
近藤芳正さん×柳 裕章監督【前編】京都のカフェで“人生のやり直し”を描く群像劇
イメージ通りのカフェを発見
京都の下町、公園に隣接する一軒のカフェを舞台に“人生のやり直し”を温かに描いた群像劇「事実無根」。いつ誰にだって降りかかる可能性がある事実無根の罪と、どこの家にだって大なり小なり潜んでいる家族の問題に翻弄される父娘の姿を、リアルかつ絶妙な掛け合いで見せる物語です。
――この物語は、ロケ地となった『そのうちcafe SNC』がとても重要な役割を果たしていますね。
- 柳監督(以下、柳):
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『そのうちcafe SNC』は、人と人が出会う場所。僕がたまたま通りかかって見つけた隠れ家のようなこの空間が、物語の舞台としてこの上なくしっくりきました。
子どもが自然と寄り付くような店づくりをされていて、映画監督になるという道を諦めて、余生をゆったり過ごしている主人公・星(近藤さん)が構える店そのもの。この出会いには、本当に感謝しています。
――マスターとして店を切り盛りする近藤さんが、あまりにも自然に子どもたちと触れ合っていたので、なんの違和感もなかったです。
- 近藤さん(以下、近藤):
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私は役どころそのままに彼らと接していただけです。
子役のなかにはやんちゃな子もいて、本気で喧嘩するから(笑)。監督が喧嘩の仲裁に入って、悪い子をちゃんと叱ってえらいなぁって。役者への演技指導って監督それぞれですが、ほかにも、途中から参加した役者に対しても緊張を解しながら、しっかりと狙いを伝えて、上手くいくまで根気強く説明されている姿を見て、実はビックリしてました。役者としては関係性が出来上がっている現場にポンッと入るのは難しいものなんですよ。
- 柳:
- 恐縮です。
「関西弁は共通語より緊張します」
――撮影において印象に残っていることや、苦労されたことはありますか?
- 近藤:
-
役づくりはそんなに困らなかったけど、とにかくセリフが多くて。しかも関西弁。これには苦労しましたね。京都生まれの家内にもチェックしてもらって、家でも練習しました。
他の地域の方言って、「しゃべってくれてありがとう」って言われることが多いんですが、関西弁となると関西の方々は厳しい(笑)。正直、共通語より緊張します。
- 柳:
- 撮影前半の頃、昼休みに近藤さんが茉凜(新人アルバイト・大林沙耶役)を誘って食事に行かれてたって話を聞いた時は、 嬉しかったです。
- 近藤:
- 近所の定食屋に何度かね。
- 柳:
-
緊張している相手への心遣いというか、作品に寄り添っていただいている気持ちが嬉しくて……
新人でまだ現場にも慣れてないから気にかけてくださってるのは彼女も分かってるんですけど、 後で聞いたら「嬉しかったけど、会話が少ないから……」って言ってて(笑)。 微笑ましい映像が浮かびました。でも、近藤さんの気遣いのおかげか、ふたりが初めて一緒に食事をする場面は、距離がちょっと縮まるような、少しぎこちない空気感が印象的なシーンになったと思います。
名優ふたりのアドリブにガッツポーズ
――おふたりのお気に入りのシーンを教えてください。
- 近藤:
-
村田さん(元大学教授のホームレス・大林明彦役)とのやりとりは新鮮でしたね。
彼が部屋に押しかけてきてピザを食べるシーンでは何回もNG出したりして(笑)。でも2人とも慌てることなく、まったりと進んでいって、「ベテランになったなぁ」なんて思ってました。長回しで撮ってると、舞台をやってるかのようで、空気感が出やすいので面白かったです。
- 柳:
-
あのシーンは、試写でご覧になった方から「ふたりとも泳いでいるようなお芝居でした」という感想をいただいて。
まさにそんな感じでしたね。さっき話した近藤さんと茉凜がカレーを食べるシーンも好きですが、近藤さんと村田さんがビデオを見ながら娘のことを思いだして泣いているのは印象的でした。あれは、脚本にはなかったシーンなんですよ。
- 近藤:
- あー、あれはね、意図せず(涙が)出ちゃった(苦笑)。
- 柳:
- オジサンふたりがめそめそ泣いてる様子に、撮っていて思わずガッツポーズをしました!
――撮影エピソードは尽きないものの、話題は京都での暮らしについて流れていきます。柳監督は2015年に、近藤さんは2019年に、拠点を京都へ移されました。移住組のおふたりが語る京都の魅力とは? どうぞ後編もお楽しみください。
【作品名】事実無根
2月21日(金)~3月6日(木) 京都・京都シネマ
【公式サイト】https://jiji2mukon.com
【X】@JIJI2MUKON
【Instagram】@jiji2_mukon
【YouTube】@jiji2mukon
企画・製作:一粒万倍プロダクション
profile

俳優
近藤芳正
愛知県出身。1976年の「中学生日記」出演をきっかけに、1981年劇団青年座研究所に入所。映画「ラヂオの時間」をはじめ、三谷幸喜作品に数多く出演。その他の主な出演作品に、NHK朝の連続テレビ小説「カムカムエブリバディ」「ブギウギ」「雲霧仁左衛門」(シーズン3から出演)、「おやじキャンプ飯」など。京都が大好きな角野卓造さんと京都を呑み歩くKBS京都「おやじ京都呑み」も人気。“ラ コンチャン”として舞台のプロデュースも手掛け、ときには作・演出にも関わる。俳優向けのワークショップも主宰するエンターテインメント界のオールラウンダーであり名バイプレーヤー。2019年10月、結婚を機に拠点を京都へ移した。東京サンシャインボーイズ復活公演「蒙古が襲来」(京都劇場・3/13~16ほか地方公演多数)に出演。

映画監督
柳裕章
群馬県出身。父親の転勤で茨城・千葉で幼少期を過ごし、早稲田大学人間科学部に進学するも中退。一般企業でのサラリーマン経験を経て、バンタン映画映像学院に入学。卒業後はフリーとなり、吉田啓一郎監督、五十嵐匠監督、佐々部清監督、熊切和嘉監督、山下智彦監督などの助監督として、100を超える映画やテレビドラマの現場で研鑽を積む。2015年に、京都へ移住。2021年、テレビ朝日「科捜研の女」season21第12話で初監督を務めた。
writer

椿屋
tsubakiya
映画は「ひとり、劇場で!」がモットーの映画ライター。2024年鑑賞数は267本。人生の映画ハシゴ最高記録は1日7本。各媒体で、着物・グルメ・京都ロケ地といった切り口のレビューを担当する。超大作から自主映画まで、ノンジャンルな雑食。
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