週4日のランチ営業のみ、季節でうつろうフォー専門店。京都・出町柳『フォー屋』
料理家のセンスが光るフォーを目当てに
川風が心地よく吹き抜ける出町柳の住宅街に、知る人ぞ知る隠れ家的なフォー専門店がある。
営業は水、木、金、土曜のランチタイムのみ。限られた時間を目がけ、開店と同時にファンが訪れる。
営むのは、保存食を通じた調味料づくりやケータリングで長年キャリアを積んだ増本奈穂さん。
芸大生時代、食への興味からケータリングを始め、卒業後は本業として取り組むように。活動を続けながら、京丹後市の実家で育った野菜を使う瓶詰めの調味料や保存食を作っていたところ評判となり『保存食LAB』を立ち上げた。そして約10年前に構えた工房が、現在の『フォー屋』がある場所だ。
当初は自家製調味料や保存食を作る工房兼、週末に軽食を提供するカフェ&ショップとして営業。そうしたなかで提供し始めたのがフォーだった。
「国内外を旅する中でアジアの食文化がもともと好きだったことや、年齢的に小麦粉よりも米粉麺の方が身体に合うと感じるようになったことから、フォーが好きになったんです。京都にフォーを出すお店が少ないと思ったことも、始めるきっかけの一つでした。お好みで調味料を加えて、味の着地点を自分で変えられるのも魅力だと思います」。
旬素材の魅力をフォーに重ねて
「ただ、ベトナム料理を作っている感覚はないですね」と増本さん。
その言葉は、器の中を見るとよく分かる。
例えば、この日の麺の上には、定番の蒸し鶏に加え、少量のナンプラーを利かせた和だし(!)で炊いた冬瓜がゴロリ。
口に含むとトロリとほどける冬瓜から、だしが口いっぱいに溢れ、冬瓜の風味も相まってほっこり。
そこに麺のツルッとした喉越し、パクチーやディルといったハーブの香りが心地いい。
具材は他にも、香ばしい焼きナスや焼き舞茸、時にイカやカキ、カニを使ったものまで。仕入れや季節の移ろいに合わせて変わるため、訪れるたびに新しい出合いが待っている。
「熱々の冬瓜や大根はスープが冷めにくくなるので、お気に入りの具材です。フォーは基本的に合わないものがなく、さまざまな食材を受け止めてくれる懐深い料理なんです」。
フォーの要ともいえるスープは、鶏ガラと鶏ムネ肉を中心に、パクチーの根やバイマックル、レモングラスといったハーブを合わせ、濁らないよう静かにじっくり煮込んで透明に仕上げている。奥深い味わいながらも、卓上の自家製調味料で自由に味を調整できるよう、味を決めすぎず”余白”を残すのもこだわりだ。
そんな自家製調味料は、ラッキョウの酸味を効かせた「スイートチリソース」(写真右)やキリッとした辛味と旨みを足す「青唐辛子のナンプラー漬け」(写真中央)、パクチーの根や花山椒が香る「香草旨麻辣油」(写真左)が。さらに華やかで鮮烈な山椒が香る「山椒香油」(写真左のボトル)が常時卓上に置かれる。
「フォーに山椒を合わせるのは珍しいですが、スープに入れると和の風味が加わって、意外に合うと人気なんです」と増本さん。
その言葉どおり、クリアな鶏のスープに和洋のハーブや素材が響き合い、新しい発見が待っている。
新感覚!ビビッドな緑のフォーも
毎日2品取り揃えるフォーのうち、もう一品は彩り豊かな個性派が。
なかでも「緑のフォー」は、青ネギや生姜、実山椒、青唐辛子をペースト状にし、クリアな鶏のスープと合わせた鮮やかなグリーンのスープが特徴。豊かで複雑な青々した香りとピリッとした爽やかな辛味が鼻腔に抜け、残暑が残る季節にもぴったりだ。
この日の具材は、湯むきしたトマトとシジミ。
「ヴィジュアルにこだわるのが好きなこともあり、彩りはケータリング時代から大切にしてきました」。ビビッドな色彩が目を引き、湯気と共に漂う鮮烈な香りが食欲を刺激する。
この他にも、ココナッツミルク入りのイエローカレー仕立てや肉味噌を合わせたものなど、個性派フォーのバリエーションは豊富だ。
目にも鮮やかで、食べると身体の内側から元気になるようなフォー。出町柳のスローな雰囲気と芸術家のアトリエのような空間も心地いい。
data
- 店名
- フォー屋
- 住所
- 京都府京都市左京区吉田泉殿町68-24
- 営業時間
- 11:30~14:30
- 定休日
- 日・月・火曜
- 交通
- 京阪出町柳駅から徒歩5分
- 席数
- テーブル12席
- メニュー
- 季節のフォー単品1100円、セット1650円。缶ビール600円、自家製レモンスカッシュ750円、プレミアムジャワティー(赤・白)700円。

writer

佐藤 良子
satoryoko
料理取材に徹して20年の食ライター。歴史が好きなため、料理史の観点から見るレストラン取材がライフワーク。日々賑やかな小学生2児の母。
Instagram@ryocosugar
recommend






