先代の味を丁寧に繋ぐ、京都『日本料理 櫻川』

隙のない八寸も、玉ネギの甘みをだしに溶かした鱧しゃぶも、先代店主の廣嵜榮二さんから学んだ技が基本。師の仕事と精神を愛おしみながら受け継ぐ京都・木屋町二条『日本料理 櫻川』の料理は、どれも芯がありながらも優しい味わいです。

木屋町に暖簾を掲げて約50年

『日本料理 櫻川』の開業は1976年。滋賀の名料亭『招福楼』で腕を磨いた北尾誠司さんが初代店主です。現在の高瀬川沿いに店を移したのは1994年。まだ木屋町界隈に店も少なく静かだった頃です。

その後、店主は廣嵜榮二(ひろさきえいじ)さんに変わりましたが、昔の仕事を重んじる丁寧な仕事ぶりはきちんと受け継がれ、さらに評判を上げていきました。

京都『櫻川』外観
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先代譲りの、正道を貫く味わい

さらに時は流れ、屋号はそのままに9年前に代替わり。現在店主を務めるのは、移転した30年前から店に勤めている山本智史さんです。タイル張りの壁を黄瀬戸の陶板に貼り換えるなどのさりげない改装は施していますが、師とあおぐ先代・廣嵜さんの味と精神を大切に引き継いでいます。

「奇をてらわないオーソドックスな仕事が好きですし、先代の味を求めて店にお越しになる常連さんが多いお店。新しい刺激よりも守ることで生まれる安心感を大切にしています」と、ここならではのやりがいを語ります。

京都『櫻川』店主&店内
店主の山本さんは滋賀県生まれで現在50歳。高校卒業後に日本料理の世界に飛び込みました。
京都『櫻川』内観
個性的な曲線を描くヒノキのカウンターも、長年の店の名物です。
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昼のコースは8470円

料理は昼夜ともにコースのみ。夜は24200円ですが、昼なら8470円で八寸から造り・焼物・煮物・締めのご飯などまで全8品ほどをいただけます。10品前後ある夜のコースに比べると少しボリュームダウンしますが、充分な内容です。

夏のある日なら、コース幕開けの八寸は焼き鱧寿司やトウモロコシのかき揚げなど7品ほどを盛り込んで登場。シンプルだけれど華やかさを感じる彩りや盛り付けに、名店の風格が漂います。中央にそっと添えられているのは、カリッと揚げた鱧の骨煎餅。素材を無駄にしない心憎い一品に和みます。

京都『櫻川』の八寸
料理はすべて昼のコース7700円から。こちらはある夏の日の八寸。鴨ロースの隣りは、三度豆と大徳寺麩の白和え。すり鉢で摺って作る練りゴマの滋味に心も潤います。
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八寸の後に造りを挟んで続く鮎の塩焼きも炊合せも、ごくシンプルな調理と盛り付け。最低限の調味に抑えた繊細な塩梅が、素材の良さと実直に磨き上げた腕前をいっそう浮き彫りにしています。

京都『櫻川』の鮎の塩焼き
清流を泳ぐかのような焼き姿も美しい鮎の塩焼き。絡みやすいようお粥でとろみをつけた蓼酢(たでず)でいただきます。
京都『櫻川』の炊合せ
冬瓜・カボチャ・鯛の子・絹サヤの炊合せ。冬瓜に施された細かい庖丁目が見事です。
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特注の器でいただく鱧しゃぶとは

夏から秋の名物として特に常連さんに愛されているのが、鱧しゃぶです。料理名だけ聞くと普通ですが、異なるのはその供し方。だしを張った陶器の器を直火にかけて熱し、その熱々のだしに骨切りした鱧をくぐらせていただく仕立てです。

器は京都『桂窯(かつらがま)』に特注したもの。直火に耐えるようにしたため練り土は違いますが、仕上げの釉薬は、茶道具として有名な樂焼(らくやき)と同じものを使用した逸品です。

加えて、だしにも見えざる工夫がひとつ。「鱧と鉄板の相性である玉ネギの甘みだけを、だしに移しています」。

見事な工夫に驚きながらも箸を進めていると、山本さんがもう一言。「この料理の真の主役は、鱧をくぐらせたことで旨みが増しただし。ある種の椀物も兼ねています。ぜひ、余さずに味の変化をお楽しみくださいね」。常連さんが毎年心待ちにするのも納得の味の仕立てです。

京都『櫻川』の鱧しゃぶ
鱧しゃぶは、鱧以外の具材は一切なし。だしに味が付いているので、小鉢に取ってそのままか、スダチを搾っていただきます。
京都『櫻川』の鱧しゃぶイメージ
写真のように身が弾けたら食べ頃です。
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独特のセンスが滲む空間に、気負わずに寛げる程よい距離感。そして、安心感と安定感溢れる正統派の料理。守ることの素晴らしさを実感できる、貴重な一軒です。