フグの名店で食す、夏のハモ鍋。大阪・法善寺横丁『法善寺 浅草』

昭和12年、新世界にて料亭として創業。10年後、ミナミは法善寺の水掛不動尊前に移転。以来フグ専門店として70余年の歴史を紡いできました。でも、実はフグだけではありません。自慢のポン酢を使ったスッポンも密かに人気。そして、夏はハモ専門店に変身するのです。

水掛不動さんの真正面

ミナミに奇跡のように残る法善寺横丁は、今やインバウンド客の格好の観光名所。緑の苔に覆われた不動尊に、見様見真似で柄杓で水を掛けたり、写真を撮ったりする人の姿が引きも切りません。
その水掛け不動さんの目の前にあるのが『浅草』。クリーム色の土壁が周囲に溶け込んだ老舗の佇まいは、少し敷居が高く感じられるかもしれませんが、意外なほどリーズナブルで、大阪らしい人情味のある温かなもてなしに心和むお店です。ガラガラと格子戸を開けてみれば、お店の方の優しい笑顔に迎えられます。
ちょっと急な階段を上がって2階へ。2023年にリニューアルして座敷は靴を脱がずにそのまま席に付けるテーブル席の個室になりました。窓から水掛不動さんの鎮座する社の小屋根が見え、手向けられた線香の香りがふわりと届きます。

『浅草』の個室
『浅草』の2名用個室
畳と椅子を備えた全席個室でゆったりと食事が楽しめます。特に水掛不動尊を正面に望むお部屋は、接待や来阪客をおもてなしする際に人気とか。デート向き、2名掛けカウンターの個室もあります。
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目にも彩な9種の前菜

それでは、夏のハモ料理をご紹介しましょう。ハモ会席と、ハモしゃぶコースがあります。今回はハモしゃぶコースを。

まずは前菜。涼し気な網目格子の箱に、9種の料理が豆皿に可愛く並んでいます。取材時は、ホタルイカの燻製と空豆、うざく、鴨ロース煮、カツオのタタキはニラソースで。鮑のやわらか煮、タコともずく酢、翡翠ナスとエビ、うすいエンドウ、そしてハモの南蛮漬けがキウイソースを添えて登場。
『神戸たん熊』で修業してきた4代目・辻 宏弥さんが腕を振るう9種の前菜盛合せは、今や名物になっています。

『浅草』の前菜
前菜9種盛り、ハモ造り2種、ハモ揚げ物、ハモしゃぶ鍋。デザート付くハモコース11000円から。前菜は豆皿9種盛り。ハモを使った一品のほか、季節の味が盛り込まれています。
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『浅草』の店主・辻さん
大学卒業後、銀行員を経て日本料理の道へ入った辻さん。得意のスッポン・フグ・ハモの料理を進化させ続けています。
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黄金色のだしの中でハモの花が開く

続いてお造りは、ハモの落としと、焼き霜の2種で供されます。揚げ物もハモの変わり揚げ。

『浅草』のハモのお造り
ハモ造りは湯引きと焼き霜の2種盛り。安定の梅肉と酢味噌でいただきます。
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メインはもちろんハモしゃぶ鍋。鍋は、てっちりでもお馴染みの、ずっしりと重い錫(すず)の鍋にて。黄金色に輝くだしがたっぷりと張られています。「約20匹のハモからだしを取ります」と辻さん。その濃厚さは、専門店ならでは。だしの中を潜らせると、ハモの身がきれいに花びらのように開きます。これは鮮度が高い証拠。鍋のお世話は、着物姿のスタッフさんにお任せ。丁寧にハモや野菜を鍋に投入し、頃合いのところを、一人ずつ小皿に取り分けてくれます。玉ネギの甘みと共に、丁寧に骨切りされた身を頬張れば口福に満たされます。

締めは煮麺と雑炊のダブルで! ハモだしを余すところなくいただきます。デザートはこれも夏の名物・スイカゼリー。しっとりとした個室で、ゆったりとハモを堪能すれば、夏バテも吹っ飛びますね。

『浅草』のハモ鍋
旨みたっぷりのだしにさっとくぐらせた、シャキシャキとしたレタスもおいしい。「淡路島のハモなので、レタスも玉ネギも淡路島産のものです」と辻さん。
『浅草』のハモの身
ふわっと白い花が開いたような姿で目にも涼やかなハモ。滋味たっぷり、暑気払いにもおすすめです。
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