‟変えない“職人、京都『割烹 𠮷膳』の優しくて美しい味

「繰り返すことで磨かれる技や感覚を、大切にしたいんです」と、おっとり語る店主の岡本佳幸さん。京都・高台寺近くの『割烹 𠮷膳』では、半世紀かけて熟練された、凄みと透明感に溢れる料理をいただけます。

店主の和食歴は約50年

店主の岡本佳幸さんは、1956年山口生まれ。地元の料亭で3年働いた後、享保年間創業の料亭『鳥居本』に長く身を置いて、1991年に祇園エリアで独立しました。

移転を経て、現在店を構えるのは高台寺北門前の小さな通り。「ふと気づいたら独立して33年。和食の道に入って50年近くが経っていましたね」と微笑む岡本さん。柿渋色の落ち着いた暖簾が、派手さを好まない岡本さんの穏やかな人柄を表しています。

京都『𠮷膳』外観
京都『𠮷膳』店内&店主
今年で68歳になる岡本さん。独りで厨房を切り盛りしながら、奥様と共に笑顔でもてなしてくれます。
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技と味を伝える前菜5品から

料理は昼夜共に、17000円のコースのみ。1品ずつ出来たてで供される5つの小皿から始まります。

初夏のある日なら、生ウニを飾ったチシャ菜の辛子煮、貝柱の炙り、ホタルイカの天ぷらなど。煮る・焼く・揚げると、ひとつひとつ異なる技法を用いているのは、「技と味をお伝えする、ちょっとしたご挨拶です」と岡本さん。

カリッと揚がった表面からほの温かいワタがとろけるホタルイカの揚げ具合や、玉子締めのなめらかさとコクに手練を感じます。

京都『𠮷膳』の前菜
前菜は自家製海老味噌の玉子締め、チシャ菜の辛子煮など全5品。貝柱の炙りは塩とスダチで。
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椀物は季節を語るすり流し

前菜に続く椀物は、季節のすり流しと決まっています。この日は、ウスイエンドウのすり流し。翡翠色のだしに浮かぶのは、加賀レンコンと海老の団子です。

椀物は『𠮷膳』にとって、一番季節を語る一品。爽やかな色合いとウスイエンドウと菜種(菜の花)の組合せが、初夏らしいです。

京都『𠮷膳』の椀物
ウスイエンドウのすり流し。利尻昆布と血合い入りのカツオ節で取っただしの、奥深く澄んだ旨みに唸らされます。
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年中供する‟グジのおこわ蒸し“

お造りを挟んだ後は、お凌ぎ。年中いつでも、グジのおこわ蒸しが登場します。

「お世話になった『鳥居本』で学んだ想い出の味。初心を忘れないために、出し続けています」と岡本さん。

開業からコースの流れは一切変えず、定番を中心とした構成にしているのは、「同じことを続けることで、洗練されるものがある」という信念があるからこそ。ささいな変化に気付きながら、繊細な感覚が磨かれていくのだと、職人主義を貫いています。

京都『𠮷膳』のグジのおこわ蒸し
お凌ぎのグジのおこわ蒸し。蒸したもち米を干して、グジと共に蒸すことで米の表面に独特の張りが生まれるそうです。
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2階には大正ロマン漂う個室

ステンドグラスの明かり取り窓を横目に階段を上ると、1階とはまた違う雰囲気の個室があります。

大正ロマンをテーマにした部屋は、床に絨毯を敷いたテーブル席。市松模様に配色した壁や、間仕切り替わりに配されている西洋アンティークの扉が洒落ています。

京都『𠮷膳』の個室
最大8名まで入れる個室は、和洋がバランスよく融合した独特の空間です。
京都『𠮷膳』の明り取り
四季を描いた特注のステンドグラスには、五山の送り火や紅葉が描かれています。
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市松模様に編んだ網代(あじろ)天井や江戸後期のひさご形の弁当箱など、なかなか見られない大工仕事や細工物を目に出来るのも、『𠮷膳』の魅力。磨き抜かれた技と感性で、舌も目も楽しませてくれます。

京都『𠮷膳』アプローチ
カウンターへと続く玄関先に広がるのは、少し独特の空間。木の表皮をあしらった壁や、珍しい市松模様の網代天井が目を引きます。
京都『𠮷膳』の弁当箱
さりげない季節飾りも見どころです。江戸時代後期のひさご形弁当箱は、現代でいうところのピクニックバスケット。
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