小林かなえさん【前編】飾りたくなるレシピBOOK「シェリーのお菓子」のこと

今回のゲストは洋菓子研究家の小林かなえさんです。パリへの製菓留学を経て、1997年に地元・京都でお菓子教室「ラ・プティ・シェリー」を立ち上げ、全国から生徒さんを集めるほどの評判を集めてきました。現在はビスキュイとパフェ、それぞれの専門店を運営しています。今年1月には、世界的アーティスト・ヒグチユウコさんのイラストが目を引くレシピ本「シェリーのお菓子」(文化出版局)を上梓しました。オープン前のビスキュイ専門店『CHÉRIE MAISON DU BISCUIT』にお邪魔し、この美しい1冊についてお伺いしました。

秘蔵レシピを惜しみなく公開

―近著「シェリーのお菓子」は、どんな経緯で手がけられたのでしょうか?

小林さん(以下、小林):
とある取材がきっかけで「本を作りたいね」という話が出ていたんですが、今回の版元の「文化出版局」が、ちょうど「お店を構えた今のかなえさんの本を」と企画していたそうなんです。まったくの偶然ですが、そういうタイミングだったんだなと思います。
シェリーのお菓子
ヒグチユウコさんのカバーイラストが目を引く「シェリーのお菓子」(文化出版局)

本をめくる小林かなえさん

―ビスキュイのお店『CHÉRIE MAISON DU BISCUIT』のオールスターがレシピごと掲載されていてワクワクします。

小林:
お店の看板であるビスキュイサンドのレシピは、家で作りやすいよう少しアレンジ。他にも、型がなくても少ない材料ですぐ作れるスコーンや、1本の型でバリエーションが楽しめるパウンドケーキなどのレシピを公開しました。基本の生地をマスターしたら、いろんな味に応用できるように構成しています。
焼き菓子20種に加えて、ビスキュイサンドのクリーム各種もご紹介。普段お菓子を作らない人でも「いつか作りたいな」と思ってもらえたら嬉しいですね。
シェリーのお菓子

眺めて幸せになれる、絵本のような一冊

―レシピブックでありながら、表紙がお菓子の写真でなく猫ちゃんの絵とは!

小林:

世の中にレシピ本はいっぱいあるし、レシピだけならネットで検索すれば何でも見つかりますよね。なので、目で見て楽しんでもらえるよう絵本ぽくしたらかわいいんじゃないかと思ったんです。
ハードカバーで小さめのサイズにして、表紙も絵にしたいな、って。そこでお願いしたのが、去年ビスキュイ缶のイラストを描いていただいたヒグチユウコさん。コラボ缶と同じく「猫」でおまかせして描き下ろしていただきました。私の愛猫、LEOがモデルなんです。


情報はネットでほぼ事足りるし、紙の本を買わない人も増えたけど、だからこそ「家に飾りたいな」と思ってもらえるものにしたかったですね。なかなか猫のイラストが表紙のお菓子本もないし、書店の料理書コーナーで目立つみたい(笑)。

小林かなえさん

―特別な一冊として大切にしたくなりますね。中面の写真やスタイリングも、ナチュラルな雰囲気で素敵です。写真集でもあるような。

小林:

撮影はすべて、お店の2階にある厨房で行いました。大理石の作業台や白いタイルを生かしたり、パリで買ってきた「アスティエ・ド・ヴィラット」のお皿をお菓子の雰囲気によって使い分けたり。あえてスタイリストさんを入れずに、自前のものだけでコーディネイトしています。


中面の写真や構成が出来上がってからヒグチさんに渡して、挿画を描いてもらいました。写真に絵を重ねる、という案も出たんですが、フォトグラファー・わたなべよしこさんの優しげな写真をしっかり見せたくて、お菓子を紹介するテキストのみのページに猫の絵を添える形にしています。

店内
店内にも飾られている本は、インテリアとして空間に溶け込んでいます。飾っておきたくなるレシピ本、いつか作りたいなと思うお菓子ばかりです。

後編では、ビスキュイサンドの誕生秘話や今後の展望をお伺いしました。パティシエであり、お菓子の魅力を最大限に引き出すプロデューサーでもある小林さんの視線に迫ります。