驚くほど軽やかなイタリアン、大阪・堺筋本町『リストランテ スペッロ』

「イタリアンってこんなに軽やかだったっけ!?」 。飯塚宗則シェフの料理を初めて食べたゲストは必ず驚きます。2009年に長堀橋にてオープンし、堺筋本町へ移転して、足掛け17年。「どんどんシンプルになってきました」とシェフは言います。その分、食材そのものの味を際立たせるきれいな味わいのイタリアン。根強いファンがいる名店です。

もっと料理に集中したくて

店名は、ウンブリア州の街の名。「スペッロはオリーブオイルと花で有名な美しい街ですよ」と、飯塚シェフ。「父はホテルのシェフで、子どもの頃からおいしいものを食べさせてもらいました」という飯塚シェフ自らも『ホテルニューオータニ大阪』からキャリアをスタート。イタリアへ渡り、幾つかのレストランで腕を磨きました。

2009年に長堀橋に開いた店は、カウンターメインの店。「オープンキッチンで、ゲストに食材について自分の言葉で話せるので、楽しかったんですが、それが足枷(あしかせ)にもなって…」。徐々にもっと料理に集中したいという想いが募って、現在の場所へ移転。信頼できるスタッフにサービスは任せて、シェフは奥のキッチンで料理にフォーカスしています。

『リストランテ スペッロ』の飯塚シェフ調理中
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シンプル・モダンな店構え

オリーブの木に囲まれたテラス席が目印。ガラスウオールから日差しが入る明るい店内は、寄木のフローリングに、木目のきれいなテーブル席がゆったりと配されています。カトラリーはテーブルの引き出しの中。フロアの真ん中にはドリンクバー。すっきりとシンプルでモダンな店内です。「過度のサービスや装飾はいらない」というシェフの信条が店づくりにも表れているようです。

『リストランテ スペッロ』の店内
モノトーン調のシンプルな絵画が印象的なシックな店内。パスタマシンがさりげに飾られています。
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飯塚シェフの真骨頂、シンプル・イズ・ベスト

それでは、飯塚シェフらしい一皿からご紹介しましょう。
オランダ産のホワイトアスパラが主役の一品。ステックという燻製した豚モモ肉のハムの塩味と、ポーチドエッグのまろやかさが、少しの苦みと爽やかな甘みが溢れるアスパラの味を際立たせます。上に散らしたイタリアのサマートリュフが、ハーモニーに転調をもたらすシンプルなお料理は、ウンブリア州の山の料理だそう。

『リストランテ スペッロ』のホワイトアスパラとトリュフ
取材時、春のアラカルトから。ホワイトアスパラとトリュフ3800円。
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夜のコースの前菜は、阿波吉野鶏のガランティーヌ。筒状に成形した、とってもソフトな食感の鶏モモ肉の中には、うすい豆のピュレを巻き込んであります。トンナートというマグロベースのソースは、ツナマヨネーズを思わせるなんだか懐かしい味。もう一種、さっぱりとした酸味のあるウイキョウのソースと交互に口に運べば、一皿の中で、味変を楽しめます。

『リストランテ スペッロ』の阿波吉野鶏のガランティーヌ
夜のコース7800円(全7品)の前菜。阿波吉野鶏のガランティーヌ。可愛い豆の花を添えて。
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春先なら、タケノコも登場。タケノコと木ノ芽の相性の良さは、和食で体感しているけど、そこはイタリアン、マリーゴールドが添えてあります。「木ノ芽と香りが似ているんですよ」と飯塚シェフ。タケノコはバターをかけながら加熱してあり、香ばしく、甘い香りのマリーゴールドと引き立て合います。添えたひっさげマグロは表面をさっと炙って。クレソンのジェノベーゼも緑のにおいがタケノコによく合います。

『リストランテ スペッロ』のタケノコのインパデッラ、ヨコワ添え
タケノコのインパデッラ、ヨコワ添え。ワインはマグロの鉄分を意識して火山性の土壌で育まれたベネト州のカベルネブラン。オーガニックの穏やかな酸と、トウモロコシのようなコクを感じるのが、タケノコとも相性良し。グラス1400円。
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一皿のポーションはやや多め。けれど、あっさりと食べられて、イタリアンなのにまったく重くなく、軽やかな食後感です。醤油やみりんは使わず、日本の旬の食材を使って、日本人のセンスを生かしつつ、あくまでもイタリアンに着地させる飯塚シェフのお料理は、いつもホッと心を落ち着かせてくれます。お得意の手打ちパスタもぜひ味わってほしい逸品です。

『リストランテ スペッロ』の飯塚シェフ
寡黙で職人肌の飯塚シェフ。現在、大阪市内と茨木市内に姉妹店3店舗を展開しています。
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