演出が小粋な大人の隠れ家。大阪・北新地『天麩羅とお蕎麦 三輪』

北新地にあるこちらは、天ぷらと蕎麦、両方を一挙に楽しめるお店。白木のカウンター越し、目の前で揚げる天ぷらを目と耳と香りで味わえるライブ感満載。シニアソムリエで日本酒にも造詣が深い店主・上林(かんばやし)泰朗さんの非日常の演出も粋な大人の店です。

愉しませ上手なソムリエ店主

コの字のカウンターの席には、塗りのモダンな折敷の上に、バラのつぼみを模して素敵に折られたナプキンがセットされています。ウェイティングの設えは月替わり。「ここでの時間を楽しんで」という想いが伝わってきます。

『天麩羅とお蕎麦 三輪』の店内
ビルの上階とは思えない、坪庭が見えるしっとり落ち着いた店内。
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まず供されるのは、しじみの小吸い物。「土地柄、肝臓を労わっていただきたいので」と店主の上林泰朗さん。「20年間、北新地で育ててもらいました」という上林さんらしい心配りです。ワインバーや創作料理店などで、経験を積んできた上林さんが、「この街に似合う蕎麦と天ぷらの店を」と2018年に開店。北新地らしい遊び心満載のコースが始まります。

『天麩羅とお蕎麦 三輪』の上林さん
店主の上林さん。日本酒、ワイン、蕎麦打ちの3つを身に着けたサービスのスペシャリスト。
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話したくなるユニークな天ぷら

「天ぷらはもっと楽しくてもいいのでは」と提案するコースは、定番から旬の野菜、そしてどこにもない創意工夫が凝らされた変化球も次々に。
まずは、定番・活けの車エビ。衣の小麦粉は、お菓子作りなどに使われる上質な薄力粉。揚げ油は大阪『岡村製油』の綿実油。そして銅の鍋で揚げる天ぷらの実力を披露します。フキノトウやタラの芽などの旬の野菜や、牡蛎、フグ白子などなど、季節を感じさせる天ぷらや一品が次々と。

『天麩羅とお蕎麦 三輪』の車海老の天ぷら
尻尾までカラリと揚げられた車海老の天ぷら。塩は沖縄の雪塩がおすすめ。ほかに越後・村上の笹川流れの玉藻塩もスタンバイ。
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そんな中、2月なら「梅干と鰯」という新作が殊にユニーク。ショウガや大葉を混ぜ込んで叩いたイワシを、4Lサイズの大きな梅干し1個丸ごとの中にイン。酸っぱいのかと思いきや、あら甘酸っぱい。ハチミツ漬けの南高梅は柔らかく、イワシのほんのり苦みと風味を優しく包んでいます。コース中盤にさっぱりと口を変えてくれる一品です。
終盤に登場する名物・すき焼きの天ぷらは、行ってみてのお楽しみとしましょうか。食べやすい工夫も面白くて、誰かに話したくなる逸品です。

『天麩羅とお蕎麦 三輪』の梅干と鰯
梅干と鰯。梅干しにイワシを射込んだ、新しい味わいに驚きます。
『天麩羅とお蕎麦 三輪』の梅干と鰯
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鴨そばのアフタヌーンティー!?

締めは蕎麦。店主自ら毎日打つ二八の蕎麦は、のど越しの良い細麺。季節によりもりそば、鴨つけ汁、カレー南蛮と3種から選べます。
中でも鴨つけ汁は、薬味や具となる鴨の治部煮などが3段のケーキスタンドに載って登場。「鴨そばのアフタヌーンティーを目指してます」と上林さんが笑わせます。つけ汁は治部煮のだしと鶏油(チーユ)が入っていて、こっくりとした旨みが満載。

『天麩羅とお蕎麦 三輪』の鴨つけ汁
鴨つけ汁。上から九条ネギ、「ゆずからりん」という名の赤い柚子コショウ。天かす、鴨の治部煮が3段スタンドで。蕎麦はこの日は埼玉県の蕎麦粉。福井大野や島根、伊吹など、都度、良い状態の蕎麦粉で打つ。
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天ぷらと蕎麦、両方を楽しんで大満足…のところへ再度のお楽しみ、蕎麦湯が供されます。これまたビックリのあっさりと濃い目の2種が供されます。オススメは濃い目。ここまで濃厚な蕎麦湯は初めて!と驚く方が続出のクリーミーな蕎麦湯です。混ぜずにスプーンでいただきます。

『天麩羅とお蕎麦 三輪』の蕎麦湯2種
ポタージュのようなあっさり蕎麦湯。手前は蕎麦がきのような、ねっとり濃い蕎麦湯をつゆに加えて。お腹がいっぱいでも、飲めてしまいます。
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さらにさらに、今度こそ本当のラストのお楽しみは、氷出し玉露。ゲストが席に着くと同時に、氷と玉露が茶器に入ってセットされていたもの。思わず頬がほころぶほどの青い甘みは、コースをいただく間、ゆっくりと抽出された玉露ならでは。このひと口が何とも爽やかで、きっとまた来たいと思うはずです。