神戸『炭ノ火ノtomo』で炭火焼き+αと播州地酒を
播州地酒が揃い踏み! まずは造り盛合せで
神戸市以西の播州エリアには、個性的な酒蔵が点在している。私の好きな地酒も多いけれど、なかなか和食店ではお目にかかれずにいた。神戸・三宮の『炭ノ火ノtomo』でカウンターに座し、酒の品書きを見て、思わずニンマリ。好みの播州地酒が揃い踏みだ!
それもそのはず、店主の松本知樹さんは姫路出身。神戸の人気和食店『百味処おんじき』のご主人が姫路で展開していた居酒屋やダイニングなどで経験を積み、その一軒を譲り受けて29歳で独立したという。会席料理店『德庵』を8年営んだ後、アラカルト和食のニーズを察知して方向転換。三宮の駅前に移転し、炭火焼きを軸に創意ある一品を楽しませるこの店を開いた。
というわけで、4種、いや5種は地酒を飲むぞと意気込んで、健啖家で左党の連れと共にカウンターに陣取ったのは、初夏の夜。旬の野菜や肉の炭火焼きは必食として、干物もそそるし、独創的な一品も揃うとあって、品書きは目移り必至だ。「お薦めを順にお出ししましょうか?」。松本さんの助け舟に乗っかって、まずは生ビールで喉を潤す。
一品目は、お造りの盛合せ。瀬戸内の天然鯛に宮城の本マグロ、豊後(ぶんご)水道のアジ、千葉は御宿(おんじゅく)の金目鯛と、2人前でこの量感!
空腹の身に有難かったのは、1カンずつの鯖寿司。しかも、佃煮風の高菜とゴマたっぷりのシャリで、飲ませる味。早速、播州地酒へ。姫路の「灘菊 一辛(いちから)」は私の大好きな純米酒で、キレのいい辛口がお造りにはもってこいだ。
見た目はマリモ!?な名物に、超レアのアジフライ
『炭ノ火ノtomo』には”映える”名物がある。マリモのような見た目が愛らしい「まぐろアボカドタルタル」。本マグロの赤身を叩き、アボカド、カシューナッツと合わせ、昆布醤油とワサビオイルも利かせて丸めている。青さ海苔をまとわせて皿に盛ったら、雪塩と穂ジソを散らして完成なり。
大胆に箸を入れ、まずは一口。パンチのある磯の香りに、マグロの旨みが拮抗している。カシューナッツの香ばしさがいいアクセントだ。
名物には播州地酒の雄を、と選んだのは「播州一献 超辛」。ドライでクリアな酒質はバランス感に富んでいて、多層的な旨みを見事にさばいてくれる。
春巻きの皮を揚げて受け皿にする発想が面白い「ぽてとさらだ」に、ネギたっぷりの「うす揚げサンド」。センスが光る一品には、旨口の「純青(じゅんせい) 生酛(きもと)純米」を添わせて。 続く一品は、大人気の「あじレアフライ」だ。
ジュッと音がしたかと思えば、20秒で揚げ上がり。断面を見れば中心は完全にレアだ。火入れのグラデーションが、アジの持ち味を際立たせている。
たっぷりのタルタルソースは酸味がキリッと利いていて、別添えのウスターソースと好対照。一切れずつを交互で味わいながら、別の意味でのレアな地酒をぐびっといく。
「雪彦山(せっぴこさん)」の「呼應(こおう)100年」は、100年前の酒を現代に甦らせるべく、「辨慶(べんけい)」という酒米を復活させて醸した山廃純米。重厚な中に甘みと酸味が共存していて、アジの脂を流しつつも、スイーッと消えゆくキレがいい。
だしをかけて味わう干物の炭火焼き
松本さんは、お造りから創意ある一品までワンオペで手早く仕上げながら、炭床と行ったり来たり。テキパキとした仕事ぶりは見ていて実に気持ちがいい。
炭床では、立派な金目鯛の干物がいい焼き色を帯びている。香ばしさが客席に届き、もう1杯を誘う。
松本さんにセレクトを委ねると、即決して「白鷺(しらさぎ)の城」。姫路城主にも酒を納めていたという天保6年創業の『田中酒造場』が醸す大吟醸だ。聞けば、蔵元は同い年で、「日本酒ゴーアラウンド」というイベントで2年連続タッグを組んでいるとか。
フルーティで華やかな1杯をちびりとやって、待つこと数分で「金目鯛開き干物」が焼き上がった。カマ下あたりに箸を入れると、ガシュッと脂が弾ける。半分はそのまま身の充実感を楽しみ、残りは魚のアラだしをかけて、しっとりした身の旨みを堪能するという趣向がいい。「うちは椀物がないので、炭火焼きでだしを味わってもらおうと思って」と松本さんが笑う。
和牛や鴨などを炭火で焼いてもらって、締めは「名物鶏にゅうめん」がお勧めだそうだが、この夜は干物までで満腹に。お会計は1人12000円ほど。5種の地酒を堪能してこのお値段なら、ちょいと飲みすぎても安心だ。
19時に予約して2時間ちょっと。手をかけた一品がテンポよく供されるカジュアル割烹的な心地よさが人気で、早い時間は満席が続いているというが、2回転めは少し落ち着いているとか。思い立って今夜、という向きは、20時以降が狙い目だ。
data
- 店名
- 炭ノ火ノtomo
- 住所
- 兵庫県神戸市中央区中山手通1-9-16 扇港ビル2階
- 電話番号
- 078-599-8441
- 営業時間
- 17:00〜23:00(土曜は15:00~)
- 定休日
- 日曜、第1月曜、祝日の月曜
- 交通
- 各線三ノ宮駅から徒歩5分
- 席数
- カウンター8席、テーブル6席、はなれ1室(2~12名)
- メニュー
- ぽてとさらだ800円、うす揚げサンド700円、名物鶏にゅうめん900円。生ビール950円。

writer

中本 由美子
nakamoto yumiko
青山学院大学を卒業し、料理と食の本を手掛ける東京の「旭屋出版」に入社。4年在籍した後、「あまから手帖」に憧れて関西へ。編集者として勤務し、フリーランスを経て、2010年から12年間、編集長を務める。21年、和食専門ウェブ・マガジン「和食の扉〜WA・TO・BI」を立ち上げ、25年に独立。フリーの食の編集者&記者に。産経新聞の夕刊にて「気さくな和食といいお酒」を連載中。
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