大阪・東心斎橋『翠 岡﨑』 気鋭の若手が創る日本料理

大阪・心斎橋のスタイリッシュなビルの中。店内は、打って変わって上質な和の空間が広がります。網代の天井や木目が美しい栃の木のカウンターに、ちょっと緊張してしまいそう。でも、店主の岡﨑直哉さんの笑顔を見れば少し緊張が解れるかも。まだ30才になったばかりの若いご主人です。ここは、2023年に、岡﨑さんが、『翠』(現・『翠 大屋』)店主・大屋友和さんからのれん分けという形で独立オープンして、2年目を迎えたばかり。新進気鋭という呼称がピッタリの日本料理店です。

子どもの頃からの夢を実現

「とにかく料理が好きで、ずっと厨房に居たいくらいです」と笑う店主の岡﨑さん。「もともと物づくりが好きで、幼稚園のときに簡単なパンを作ったのがきっかけで、小学生のときには料理人になろうと決めていました」と言うから筋金入りです。
調理師専門学校卒業後に、大阪・河内長野の料亭『喜一』にて3年、そして予約が取れない人気日本料理店『翠』で5年腕を磨きました。『翠』の店主・大屋友和さんが天満に移転するのを機に、この東心斎橋の店を受け継ぐ形でのれん分け独立を果たしました。「30歳までに自分の店を持つ」という夢を28歳で実現したのです。

大阪・東心斎橋『翠 岡﨑』店主
大阪・東心斎橋『翠 岡﨑』入口
季節毎にお迎えの設えは変わります。
大阪・東心斎橋『翠 岡﨑』個室
個室があるので接待にもおすすめ。平日の夜以外は子連れもOKです。
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先付から、新鮮な驚きが

岡﨑さんの手になる料理は、とにかく素材の味がクリアだと評判です。
たとえば、春の昼のコースの先付、新玉ねぎの葛(くず)豆腐をひと口味わえば、その意味が分かるはず。辛味が出る前の瑞々しい新玉ねぎを丸ごと齧(かじ)ったような、新鮮な甘みと、鮮烈な香りだけが、葛の中に閉じ込められているかのよう。
「新玉ねぎを2時間半、極々弱火で炒めた後、銅製の棒でかき混ぜています。メイラード反応が起きた茶色い玉ねぎは洋食をイメージさせる味わいになるので、色を付けないように、イオンの効果で独特の香りは消すように、注意深くやってます」と岡﨑さん。

大阪・東心斎橋『翠 岡﨑』新玉ねぎの葛豆腐
昼のコース全8品11000円の中から。先付は、新玉ねぎの葛豆腐。上にのせた大阪・羽曳野名産のウスイエンドウは、薄皮を一粒ずつ取り除いてあり、口当たりも優しく、春らしい青い風味が広がります。
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燻製香が面白い鰆の焼き霜造り

向付のひとつは、鰆の焼き霜造り。上にハッサクと大根の鬼おろし、穂紫蘇を飾ってあり、一瞬、これがお造り? と思うほど、華やかな一品です。食べてみるとやはり、一捻り。調味は醤油のみなのに、ハッサクの柑橘類特有の酸味や香りの効果でポン酢のような味わいに。鰆は、リンゴの木で燻製したといいます。
「ユズや木の芽など、季節ごとの日本の香りはあるけど、ちょっとバリエーションを増やしたくて、いろんな木で試してみました。今はリンゴの木が一番しっくり来ています」。

大阪・東心斎橋『翠 岡﨑』鰆の焼き霜造り
鰆の焼き霜造り。一般的な焼き霜の香ばしさに、燻製香が加味された意外な仕立てに驚きます。身はふっくらと生の食感が生きています。
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食材の味が際立つ岡﨑流だし

桜の小枝を添えて供された八寸は、とっても伝統的なスタイルで。煮ハマグリとうるいのお浸しや、河内鴨ロース煮、花ワサビは和だしと醤油漬け、イイダコやホタルイカなど、少しずつ色んな春の旬が盛合せてあります。
ひとつひとつの味がくっきりと際立っているのが、よく分かります。
「だしに余計な臭いがないからかもしれませんね」と岡﨑さん。真昆布と利尻昆布の2種をブレンドし、鰹節とマグロ節をブレンドしているのだそう。それぞれ旨みや香りの良いところ取りをしているのでしょう。さらに、「うちのだしは、金属に一切触れてないんですよ」というのでビックリ。微かな金属臭を一掃するため、だしに触れる鍋はすべてホーローに変えたのだそう。
だから岡﨑さんのだしは、よりクリアで、香りの余韻が長く楽しめるし、食材の輪郭を際立たせるようです。

大阪・東心斎橋『翠 岡﨑』八寸
八寸。桜の小枝を添えて。煮蛤(はまぐり)とうるいのお浸し。花ワサビ、河内鴨ロース煮、イイダコ、こごみ、菜の花、ホタルイカ、アラレ揚げはホタテ貝柱の中に自家製カラスミを射込んであります。
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伝統と革新を組み込んだコース

「先付の新玉ねぎの葛豆腐は僕的にはトラディショナルで、鰆はリンゴの木の燻製を掛けた創作系かな」と岡﨑さん。「伝統的な仕事と、僕のアイデアを入れた創作的な料理をコースの中に組み合わせています。日本料理の枠から外れるのは簡単だけど、外れない範囲内で、日本料理の技法で、食材も伝統的なもので、でもちょっと工夫をしたいんです」。
ことさら、トリュフやキャビアを使ったりはしないけど、遊び心が凝らされた岡﨑さん流日本料理は、きっとどんどん変化していくはず。食べ手として、その変化を一緒に楽しんでいきたいものですね。

大阪・東心斎橋『翠 岡﨑』内観
栃の木の木目が美しいカウンターに、金彩が施された輪島塗の折敷が並びます。
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