大阪が誇る老舗・なんば『南たこ梅』の関東煮(おでん)

だしをたっぷり含んだ大根、アツアツのコンニャク、うっすら茶色く染まったたまご、紅ショウガ天…。ちょっと辛子を付けてハフハフと頬張る関東煮(かんとだき)=おでん。いろんな具材や、季節の一品料理も楽しめるこちら、大阪・なんば『南たこ梅』は、家族連れやインバウンドのゲストもたくさん訪れる人気の老舗です。江戸時代末期の創業以来、継ぎ足し継ぎ足しで大事に守ってきた、だしのおいしさを、ぜひ味わってみてください。

『たこ梅』本店から独立して半世紀

『たこ梅』の創業は1844年。黒船来航より昔のことです。初代・岡田梅次郎さんが道頓堀筋にお店を開きました。その後、3代目・松次郎の三女・輝子さんが、『南たこ梅』として分家・独立してから数えても、もう半世紀。
長らく、ミナミの地下街にて営業していましたが、2013年、松竹座裏の現在の場所へ移転。いまは、『南たこ梅』2代目・岡田正子さんとご主人の隆雄さん、そして息子の末吉寛士さんが、お店を切り盛りしています。家族経営のあったかな雰囲気も、この店の魅力です。

大阪・なんば『南たこ梅』内観
従来のおでん屋さんのイメージとは異なり、明るい雰囲気の店内。
大阪・なんば『南たこ梅』品書き
大阪・なんば『南たこ梅』マッチ
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関東煮の味の決め手はクジラ

おでん、関東煮、どっちが正しいの?と思ったことはありませんか。関東煮は関西だけの呼び名。「どうして関西で関東煮と呼ぶのかは実は謎なんですよ」と、隆雄さん。

「そもそもおでんは、豆腐に味噌を塗って焼いた豆腐田楽がルーツとか言いますね。関東煮は中国・広東の鍋料理が元とか、関東大震災で関西に流れてきた料理人が江戸風のおでんを持ち込んで生まれたとか起源は諸説あります」。
そして「具材も関西独特のものがあります」と話します。おでんには、ちくわぶやはんぺんが定番ですが、関西の関東煮にはそれらは入っていません。牛スジやたこが定番です。「昔から関西の関東煮には、必ずクジラが入っています」。『南たこ梅』の味も、クジラの皮・コロやクジラの舌・さえずりから出る旨みが決め手。「クジラの舌をさえずりと命名したのは『たこ梅』の創業者です」と隆雄さん。粋な命名ですよね。

『南たこ梅』のさえずりを味わおう

まずは、このさえずりを。8時間もじっくり炊くというさえずりは、ほんわりとした舌ざわりで、噛むととろけていきます。大阪名物・ハリハリ鍋風に水菜と共に。瑞々しい水菜はハリハリパリパリ。とろりとしたさえずりとの相性は抜群です。
だしをたっぷり含んだひろうすの中には、銀杏、椎茸、蓮根などがゴロゴロ。コンニャクや大根には、お店ですり鉢で練る味辛子をたっぷり。白味噌や酢で味付けした和辛子がツーンと来て、その刺激に箸が進みます。

大阪・なんば『南たこ梅』さえずりなど
水菜220円と、さえずり1本1100円。さえずりの旨みと合わさって、おでんのだしがより甘く感じられる。
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大阪・なんば『南たこ梅』ひろうすなど
ひろうす550円。このひろうすや豆腐は、黒門市場で100年の歴史を誇る豆腐屋『高橋食品』から仕入れているとか。合挽ミンチとタマネギやニンジンで手作りした自家製ロールキャベツ660円。こんにゃく220円、大根330円。
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名物・たこの甘露煮は秘伝の味

くじらの関東煮のほかにも、この店の名物があります。たこの甘露煮。
「タコを揉んで、秘伝のだしで50分炊きます。通常の炊き方とは違うので、時間は結構短めですね。茹でてる途中で柔らかくなったり硬くなったり、とっても複雑な食材なんですが、そこを見極めるのがポイントです」とは寛士さん。秘伝のだしは、江戸時代から180年、大事に継ぎ足してきたものです。
炊きあがったタコはボルドーのワイン色で、ツヤツヤと輝いています。食べやすく切って串にさして登場。その風情が何とも江戸時代を思わせます。たこの甘露煮は、『たこ梅』の商標登録。この味をぜひ体感してください。

大阪・なんば『南たこ梅』タコの甘露煮
商標登録しているタコの甘露煮2本660円。味辛子と呼んでいる卓上の味辛子がよく合う。
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日本酒に合う一品料理も充実

錫(すず)のチロリで供される日本酒は、女将の正子さんが全国から選び抜いた銘酒揃い。ほたるいかの酢味噌や、きずし、クジラのお造りなどなど、お酒に合う一品料理もズラリ。
心まであったまって、気持ちよく酔えるお店です。

大阪・なんば『南たこ梅』ホタルイカ、きずし
ホタルイカ酢味噌660円。例年春の季節料理。きずし770円。レアな食感で、酢加減も程よい。
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大阪・なんば『南たこ梅』外観
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