女将の味を繋ぐこと75年以上、木屋町三条の名酒場『れんこんや』

辛子レンコンや自家製漬物など、親しみやすい料理はどれも1950年の創業時から受け継いでいるもの。古き佳き味わいと雰囲気にしみじみと浸れる、京都・木屋町三条の名酒場です。

木屋町酒場の先駆け的存在

「初代が店を開いた頃は、ウチみたいな酒場は片手で数え足りるぐらいだったと伝え聞いています」と、三代目女将の伊藤美紀さん。

高瀬川のせせらぎが聴こえる西木屋町通沿い、今どきのビアパブやカフェが立ち並ぶ京都の繁華街中心部でひと際目立つ存在の店は、1950年創業。江戸時代に下級武士が住んでいたという五軒長屋の風情を程よく残した日本家屋は、いぶし銀のような風格を放っています。

『れんこんや』外観
10

映画のセットのような店内

引き戸を開けて中に入ると、歳月を感じる渋色の壁にかかっているのは昔懐かしい黒電話。太縄を座面に編んだ椅子や小さなちゃぶ台、1本脚のテーブルなど、創業時から時が止まっているかのような懐古的空間に、たちまち心を奪われます。

『れんこんや』店内テーブル席
まるで時代劇のセットのよう。ドラマなどの撮影に使われることも時折あるそうです。
10

三代繋ぐ、‟女将の味“

「街の景色も世の中も様変わりしていますが、ウチの味だけは変えずにいこうと思っています」と伊藤さん。創作料理に走るよりも、2代目女将を務めていた母から教わった味を守ることこそが、ほかにない店の味になると想いを語ります。

『れんこんや』カウンター席と女将の伊藤美紀さん
小さな厨房で手際よく料理を仕上げる伊藤さんは、店を継いで25年以上。レンコンの透かし彫りが施された趣あるカウンターは、3席のみの特等席です。
10

伊藤さんの言葉通り、常時20品ほど揃う料理のほぼすべてが昔のまま。名物の辛子レンコンはもちろん、季節野菜を漬けるぬか床も、米ぬかをせっせと継ぎ足しながら大切に引き継いだもの。クジラのコロ(脂身)で旨みを添えながら炊く菜っ葉煮や、地元の豆腐店に揚げてもらっているというふかふかの厚揚げも、味も作り方も一切変えていないと、微笑みます。

『れんこんや』の辛子レンコン
『れんこんや』の自家製漬物と菜っ葉煮
自家製漬物600円。キュウリとナスのぬか漬けが定番で、季節野菜の塩漬けが2種類ほど加わります。壬生菜をサッと炊いた菜っ葉煮は800円です。
『れんこんや』の厚揚だいこんおろし
厚揚げだいこんおろし800円は、絹ごしと木綿の中間くらいのみっちり感。大根おろしとショウガを薬味にいただきます。
10

瓶ビールや熱燗と共にあれこれつまんで4000円前後に収まる懐に優しい価格も、女将の優しさ。このご時世に有難い限りです。締めはぜひ、おにぎりと味噌汁を。塩加減が絶妙で、ほっこり和みますよ。