子どもとごはんvol.17:老舗料亭で日本の食文化を体験。京都『山ばな 平八茶屋』

子連れでの食事は、行き先を選ぶもの。連載「子どもとランチ、ときどきディナー」では、お子さまウェルカムなお店をご紹介。

今回訪れたのは、若狭街道沿いの茶屋として安土桃山時代に創業し、旅人が名物の麦飯とろろ汁を食べたという『山ばな 平八茶屋』。創業から440年を経た今、「団欒の場」として子ども連れも多い。料理人による日本料理を盛り込んだ子ども用の料理をはじめ、庭園や設え、サービスなど全てにおいて日本の文化を体験できる稀有な場所だ。

時代を超えて家族を迎えてきた料亭へ

繁華街の河原町から車でわずか20分走ると、鮮やかな紅葉や美しい緑が次第に増え、山深くなってくる。若狭街道沿いに突如現れる風格のある門「騎牛門(きぎゅうもん)」が見えると、そこが『山ばな 平八茶屋』だ。約600坪あるという風光明媚な庭園に足を踏み入れるとしっとり緑の香りに包まれ、まるで異世界だ。

騎牛門
別世界への入り口、「騎牛門」。
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春は桜やツツジ、秋には紅葉、四季折々の表情が楽しめる庭には、邸内に湧く井戸水が流れ、優雅に鯉が泳ぐ様子も子どもが喜びそう。
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あの芸術家・北大路魯山人も愛したという数寄屋造りの座敷「奥の間」へ入れば、見事な掛け軸や季節の花のしつらえに迎えられ、その格式高さに「子ども連れはいいのだろうか?」と躊躇するだろう。

しかし「うちは家族団欒で過ごす場なんです」とにこやかに話すのは、21代目の園部晋吾さん。「お宮参りにはじまり、お食い初めや七五三、法事など、お子様と一緒に来ていただき、ご家族で成長を祝うなど楽しんでいただきたいですね」と話す。

個室は6畳〜14畳まで6つの部屋が。写真の「奥の間」は、北大路魯山人も愛した高野川を望む数寄屋造りの平家。昭和10年の川の氾濫で流されて再建した建物で、伝統的な吊り天井や手延べガラスの窓、見事な床柱など、見どころが随所に。
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お子様ランチの定番と日本料理を織り交ぜて

昔から子どもを受け入れている『山ばな 平八茶屋』だが、子ども用のメニューが誕生したのは約20年前。お客の要望から生まれたという。

「昔はだし巻き卵や焼き魚など、お子様も食べられる料理を単品でご注文いただいていましたが、お客様のご要望があって。
ならば、お子様に喜んでもらえる内容にしようと考えたのが、幼児から小学校低学年向けの童弁当やそれ以上のお子様向けの幕の内。
日本料理ばかりでは食べられないお子様もいると思い、皆が大好きなお子様ランチの定番の品と日本料理の入り口となる品を併せました」

童弁当2750円(サービス料別)。「子ども向けだから」という妥協は一切なく、むしろ初めて本物に触れる機会だからこそ細部にまで料理人の丁寧な仕事が輝く。内容は季節によって変わる。 デザートにはアイスクリームが。
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子どもが大人と同じ日本料理を楽しむ意味

「童弁当」は子どもが大好きなエビフライや鶏の唐揚げ、トマトスパゲッティに、サツマイモのシロップ煮やだし巻き卵、生麩や湯葉に京都らしさを感じる季節の焚き合わせや焼き魚まで。

特に焼き魚は醤油や酒、みりんで作る甘辛いタレをかけながら天火で焼き上げる「つけ焼き」に。鶏肉に魚のすり身や卵白などを合わせて型に入れ、表面にケシの実を散らして焼く「鶏の松風」なども入り、日本料理の技術や美意識が凝縮。

弁当に彩りを添えるキヌサヤでさえ、茹でてから丁寧に引いたカツオと昆布だしの地に浸し、シャキシャキとした食感と青い風味に出汁の香りが品良くふわりと漂う。

高野川を望む
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「お父さんやお母さんと一緒のものが少しずつ入っているのがポイントで、同じ味を提供することに意味があると思っています。会話のきっかけになれば」と吸い物は大人と同じものを小さな椀で。吸い口の柚子が漂い、出汁のおいしさがしみじみと広がるその味わいは、親として子に体験してほしい日本の食文化そのものだ。

さらに「おにぎりしか食べないお子様もいるので」と、シンプルな塩むすびがたっぷり供されるのも嬉しい限り。随所に実感する、老舗のホスピタリティに圧倒される。

文化を受け継ぐ「お食い初め」

「料亭として、日本の食文化や日本の慣習を次の世代に伝えたいと思っています」と話す園部さん。

そうした強い思いから、先の子ども向け弁当に加えて提供しているのが赤ちゃんの健やかな成長を願う「お食い初め」のお膳だ。
赤ちゃんの性別で色が違う膳や献立とその意味合い、作法などを女将の典子さんが、大女将の道代さんから受け継ぎ、さらに古い文献をあたるなどして学んだ風習をホームページにまとめたところ反響が。

「お食い初め」の予約があった際は個室を用意し、家族でゆっくりと過ごせるように配慮。もちろん、伝統的な風習の意味や作法も丁寧に教えてくれるという。

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こうした取り組みを行うなか、園部さんが「嬉しかった」と話すのが、若い夫婦と赤ちゃんの3人で行っていたお食い初め。上の世代に促されるのではなく、若い世代が自らの意思で伝統の慣習を重視して行なっていたその光景に「文化を受け継いでくれていると感じ、取り組んで良かったと思う瞬間でした」と園部さんは話す。

「お子様が小さい頃から料亭に足を運ぶことは大切です。味の濃い食事ばかりではなく、日本料理を知って好きでいて欲しいですよね」

初めての日本料理を体験できる子ども用弁当や家族の記憶に刻まれるお食い初めなど、「食文化の体験」を通し、美しい日本の慣習を次の世代へとつないでいる。

子連れに嬉しいポイントまとめ

・子どもメニューがある
・お食い初めの膳がある
・子どもイス、ハイローベビーチェアあり
・畳の個室あり
・アレルギー対応可能

【お食い初めの時のみ】
・Sサイズのおむつあり
・おむつ用のゴミ箱あり

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writer

佐藤 良子

satoryoko

料理取材に徹して20年の食ライター。歴史が好きなため、料理史の観点から見るレストラン取材がライフワーク。日々賑やかな小学生2児の母。
instagram@ryocosugar