関西モーニング手帖Vol.16/激戦区で、昭和の純喫茶の王道を体現。『鎗屋町 喫茶室 街の灯り』
母親譲りの純喫茶の王道メニュー
官庁街にもほど近いオフィス街。角地で目を引く店構えは、一見、年季が入っていますが、実は開店したのは8年前。「流行りのカフェより、断然、純喫茶が好き」という店主・藤本由美さんが、30年以上続いた喫茶店を継承し、老舗の記憶と趣をそのままに残しています。
遡れば、子供の頃から家業の喫茶店の空気に親しみ、長じて、息抜きの場として日常に欠かせない存在となった藤本さん。かつて母親と共に営んだ店を、いつか再開したいと考えていた藤本さんにとって、ここは理想の場所だったとか。
「やるからには昭和の喫茶店の王道を再現したい」との思いは、空間のみならずメニューにも随所に。地元の焙煎卸・タイガー珈琲から仕入れるブレンドコーヒー一つとっても、「ビジネス街なので、お待たせせずに出せるように」と、味にブレなく、素早く抽出できるサイフォンを使用。片やアイスコーヒーは、まろやかなコクが出るネルドリップで、冷気を逃さない真鍮のカップで提供しています。
細やかな仕事ぶりは、往年、喫茶店の開業支援も数々手掛けた「プロ中のプロ」という母親仕込み。とはいえ、接客は肩肘張らず。和気藹々とした空気を醸し出すのは、単なる喫茶店好きに止まらない、“中の人”としての心得があるからこそです。
モーニング激戦区で際立つ個性
界隈は、オフィス街とあってモーニング激戦区。7時から開いてる店も珍しくなく、「8時開店でも遅い方」という。ホテルも点在し、宿泊客の朝食も多い。それゆえ、「街の灯り」でもモーニングは4種と充実。トースト、茹で卵の定番の取合せももちろんあるが、せっかくなら、ここならではのオリジナルを楽しみたい。
店の名物の一つ、ホットドッグは、カレー味のキャベツを挟んだクラシックなスタイルを踏襲。一説によれば、戦前、日本に初めて到来したホットドッグと同じ取合せだったという。「母の店で出していた頃と作り方は同じ。当時はこれがスタンダードでした」と藤本さん。断面を見れば、スパイシーなルウがあふれんばかり。後を引くパンチのある辛味は、目覚めに効きそうです。
さらに、藤本さんの思い入れ深い一品が、昔ながらのブランチ。会社員時代に足繁く通ったという心斎橋の老舗喫茶「匠」の看板メニューを復刻した一品です。「当時、週2、3回は食べに行ってましたね。『匠』では時間を問わず注文可能で、サンドイッチでも定食でもないという気分の時に、ぴったりくる一皿でした」と振り返る。後に、母親と共に喫茶店を始める際に、スタッフとしても長らく働いた“修業先”でもある。
当時、「匠」ではホテル出身のシェフが腕を振るい、特に本格的なオムレツが評判だったとか。さすがにオムレツは再現できなかったが、その分、ハムエッグをダブルに。分厚いトーストに自家製ジャム、サラダ、フルーツと豪華な一皿は、「ボリュームがあるから、特に海外のお客さんに人気」と藤本さん。週末のちょっと贅沢な朝食としてもおすすめです。
ドリンクから軽食まで、喫茶店の王道を行くメニューは、実に80種と幅広い。ほとんどが母親の店のレシピをベースにしています。バナナと缶詰フルーツで作るミックスジュース、いまや見かけることも少なくなったミルクセーキ。オムライスにナポリタン、季節限定の珈琲ゼリーやぜんざいまで。変わらぬ昭和の定番は、往時を知る層はもちろん、若い世代にも支持を広げています。
コーヒーが似合う“大人のプリン”
中でも、自家製のプリンは、いまや店一番の人気者に。脚付きの皿に恭しく盛られたプリンは、童心を弾ませる可憐なイメージですが、ご覧のシックな佇まいはむしろ大人仕様といった趣。黒々と艶めく焦がしカラメルのビターな香味に合わせて、まったりと濃密な甘みとほろ苦い後味が、コーヒーを呼んでやみません。
毎週金曜の夜喫茶も好評
藤本さん自身の想い出の味や、母の店の名物、昭和の純喫茶の系譜を継ぐ一品まで、いずれのメニューにもノスタルジックな記憶が満ちているのは、この店ならでは。「若い頃、“憧れの大人の空間”だった、古き良き喫茶店の空気を伝えたい。大阪で最後の一軒になっても続けます(笑)」と藤本さん。金曜は夜遅めの時間まで開けているので、会社帰りの一服や、飲んだ後に〆のコーヒーなどにも。
一見、ありふれているようで、いまや貴重な昭和の喫茶店の醍醐味。懐深いくつろぎの時間には、揺るがぬ喫茶愛が満ちている。
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- 店名
- 鎗屋町 喫茶室 街の灯り
- 住所
- 大阪府大阪市中央区鎗屋町1-2-2 ビルディングセキ1F
- 電話番号
- 090-4285-3397
- 営業時間
- 月・火曜8:00~19:00、水・木曜~20:00、金曜9:30~21:30、土・日曜・祝日11:00~18:00 ※モーニングは8:00~11:00
- 定休日
- 第1土・日・月曜
- 交通
- 地下鉄各線谷町四丁目駅から徒歩3分
- メニュー
- ミックスジュース850円、ミルクセーキ800円。昔ながらのナポリタンセット1500円、プリン・ア・ラ・モード1200円。

writer

田中 慶一
KEIICHI TANAKA
学生時代からのコーヒー好きが高じて、全国各地で訪れた喫茶店・カフェは1000軒超。老舗喫茶から最新のコーヒーショップまで取材に携わり、情報誌を中心に執筆多数。関西の喫茶店の系譜を辿った著書も刊行。
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