酢、煮干し酢が。スダチは言わずもがな、徳島産だ。
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ラーメンマニアに的を絞らず、広く県内外の老若男女に楽しんでもらいたいという思いがかたちになった『とりとたい』。旅の帰りに立ち寄る一軒として、とてもいい選択だと思う。

徳島『とりとたい 鳴門店』ロゴ
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各地の美食を訪ねる
門上武司の旅企画「皿までひとっとび」

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writer

門上 武司

kadokamitakeshi

関西の食雑誌「あまから手帖」編集顧問。年間外食350日という生活を30年以上続けるも、いまだ胃袋健在…。ゆえに食の知識の深さはいわずもがな。
食に携わる生産者・流通・料理人・サービス・消費者をつなぎ、発信すべく、日々奔走している。