20年目のナポリピッツァ─神戸『Pizzeria Azzurri』の「フンギ コン フォルマッジ スぺチャーレ」

『Pizzeria Azzurri(ピッツェリア アズーリ)』が神戸に開店したのは2006年。「生地のおいしさに感動して」ナポリピッツァ職人となった小﨑哲也さんが、20周年という節目の年に選んだワンデッシュは、初めて作ったオリジナル・キノコとチーズの“白いピッツァ”。カリッ、さくっ、ふわっ。“額縁”の軽い食感が小気味よく、トリュフオイルが鮮烈に香ります。

カリッ、サクッ、ふわっの“額縁”

ピッツァの縁がぷっくりと膨らんでいる。なんとも旨そうな焼き色だ。甘やかな香ばしさが鼻腔をくすぐる。イタリア語で「額縁」を意味するコルニチョーネ。ナポリピッツァたるゆえんはこの縁にあると、神戸のピッツェリア『Pizzeria Azzurri』店主の小﨑哲也さんは言う。

ナポリピッツァは生地が命なんです。縁の食感は、カリッときて、サクッ。噛みしめると、ふわっとしているのが僕の理想です。もちもち、というのは火が入り切ってないイメージで…。具をのせた真ん中の生地は、しっとり柔らかくないと。シンプルだからこそ、奥が深いんですよ。

「Pizzeria Azzurri」店主の小﨑哲也さん
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ナポリピッツァとの出合いは、日本初の「真のナポリピッツァ協会」認定店となった兵庫県赤穂市の『SAKURAGUMI』。フレンチやイタリアンで働き、窯でピッツァを焼いた経験もあった小﨑さんだったが、「生地のおいしさに衝撃を受けて」方向転換。「真のナポリピッツァ協会」認定店の広島『Pizza Riva(リーヴァ)』を紹介してもらい、1年かけて基本の技術を身に付けたという。

2006年の開店時に目指したのは、“ナポリ人においしいと思ってもらうピッツァ”。でも、当時はナポリピッツァって何?という感じで…。現地を知るスポーツ選手やシェフたちが、少しずつうちのことを広めてくれたんです。壁にいっぱいサインがあるでしょう。これは僕の財産。棺桶に入れてほしいくらい(笑)、大事な思い出が詰まっています。おかげさまで今年で20周年。今は、初めてナポリピッツァを食べた時の、あの感動をお客様に伝えたいと思っていて。初心に返って、改めてピッツァと向き合っています。

「Pizzeria Azzurri」店内
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生地の旨さを伝えるためのオリジナル

初心に返る、という想いを込めて、40種あるピッツァの中から小﨑さんが選んだワンデッシュは「フンギ コン フォルマッジ スぺチャーレ」。直訳すると「キノコとチーズの特別なピッツァ」。開店直後に、オリジナルの一枚を、と初めて挑んだ思い出のピッツァだ。

オープン当初は修業先の『Pizza Riva』のメニューを踏襲していたのですが、自分らしさも表現しないと、と思って。フレンチをやっていた頃、トリュフオイルに感動したことを思い出して創作した一枚です。イタリアではキノコはオイル漬けやソテーを具にすることが多いのですが、僕の好きなキノコを生のまま使っています。生地のおいしさをダイレクトに味わってほしかったので、トマトソースではなく、チーズと塩で味を決めるビアンカ(白のピッツァ)で作りました。

神戸「Pizzeria Azzurri」のキノコのピッツァ
生地にグラナパダーノ(粉チーズ)をまぶし、水牛のモッツァレラチーズを。キノコは、エリンギ・舞茸・マッシュルーム・ポルチーニ茸の4種。グラナパダーノを再びまぶし、胡椒を少し。トリュフオイルをたっぷりと回しかける。
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カリカリの“額縁”を噛めば、サクッふわっと軽い食感。次の瞬間、トリュフオイルが鮮烈に香る。チーズのミルキーさに頬を緩め、キノコのフレッシュ感に瞠目。ギリギリの火入れなのだろう。まるで生のようなフレッシュな食感で、それぞれの個性ある持ち味が立っている。

「Pizzeria Azzurri」の「フンギ コン フォルマッジ スペチャーレ」
フンギ コン フォルマッジ スペチャーレ3300円。お客の半分がオーダーするという『Pizzeria Azzurri』の看板ピッツァだ。
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今日の生地はすごく状態がよかったんですよ。めっちゃいい感じで焼けました。会心の出来です! 20年間、ピッツァを焼いてきましたが、一つとして同じ生地はないし、窯の状態も微妙に違う。毎日が真剣勝負です。ある意味、求道的で、蕎麦やコーヒーに通じるところがある。基本を学べば、ある一定のおいしいピッツァが焼けるのですが、僕はその先があると思っていて。そこを目指してずっとやってきました。

“真のナポリピッツァ”職人

『Pizzeria Azzurri』もまた「真のナポリピッツァ協会」の認定店だ。小﨑さんは、関西支部のエリアリーダーでもある。協会が定めた“真のナポリピッツァ”とは、小麦粉・水・塩・酵母のみを使って、生地は手で伸ばし、薪または木くずの窯で約90秒で焼き上げたもの。厳しい国際規約があるという。

うちはイタリア産小麦粉を2~3種ブレンドして使っています。きっちり品質管理して送られてきますが、いつも同じではないし、気温や湿度によっても状態が変わります。酵母の量を調整したり、ミキシングのスピードを微妙に変えたりして、アベレージを保つのに細心の注意を払って生地を練ります。その後、24時間寝かせて使いますが、発酵と熟成のピークを見極めるのが大事で。毎日、気が抜けない。定休日にも生地を練りに店に行きますし、店内の温度や湿度を保つために窯にも火を入れるんですよ。

「Pizzeria Azzurri」のピッツァ生地
左上が24時間の発酵・熟成を経たピッツア生地。1枚分を手でのばし、成形していく。
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生地はその日中に使い切るという。開店から数時間は、まだ発酵が進んでいるそうで、刻一刻と状態が変わる。それを計算して成形し、具をのせ、ピッツァ窯の中へ。熱源は薪だ。400℃を超える窯の床面で「下からちゃんと焼く」ことも重要。小﨑さんは、焼成の90秒間、窯に付きっきりで、生地を出し入れし、回しながら焼き上げていく。

神戸「Pizzeria Azzurri」のピッツァ焼成シーン
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ピッツァは窯の中の熱ではなく、炉床(ろしょう)と呼ばれる床面で焼くんです。薪をくべて、この炉床の温度を一定に保つんですよ。生地の具合を見て、一枚ずつ考えながら焼いてます。休日やったら140~150枚焼くんで、夏場は大変ですよ(笑)。体力がないと務まりません。しんどいんですけど、楽しいんですよ。20年やり続けても飽きないので、天職やと思っています。

今や『Pizzeria Azzurri』は神戸きってのピッツェリアだ。壁を埋め尽くすサインが、繁盛ぶりを物語っている。その中に、芦屋のナポリ料理店『オステリア・オ・ジラソーレ』の杉原一禎(かずよし)さんがイタリア語で書いたこんな文章がある。「ナポリが恋しい。でも、ピッツァは恋しくない。なぜなら『Pizzeria Azzurri』があるから」。

「Pizzeria Azzurri」外観
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writer

中本 由美子

nakamoto yumiko

青山学院大学を卒業し、料理と食の本を手掛ける東京の「旭屋出版」に入社。4年在籍した後、「あまから手帖」に憧れて関西へ。編集者として勤務し、フリーランスを経て、2010年から12年間、編集長を務める。21年、和食専門ウェブ・マガジン「和食の扉〜WA・TO・BI」を立ち上げ、25年に独立。フリーの食の編集者&記者に。産経新聞の夕刊にて「気さくな和食といいお酒」を連載中。