名割烹から一品料理を引き継いだ大阪・同心『なにわ料理 さと有』

割烹は敷居が高すぎる⁉ 確かに渋沢さんが2枚以上必要となれば、ご褒美メシでもハードル高し。けれど、6月にオープンしたばかりの大阪・同心『なにわ料理 さと有(う)』なら心配なし。「飲んで食べても around 10000円」なレポート第1弾は、今や希少な単品割烹の新星。7品を2人でシェア+日本酒2合で、お一人14000円弱の巻。

名物「天神紅梅蒸し」を託されての独立

品書きにズラリと並ぶ料理、80種。単品割烹の醍醐味は、ここから好きなものを好きなだけ選んで食べられること。残暑の頃なら、まずは店主・佐藤淳二さんが師匠から受け継いだ名物「天神紅梅蒸し」をオーダーしてから、じっくり悩まれたし。

「なにわ料理 さと有」天神紅梅蒸し
『なにわ料理 有』の名物だった「天神紅梅蒸し」1300円。器も師匠から譲り受けたという。
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鮮やかな紅色の梅酢あんをかけた茶碗蒸しの中には、大きな梅干しと焼き餅が一つずつ。酸味・塩味の加減が絶妙で、すいっと胃を整えてくれるはずです。

佐藤さんが師と仰ぐのは、東天満『なにわ料理 有(ゆう)』の古池秀人さん。今はなき北新地の名割烹『㐂川(きがわ) 有尾』で二代目を務め、舞台を天神さんのお膝元に移した際に考案したのが「天神紅梅蒸し」でした。

梅干しに針で無数の穴をあけ、一晩かけて塩抜き。さらに、だしで炊いてほどよき塩加減に。そのだしは茶碗蒸しの地に使って梅の香を移し、一体感も創出。完成度をぐぐっと高めた名作です。

「なにわ料理 さと有」天神紅梅蒸し作り方
左が塩抜きしてだしで炊いた状態。この浸し地を使った卵生地で茶碗蒸しを仕立てる。
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『㐂川 有尾』時代から古池さんの下で約24年働いた佐藤さんは、今年6月、“有”の字をもらっての暖簾分けで店を開きました。古池さんは、それを契機に『有』の料理をコース一本に。「天神紅梅蒸し」を含めたすべての単品料理を佐藤さんに託し、独立を後押ししたそう。

「コースは『有』で、単品はうちで愉しんでいただけたらと思って、師匠の割烹から徒歩圏内に店を構えました」。かくして、南森町駅から徒歩13分の静かなエリアに、新しい単品割烹が誕生しました。

「なにわ料理 さと有」店主・佐藤淳二さん
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割烹だけど、ポテサラも、ビフカツも

とある夏の夜、よく飲み、よく食べる連れと味わったのは、「天神紅梅蒸し」を含む7品。 まずは、生ビールで乾杯し、鱧の焼き霜が供されたところで、すぐさま日本酒へ。佐藤さんお勧めが富山の「勝駒」と聞いて、即決。1合1000円なり。

80の品書きには季節の料理に交じって、こんな気さくな一品も。「温かいポテサラ」1000円は、『㐂川 有尾』で供していた「新ジャガの揚げサラダ」のアレンジ版。ホワイトソースでコクを増し、トウモロコシで夏色を添えたポテサラを丸めて揚げて、粒マスタードのマヨネーズで。ほどよい酸味が食欲を刺激して、んじゃあ、お次はちょいヘビーな一品を。

「なにわ料理 さと有」温かいポテトサラダ
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ここは『有』名物の一つ・ビフカツといきたいところですが、昨今の食材の高騰を考えるとお値段がちと心配。ところが、宮崎牛のウチヒラを100g使って2400円と良心的! 薄衣のビフカツはロゼ色の断面が美しい割烹仕立てで、ケチャップとカレー粉をブレンドしたウスターソースのノスタルジックな味わいもたまりません。「勝駒」とも、なかなかよろしき相性です。

「なにわ料理 さと有」ビフカツ
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店主の故郷・新潟から届く幸も、ぜひ

夏バテ気味とあって、お次はスタミナの付く一品を。関西では珍しい「どじょう柳川鍋」2200円。佐藤さんは新潟出身で、地元の料亭『鍋茶屋』で4年修業し、そのツテで希少な国産どじょうが手に入るのだそう。『有尾』の頃から作り続けているとあって、独特のクセをきれいに和らげた品のいい塩梅。ささがきゴボウの野趣も手伝って、「勝駒」2合目がするりと空きました。

「なにわ料理 さと有」どじょう柳川鍋
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クジラの舌をこっくりと煮込んだ「サエズリと青菜」を追加して、締めにはトマトかスダチを選べる冷やしうどんをいただき、お酒は2人で4合ほど。お会計は1人14000円弱。どうです? 温和な佐藤さんとカウンター越しに交わす会話も楽しく、居酒屋よりもリッチな気分で過ごしての、このお値段。“ご褒美メシ”には、もってこいの一軒です。

しかし、80種の品書きは罪深い。れんこんまんじゅうや、河内鴨と新小芋のカレー煮、新潟から届くノドグロの塩焼きも食べたかった…。そうそう、魚沼出身の佐藤さんが「うちの白米は旨いですよ」と言っていたので、締めは本マグロ漬ごはんもアリだったなぁ。満腹で幸福なのに、名残惜しさが押し寄せて(笑)、単品割烹の深淵をのぞいた夜でした。 予約はコチラから。

「なにわ料理 さと有」内観
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「なにわ料理 さと有」外観
『有尾』『有』の字を手掛けたのは、美術家の山口道夫氏。その字を『さと有』も受け継いでいる。
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writer

中本 由美子

nakamoto yumiko

青山学院大学を卒業し、料理と食の本を手掛ける東京の「旭屋出版」に入社。4年在籍した後、「あまから手帖」に憧れて関西へ。編集者として勤務し、フリーランスを経て、2010年から12年間、編集長を務める。21年、和食専門ウェブ・マガジン「和食の扉〜WA・TO・BI」を立ち上げ、25年に独立。フリーの食の編集者&記者に。産経新聞の夕刊にて「気さくな和食といいお酒」を連載中。