
小林かなえさん【後編】名作ビスキュイサンドに込めた思い。これからの『CHÉRIE』
前編では、近著のレシピブック「シェリーのお菓子」への思いを語っていただきました。後編は、行列ができる名作・ビスキュイサンドにまつわるエピソードを中心に伺います。
contents
手土産にしたくなる特別なお菓子
―2019年にビスキュイのお店『CHÉRIE MAISON DU BISCUIT』を開店されました。どんなきっかけで、ビスキュイというお菓子をテーマにされたのでしょうか。
- 小林さん(以下、小林):
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10年前ほど前、店のある建物の2階にお菓子教室を移転し、私にとって理想的な空間を作りました。1階は空けておいて、いずれお店をやれたらいいなって。子育てが少し落ち着いて、じゃあ何を作ろうかと思った時、よく取材で「かなえさんが京都の手みやげにしたいものは何ですか?」と聞かれることが多かったのを思い出しました。
それで、「自分が手土産にしたくなるお菓子を作るのが一番いいんじゃないか」と思って。普通のケーキ屋さんはしたくなかった。
―手みやげというコンセプトありきのビスキュイだったんですね。
- 小林:
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実は、最初に作りたかったのはパッケージ。手土産やおもたせに持っていきたくなる可愛い缶や紙袋を作りたいなというのがあって「それに合うお菓子は?」「自分が東京に持って行くなら?」みたいな感じです。
時期的には“缶ブーム”のちょっと前ぐらいかな。紙箱だと捨てるけど、缶は捨てないでしょう?
―こんな素敵な缶、絶対に捨てられません! 普通のクッキーの詰め合わせでなく、クリームたっぷりのビスキュイサンドというのも心憎いです。
- 小林:
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長くお菓子教室をやっていると、生徒さんの反応のいいものがよく分かるんです。教室でバターサンドを作ったことがあったんですが、すごく喜ばれて。
バターサンドといっても、ビスキュイとクリームがしっとり一体化というより、サクッとした食感の方がいいなと。そこを追求して、今のビスキュイサンドが完成しました。
―缶にギュッとおさまっている姿も、抜群の可愛らしさですね。
- 小林:
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缶に入るビスキュイのサイズはもちろん、缶の色も写真を撮られる想定で決めました。真上から撮ったとき映えるよう、縁が赤いデザインでオーダーして。缶の中に敷くグラシン紙も、底から一枚で上までカバーするタイプが一般的だけど、蓋を取って開けたとき紙がビロンとはみ出していると缶自体が見えない。
だから下と上で別々の紙を入れて、写真を撮るとき上の紙だけ取れるようにしたんです。
撮らなくても、開けた時に可愛い方がいいでしょ。おみやげだから、おいしさプラス見た目の可愛さも大事。
―好評を博して生産量が増えても、ビスキュイ作りはすべて手作業と聞きました。
- 小林:
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例えば生地の型抜きも、機械化しようとするとそれに耐えるダレにくい材料や配合にしないといけない。
それじゃ意味ないでしょう? スタッフたちも同じ気持ちでいてくれます。
腱鞘炎になりそうですが(笑)、一枚ずつ手で型抜きしています。発酵バターやチョコレートなどの材料も値上げ続きですが、特別な一品であり続けるために、これからも品質を落とすつもりはありません。
30周年を目前に、キャリアの現在地
―1997年にお菓子教室をスタートして、30年近くトップランナーとして活躍してこられました。
- 小林:
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母がアシスタントとしてサポートしてくれるお菓子教室は、ずっと自分の活動の軸でした。以前5年ほどパティスリーをやっていて、出産などを機に閉店したんですが、その後も「お菓子、買えないんですか」という問い合わせが多くて、またお店ができたらいいなと思っていたんです。
『CHÉRIE MAISON DU BISCUIT』に続いて、2023年にはデセールパフェのカフェ『CHÉRIE MAISON DU PARFAIT』をオープンしました。こちらはフレッシュな旬のフルーツや、目の前でお作りする出来立て感を楽しんでもらいたいですね。今はお店が忙しすぎてレッスンはお休み中ですが、「シェリーのお菓子」の出版を記念して何年かぶりに教室を開催したら、100人ぐらいの方に参加していただけたんです。嬉しかったですね。
―最後に、これから取り組んでみたいお菓子や気になることを教えてください
- 小林:
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お店に立っていて思うのは、季節感のあるお菓子がみなさん好きだなって。2月にチョコレートのお菓子を出したら、その後はさっぱり味わえる柚子のお菓子を提案したり、季節感をいっそう大事にしたいですね。それと、今までは抹茶を使った商品をあえて作ってこなかったんです。
お店のテイストがフランスというのもありますが、京都だからこそ「安易には触れんとこ」って。今年は抹茶とか、京都らしい素材を使ったお菓子も使ってみようかなと思っています。
―小林さんが手がける抹茶のお菓子、今から楽しみです! ありがとうございました。
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