京都の料亭『高台寺 十牛庵』で日本の美に酔いしれるひととき

約2000坪という広大な敷地に建つ数寄屋造りの館は、築110年以上。明治時代の名庭師が誂えた風光明媚な庭や意匠を凝らした床の間など、日本の美に浸りながらとっておきの日本料理を味わえる、京都・東山の料亭です。

築110年以上の風格ある数寄屋建築

豊臣秀吉と正室ねねの菩提寺として知られる高台寺のすぐ近く。一寧坂から二寧坂に向かう途中を脇に入った先にひっそりと佇む立派な長門。料亭『高台寺 十牛庵(こうだいじ じゅうぎゅうあん)』は、入り口からして2017年オープンとは思えない風格が漂います。

それもそのはず。元々の建物は明治41年に数寄屋建築の名工・上坂浅次郎と北村捨次郎が手掛けた大阪の豪商の別荘で、庭は円山公園で知られる七代目小川治兵衛が作庭したもの。その名工の作風を残しながら現代の匠『中村外二工務店』が現代的要素を巧みに組み合わせ、見事料亭として甦っています。

『高台寺 十牛庵』長門とアプローチ
風格ある門扉。店の玄関は石畳の長いアプローチの先に。
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2階建ての館に備える客室は、2人用の小さな座敷から舞台付きの大広間、茶室など全部で9室。庭はもちろん、北山杉をふんだんに使用した門扉や鞍馬石を敷き詰めた玄関までのアプローチだけでも、侘びた美しさを存分に感じられます。

『高台寺 十牛庵』1階「桐の間」
七代目小川治兵衛が作庭した庭を真正面に望む1階の座敷「桐の間」。こちらは最大10名まで利用できます。
『高台寺 十牛庵』2階
2階客室の前にさりげなく飾られている小箪笥(たんす)も時代を感じる意匠が目を引きます。
『高台寺 十牛庵』2階「藤の間」
座椅子に腰かけた状態で八坂の塔を中景に京都市街を一望できる2階「藤の間」。こちらは2名までの贅沢な仕様です。
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生産者の想いを描くための技巧

「食材は京都にこだわらず、全国津々浦々から。自分で探し抜いた食材をどう生かそうかいつもワクワクしています」。瞳を輝かせながらやりがいを語るのは、料理長の高増伸哉(たかますしんや)さんです。

料理は季節替わりのコースのみで、内容はその時々の食材次第。とある晩春の日の先付は、毛ガニとホワイトアスパラガスという組合せ。アスパラガスのだしを生かした透明なジュレの甘みが、毛ガニの旨みと口の中で美しく響き合います。

麗しい八寸の後に登場した強肴(しいざかな)は、熟成肉で有名な滋賀の精肉店『サカエヤ』から仕入れる「北のあか牛」の炭火焼。「ひと口目は、ぜひそのまま塩だけの味付けで」と高増さん。噛むほどに力強さが増す赤身肉の甘みと旨みは、思わず目を閉じてしまうおいしさです。味に変化をもたらすために添えられた黄身酢に香る木ノ芽も、あくまで品よい塩梅。奇を衒うためでなく、食材を最大限に味わい尽くすために持てる限りの技巧を尽くすのが、高増さんのスタンスです。

『高台寺 十牛庵』の先付
料理はすべて昼25300円のコースから。5月初旬の先付は毛ガニとホワイトアスパラガス。スダチが香るアスパラガスのジュレで、軽やかに味をまとめています。器は作陶家・辻村史郎氏の木ノ葉皿。
『高台寺 十牛庵』の強肴
強肴は「北のあか牛」炭火焼。オレンジ色のソースは白ワインと木ノ芽を使ったオリジナルの黄身酢。横に添えているのは皮ごとアルミ箔で包み焼いた淡路島産の新玉ネギです。
『高台寺 十牛庵』の鯉丸仕立て
炊合せの鯉丸仕立て。滋賀産の鯉を唐揚げにしてからサッとだしで炊き、カツオ節控えめの合わせだしで炊いた加賀太キュウリと重ねています。夏の気配が漂う滋味深い一品です。
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『高台寺 十牛庵』料理長の高増伸哉さん
高増さんは長崎県平戸市の出身。京都の『祇園丸山』で10年かけて料理に対する哲学を深く学び、39歳のときにこちらの料理長に就任しました。
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甘味に至るまで美しい佇まい

「趣ある館に見合うよう、器使いをはじめ、料理一品一品の装いもかなり意識していますね」と高増さん。コースの最後を飾る甘味は、常に水物と菓子の2品が登場します。
この日の水物は、デザートグラスに盛り付けた赤いみつまめ。紅色のイチゴスープの中に手作りのハチミツゼリーや小粒の白玉を浮かべた華やかな装いが乙女心をくすぐります。

続く菓子は、氷餅をまぶした涼しげな装いのよもぎ餅を、点てたばかりのお抹茶と共に。庭の緑を愛でながらの一服に、心から安らぎます。

『高台寺 十牛庵』のみつまめ
美しすぎるみつまめ。丹波産の黒豆はあえて塩気のある味付けにして、食べ疲れないよう工夫しています。
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観光地の中心部に居ながらにして自然美との融合や非日常感を体感できる貴重な一軒。自分へのとっておきのご褒美に、または遠来の客のもてなしに。心潤う贅沢で特別な時間を過ごしたい時におすすめします。