“焼く”にフォーカス!──大阪『tanpopo』の「特製細めん焼きそば」
『カハラ』森 義文さんとの縁が転機に
日本の焼きそばのルーツは、中国の炒麺(チャオメン)。今まで考えたこともなかったが、なぜ、「炒」ではなく「焼」として定着したのだろう。日本のソース焼きそばは、昭和10年頃、浅草のお好み焼き屋が始めたそうな。中華鍋ではなく、鉄板で加熱したことから「焼」と謳ったようだが、調理法としては「炒める」が正しいような…。
そうなんですよ! 焼きそばは蒸し麺を鉄板で炒めて、ソースと和えて…というのが定番の調理法で、正確には焼いていないんですよ。ですが、うちの「特製細めん焼きそば」は正真正銘、焼いてます! カリッとした焼き目の食感や香ばしさは、炒めるだけでは得られないもの。『麺屋棣鄂(ていがく)』の生麺に出合わなければ、この一品は生まれませんでした。
『麺屋棣鄂』といえば、全国のラーメン店が信頼を寄せる京都の製麺所。この生麺を『tanpopo』店主の神谷圭介さんに紹介したのは、北新地の名店『カハラ』の森 義文さんだった。80代になられた今も現役で、大阪の料理界をけん引し続けている森さんは、面倒見がいいことでも知られている。素晴らしい食材を見つけたら、ジャンルを問わず、様々な若手に紹介。森さん発信で関西に根付いた食材は枚挙にいとまがない。
有名店で修業したワケでもない、素人に毛が生えたような僕のことをすごく気にかけてくださって…。岡山の『吉田牧場』のカチョカヴァロなど、ホントにいろんな食材をご紹介いただきました。「口に入れるものは全部こだわった方がいい」という真摯な方で、氷一つおろそかにしない。この生麵も「試してみたら?」と、わざわざ持ってきてくれはって。25歳で出会って以来、師匠のいない僕は、森さんに料理人としての姿勢を教わってきました。
“鉄板ビストロ”の先駆け
神谷さんが鉄板焼きと出合ったのは、「料理が好きやったんで」脱サラし、初めて務めた店でのこと。なんと半年でオーナーが店を閉めると聞いて、「技術もないのに買い取らせてもらったんです(笑)」。当時は、ダイニングバーでもやろうかと安易に考えていたそうだが、せっかく鉄板があるのだからと、粉もんや焼物を作り続ける中で、「鉄板しかできない火入れがある」と気が付き、突き詰めたくなったという。
堂島に『tanpopo』を開いたのは1999年、23歳の時です。その頃から兎我野(とがの)町にある熟成イタリアワインの専門バー『アル・リコルド』のご主人にとてもお世話になっていて。ある時、カウンターで森さんと隣合せになって、なんと翌日に来店してくれはったんですよ! 食材だけでなく、たくさんの料理人との縁も繋いでくださって。料理は独学の僕を心配してくれたのか、いろんなジャンルのシェフにご指南いただきました。
神谷さんは、多くの料理人から受ける刺激や、森さんが紹介してくれた食材を実に素直に受け入れてきた。その結果、『tanpopo』は“鉄板ビストロ”の走りとして人気を得るように。2017年に北新地に移転して8年。今では、全国のシェフが喉から手が出るほど欲しがる滋賀・南草津の精肉店『サカエヤ』の牛肉や鮮魚、季節野菜の一品が品書きを彩る。一品料理をイタリアワインと共に楽しみ、粉もんで締める大阪らしいスタイルは、遠来の客をもてなす際の私の切り札だ。
締めの粉もんには、ずっと力を入れてきました。お好み焼きは専門店が多いですが、「焼きそばを食べに行こう!」って案外思わないですよね。それで、リングイネを使って差別化を図ってきたのですが、もう一つ、新たな焼きそばを考案したいと考えていたタイミングで、森さんに細麺をご紹介いただいて。2015年のことです。生麺ですから、茹でてそのまま炒めると粘りが出るんですよ。焼き方もソースも改良し、完成までに10カ月かかりました。
“炒”麺ではない、“焼”きそば
鉄板カウンターに陣取ると、目の前で楽しめるのは「特製細めん焼きそば」SHOWだ。茹でて冷水で締めた麺を鉄板に広げ、サラダ油をかけたら片面を4分。炒めるのではなく、じっくりと焼き固めていく。
ひっくり返したら、さらに2分。傍らで豚肉を焼き、キャベツは水を加えて蓋をして蒸し焼きに。 すると、神谷さん、おもむろに麺の円盤を持ち上げては落とし始めた。
持ち上げては落とす作業を10回くらい繰り返して、余分な油を切ります。豚肉とキャベツを炒め合わせ、ソースをかけたら、麺をほぐす。これを2回繰り返して完成です。焼き固めた麺をソースの水分で戻すイメージなので、とろみのある焼きそばソースではなく、カツオ昆布だしを利かせたしゃばしゃばのソースを、この焼きそばのために考案しました。
ここまで麺が主張する焼きそばは初めてだ。細麺ながら、驚くほど噛み応えがある。焼き色のついた部分はパリッと、そうでない部分はもちっとした食感で、そのコントラストが楽しい。つるつるっではなく、もぐもぐ食べるというイメージで、そのたびに小麦の香りが鼻をくすぐる。均一にまとわせたソースは、オイスターソースのコクやだしの旨みがあいまって、後を引く味だ。
独立から25年以上が経って、僕は50歳になりました。深く考えずに選んだジャンルでしたが、鉄板焼きに出合えて本当に良かった。スペインのプランチャや、メキシコのタコスなど、鉄板料理は世界中にあって、まだまだ無限の可能性がある。僕は、大阪を代表する粉もんを世界に広めていきたいんです。壮大な夢ですが、チャレンジしたいと思っています。
神谷さんは謙虚で、素直な人だ。「素人から始めたのに、周年を祝ってもらうなんておこがましい」という姿勢で、四半世紀を重ねてきた。その腰の低さが多くの人の助力を引き寄せ、『tanpopo』の今がある。50歳にして知った天命は、大阪が誇る粉もんを世界へ。神谷流・鉄板キュイジーヌの可能性は無限大だ。
data
- 店名
- tanpopo
- 住所
- 大阪府大阪市北区曽根崎新地1-10-16 永楽ビル6階
- 電話番号
- 06-6344-2888
- 営業時間
- 18:00~22:00(21;00LO)
- 定休日
- 日曜、祝日不定休
- 交通
- JR北新地駅から徒歩すぐ、地下鉄西梅田駅・阪神梅田駅から徒歩5分
- 席数
- カウンター8席、テーブル8席、個室1室(4~6名)
- メニュー
- オムレツ各種1400円~、とろろ焼各種1200円、お好み焼き1300円~、コース6800円~。グラスワイン1000円~。※サービス料10%別。
- https://www.instagram.com/tanpopo_1999/

writer

中本 由美子
nakamoto yumiko
青山学院大学を卒業し、料理と食の本を手掛ける東京の「旭屋出版」に入社。4年在籍した後、「あまから手帖」に憧れて関西へ。編集者として勤務し、フリーランスを経て、2010年から12年間、編集長を務める。21年、和食専門ウェブ・マガジン「和食の扉〜WA・TO・BI」を立ち上げ、25年に独立。フリーの食の編集者&記者に。産経新聞の夕刊にて「気さくな和食といいお酒」を連載中。
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