祇園『修伯』目と舌を和ませる、独創的な京料理の数々

店主の吉田修久さんは16歳で料理人になることを決意。日本料理界の風雲児と言われた『まる多』主人の丸田明彦氏(故人)に出会い、和の道へ進みました。7年間の修業を経て23年前に開いた『修伯』では、今も師と仰ぐ丸田氏譲りの革新性、自身が追求するオリジナリティを融合。フランス料理店での経験も生かした独創的なコース料理は海外のゲストも喜ばせています。

八坂の塔近くに佇む京料理店

フォトスポットとしても人気が高い、カラフルなくくり猿が境内を彩る八坂庚申堂の山門前。八坂の塔からもすぐの所に吉田さんが自店を構えたのは29歳の時。20代で一国一城の主になったこと、フレンチでの修業経験や丸田明彦氏の薫陶を受けたことなどを、当時のメディアは相当な驚きを持って伝えたものでした。

「あれから23年。世の中も、この辺りの風情も随分変わりました」と吉田さんは穏やかな笑顔で話します。

石畳の道に面して建つ風情のある一軒家の格子戸を開くと、まず目につくのはご飯を炊くための薪焚き用のかまど。滋賀県出身の吉田さんの実家でかつて使われていた年代物です。そこから奥に進むと、檜の一枚板を使ったカウンターや網代天井など、銘木がふんだんに使われた落ち着ける空間が広がります。

京都『修伯』外観
店前からは、八坂の塔の呼び名で親しまれている法観寺五重搭が一望できる。
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京都『修伯』店内
白木が清々しいカウンターの奥にはテーブル席がある。
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京都『修伯』テーブル席
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京都『修伯』かまど
炊くと店内にご飯の甘い香りが漂う。
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アジアの伝統料理にヒントを得た一品も

昼のコースは、二十日大根や水ナス、ルッコラなど、色とりどりの野菜盛り込みで始まります。20種前後の野菜は、炊く・素揚げする・塩を当てる、それぞれの持ち味を最大限に引き出す手法で調理。祇園祭の季節は長刀鉾を模した特注の器を使うなど、盛り付けの演出も見どころのひとつです。

その後、淡路揚がりの鱧の葛叩きと早松茸の椀物。同じく淡路揚がりの鯛の昆布締め、和歌山揚がりのサワラ、山口揚がりの本マグロの造り三種盛。琵琶湖で育った鮎を使う酢の物など、各地から届く海と山の幸にじっくり手をかけた旬の料理が続きます。

京都『修伯』前菜
昼の8品コース8050円の前菜、野菜盛り込み。シャキシャキ、カリカリなど、多彩な食感が楽しめる。
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「この界隈の雰囲気は少し変わりました。来店してくださるお客様も外国の方が増えました。私自身もアジアの国々に行く機会が増え、そこで食べた物と自分のレパートリーとの融合を考えた料理をコースに織り交ぜるようになりましたね」。

日本料理でありながら、海外からのゲストにも喜んでほしい。そんな思いを込めて創作した料理の一例が、焼き物として供される、シンガポールのチリクラブと賀茂茄子田楽です。シンガポールの伝統料理であるチリクラブをベースに、チリソースとトマトソースを加えた紅ズワイカニに、隠し味として田楽味噌をプラス。トロトロの食感に仕上げた賀茂茄子に塗って重ね、ミルフィーユのように仕立てます。

開業当時から変わらないデザートも人気の的。冷たいお汁粉、アールグレイのシャーベット、黒豆のモンブランなど、全8種が並びます。その中から好きなスイーツが選べるのですが、多くの方が3~4品を選ぶそうです。

京都『修伯』焼き物
薄くスライスして隠し包丁を入れた賀茂茄子はとろける柔らかさ。カニの脚肉がたっぷり入った、味噌の甘みも感じるチリソースとの相性も抜群。
京都『修伯』ミルフィーユ
全8品のうち、自家製パイが乗ったミルフィーユやワイングラス入りの和風パフェなど、半数近くは定番。「それぞれのファンがおられるんですよ」と話す吉田さんは、フレンチレストランでデザートを担当した経験も持つ。
京都『修伯』デザート
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