明石浦漁港の仲買人×熟練寿司職人のタッグ。兵庫・西明石『ピコのおすし』で、ピンの魚を堪能する
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明石焼の店から寿司店に
明石方面へ走る電車が須磨に差し掛かると煌めく海の青さに心が躍る。そして垂水駅に近づき明石海峡大橋が見える頃にはテンションも爆上がり。何度も目にした風景なのに、このワクワク感は変わらない。
本日の目的地はJR西明石駅すぐのところにある『ピコのおすし』。オーナーは鮮魚仲買『つる一』の3代目の鶴谷真宜さんで、兵庫県内のみならず、大阪に京都、東京の星付きの有名店まで、明石浦の昼網で競り落とした抜群の魚を届ける仲卸人だ。
店は西明石駅の在来線ホームからも見える距離にある。ここはもともと鶴谷さんのお母さんが営む『玉子焼ピコ』という明石焼の店だった。そこを畳んで、自社が扱う明石の鮮魚で『ピコのおすし』を開店したのは、2025年春のこと。カウンター5席に2名掛けテーブルが2卓の小さな店だ。
調理を担うのは田淵康満さん。長年西明石の寿司店で勤め、鶴谷さんとは旧知の仲だった。田淵さんの勤務先の閉店に伴い声を掛けた。
名刺代わりの鯛の衝撃
明石の魚介のメジャーどころと言えばご存知、鯛にタコ、ハモに、近年はサワラも超高級魚として市場に出ている。鶴谷さんによれば明石浦で獲れる魚種は年間200種類もあるそう。「他の街ではほとんど知られてない魚や、飲食店に送るには目方が若干小さい魚など、未利用魚を使って明石の魅力を伝えていきたくて」。
開店当初は寿司屋なのでとウニやイクラ、マグロなども出してはみたが、結局「よそもんやん」ということで提供をやめ、近海の旬の白身だけに絞った。
6800円のコースの品数は約14品。付出しに始まり、挨拶がわりの刺身ですぐに明石の仲卸の力を見せつけられた。この日は鯛。ブリンと弾ける弾力と噛み締めるたびに感じる甘み。「鯛の美味しさって香りにあると思うんです」と鶴谷さん。あえて厚切りにしてあり、口の中でしっかり咀嚼させる。すると口中温度で鯛の持つ香りがふわりと広がる。飲み込んだあとの、喉越しの風味の良さを堪能して欲しいとのこと。
明石の鯛といっても、時期はもちろん、海の深いところでエサを食べて育った鯛か、浅いところを泳いでいた鯛なのかで身の締まりや味わいに違いがある。それを見極めるプロの仲買人が締めた刺身。鯛は決して淡白な魚ではないと噛み締めながら実感する。
インディーズの地魚が主役
アテ的な一品や、煮付けに天ぷら、序盤から合間に寿司も入ってくるのがこちらのコースのユニークな展開だ。「握りと肝」と記された品で登場したのは、鯛の握りと器に盛られた、ぶつ切りの鯛の身と肝の和えもの。鯛の肝なんて人生で口にする機会がまずないので、驚いた。塩とゴマ油で和えて、上にネギ。味や食感は昔、焼肉屋で食べたレバ刺しに近い。鯛の肝はプリっとして臭みがなく、濃過ぎず品のいい旨みがある。鮮度がいいから、そしてたくさんの鯛を扱う仲買の店だから提供可能な貴重な一品だ。
煮物はスズキやオコゼなど、その時々の魚で田淵さんが手がける。ちなみに田淵さんも毎日どんな魚が入ってくるのか『つる一』に魚を取りに行って初めて知るそうで、まさに一期一会の献立になる。いずれにせよ素材がいいから、煮魚でも砂糖や醤油などの余計な味付けはなし。梅干しでシンプルに炊いた梅煮が夏の暑さで疲れた身体に沁み入る。
続いてこの日の天ぷらはハモとトラハゼ。「トラハゼなんてね、天ぷらになるために生まれてきた魚なんじゃないかという味ですよ」と鶴谷さんが教えてくれた。けれども繰り返しになり恐縮だが、トラハゼの天ぷらなんて、ここ以外でそうそう出会えるものではない。
タモリにメゴチ、ヒメコイカ、兵庫県内に住んでいても初めて聞く魚も多い。そんな「インディーズの魚たち」を主役にして多彩な調理法で提供するのが『ピコのおすし』なのだ。
セイロで蒸す蒸し寿司のこの日のネタは旬のシラス。シャリは粒の立ったヒノヒカリで。温い酢飯とふっくらしたシラスがいい塩梅。この後、茶碗蒸しがわりの明石焼。これは天丼ですか?という大きな器に入った味噌汁などが続き、いよいよクライマックスの握りが始まる。
終盤の握りも白一色で!
港町気質のきっぷの良さで、実はオープン当初は各皿もっとボリュームがあったという。ところがメインの握りに到達する前に満腹になる人が続出し、肝心の寿司を折り詰めしての持ち帰りが多くなってしまったため、量を調整したそう(それでも結構な量です!)。
夏のある日の握りのネタ箱は、ハリイカ、スズキ、ウマヅラハゲ、タケノコメバル、ハモ、アコウ、キジハタなど。
脂が乗ってとろける寿司もいいけれど、白身の弾力と奥ゆかしい旨みで通せる店は日本全国におそらくここしか存在しない。そして白身の旨さを通しで味わう、ある意味大人な寿司屋の楽しみ方もまたオツなもの。
締めに手巻き寿司が供されて、ここまで食べ切ったら、あとは、ネタとシャリが許す限りおかわり自由!と聞いて笑ってしまった。あっぱれ西明石。さすがです。参りました。
白身の“前モン”オンリーの通常営業とは趣向を変えて、日頃魚を卸している飲食店とのコラボイベントや、この夏には旬のハモとタコだけで構成した特別コース「ハモタコピコ」の日など、限定営業も実施している。ちなみに昨冬には、日本海の柴山まで鶴谷さんが車を走らせて仕入れてきた松葉蟹で「カニピコ」なる特別営業もあったのだが、これも11000円で松葉蟹づくしと恐ろしく値打ちだったため、席の争奪戦が巻き起こっていた。
開店から1年が過ぎ、仲買人と寿司職人の最強タッグと、鮮度と値打ちの噂が、遠方に回り始めている。そして新幹線が止まる西明石駅ということもあり、各地からわざわざ食べに来る人が増え出している。本当は内緒にしておきたかった『ピコのおすし』。折々の白身の魅力を味わいに、季節ごとに通ってみたい。
data
- 店名
- ピコのおすし
- 住所
- 兵庫県明石市西明石南町1-4-13
- 電話番号
- なし
- 営業時間
- ランチ12:00〜14:30、18:00〜20:30
- 定休日
- 日曜、木曜不定休
- 交通
- 西明石駅から徒歩1分
- 席数
- カウンター5席、テーブル2席
- メニュー
- おまかせコース6800円。焼酎500円〜、日本酒700円〜、ボトルワイン6500円〜。
- 備考
- 席の予約はInstagramのtablecheckから。
writer

三好 彩子
Miyoshi Ayako
愛媛県生まれ。関西の飲食店の皆様に育てられ、丸々成長した食いしん坊フードライター&編集者。特技はレストランの厨房に潜入取材をすることで、調理師免許も取得。イベント司会や企業のプロモーションも担う。共著書に『ご当地グルメコミックエッセイ まんぷく神戸』(株式会社KADOKAWA)がある。
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