イタリア最北端の旬味──大阪『タヴェルネッタ ダ キタヤマ』の「ホワイトアスパラとプロシュートコット ボルツァーノ風」
今が旬! イタリア最北端のワンデッシュ
北山伸也シェフは20代の後半を、オーストラリア、スイスと国境を接するイタリア最北端の州で過ごした。トレンティーノ=アルト・アディジェ州。その州都トレントよりもさらに北のボルツァーノで、このワンデッシュに出合い、衝撃を受けたという。
ボルツァーノは山岳地帯に囲まれた街で。見たこともない郷土料理を学ぶことができたのは、今でも僕の財産です。その中でも、この一皿は強烈な印象でした。ホワイトアスパラガスに卵のタルタルの組合せは定番やけど、そこにプロシュートコット(イタリアのボンレスハム)が重なる。初めての取合せで、シンプルにめっちゃ旨かったんですよ!
ボルツァーノで知った郷土の味を、北山シェフはほぼそのまんま供す。ぬくぬくのホワイトアスパラガスとハムをナイフで切り分け、卵のタルタルを絡めて一口。春から初夏のほろ苦さが大音量で舌に響き、ハムの塩気、タルタルのまろやかさが重なる。それらが混然一体となった和音のアクセントは、ふわっと香る青ネギ。優しい滋味が一口ごとに力を増し、思わず白ワインに手が伸びる。
うちでは、イタリアのベネトとフランスのロワールのホワイトアスパラガスを使うのですが、4月からぼちぼち出てきて、5月末まで。「そろそろホワイトアスパラが出る頃でしょ?」と、常連さんは毎年、心待ちにしてくれていて。この時季、カウンター全員がこのワンデッシュから始めることが多いんですよ。春から初夏の、うちの恒例の光景になってます(笑)。
北イタリアの郷土料理をアラカルトで
北山シェフは1974年に大阪の堺で生まれ、現在51歳。18歳でホテルの洋食部門に入り、カジュアルな街場のイタリアンを経験し、一念発起。「郷土料理を学びたい」と2002年にイタリアに渡り、現地の料理学校に通ったという。
当時、関西のイタリアンに少しずつ郷土料理の波が来ているな、と感じていて。トスカーナやピエモンテなど北イタリアでの修業を希望したのですが、最北端のトレンティーノ=アルト・アディジェ州のレストランに行くことになって。それ、どこ?って感じでしょ(笑)。マイナーな州やけど、オーストリアの食文化も入っていて、独特な南チロル料理も学べたのは大きかったです。1年3カ月と期限付きの修業だったので、最後はイタリア全土を回りました。
帰国後、先輩のイタリアンを手伝っていた北山シェフに、白羽の矢が立つ。郷土料理のアラカルトで一世を風靡した『マーブルトレ』に入店し、32歳で3号店の『リット・マーブルトレ』の料理長に抜擢された。3年務めた後、2012年、小さな食堂を意味する“タヴェルネッタ”を本町に開店。10年を機に心機一転、2023年に上本町に移転を果たした。
北イタリアの郷土料理をアラカルトで楽しませる『リット・マーブルトレ』のスタイルを踏襲しています。僕はルーツのない料理はやらないと決めていて。古典的な料理に自分の解釈を加えた一品料理を作り続けています。移転を機にワンオペになったんですけど、アラカルトが性に合ってるんでしょうね。コースにしようと思ったことは、一度もないんですよ。
ワイン片手に楽しむ割烹的タヴェルネッタ
『タヴェルネッタ ダ キタヤマ』の黒板には、いつも旨そうな文字が並んでいる。メニュー数は約40種。春先のとある夜、移転後のカウンターに4人連れで陣取った。胃袋に自信ありの食いしん坊揃いで、「5品も食べたら満腹ですよ」というシェフの助言を制して6品をオーダー。背中から胃が飛び出すかと思うほど、お腹がはちきれそうになった。
前菜とパスタを2皿ずつ、メインの肉料理を1皿というのが、うちの定番。最後までワインを楽しんでほしいから、デザートはご用意してないんです。旬の食材を目当てに、というお客様も多くて。5月末からはアーティチョーク。秋からは白トリュフやポルチーニ。今の時期はやっぱりホワイトアスパラガスですね。今日(3月末の取材時)のは50円玉くらいの直径やけど、4月中旬からの最盛期は500円玉くらいになって、風味も甘みもぐっと強くなるんですよ。
旬の一品をアラカルトで楽しめるスタイルは、まるで割烹のようだ。この時季ならば、前菜は今回のワンデッシュと、魚介と空豆のクレープ。金華鯖のマリネもいい。パスタは、修業先のレストランの名物で、北山シェフのスペシャリテでもあるチーズフォンデュを詰めたカッペレッティ。お得意の肉料理は、全国的に人気の滋賀の木下牛あり、ビゴール豚あり。いやはや、やはり悩ましい。
オーダーに迷ったら、気軽に声をかけてくれはったら。ワインも含めて、ある程度任せてもらうことが多いんですよ。今回のワンデッシュは撮影用に2本盛りましたが、本来は一皿に1本。うちでは、何人でいらしても、必ず1人前ずつ盛って、それぞれお出ししていて。「取り合いにならへんわ」と喜ばれてます(笑)。一つだけお客様にお願いしているのは、ワインと共に楽しんでほしい、ということ。ホワイトアスパラには、ぜひトレンティーノの白ワインを合わせてほしいですね。
今やイタリアンもフレンチもコースが主流で、アラカルトの店は希少だ。カウンターに座したら、北山シェフと相談しながらメニューを決めて、あとはグビグビ飲んで、モリモリ食べるべし。なんせここは、気さくな“タヴェルネッタ”なのだから。
data
- 店名
- タヴェルネッタ ダ キタヤマ
- 住所
- 大阪府大阪市天王寺区石ケ辻町1-6 石ヶ辻ビル1F
- 電話番号
- 06-6777-3784
- 営業時間
- 18:00~22:00
- 定休日
- 木曜、月1回不定休あり
- 交通
- 地下鉄大阪上本町駅から徒歩7分、地下鉄谷町九丁目駅から徒歩10分
- 席数
- カウンター7席、テーブル4席
- メニュー
- 前菜2品・パスタ2品・メイン1品で予算は1人10000円前後。グラスワイン1500円~。

writer

中本 由美子
nakamoto yumiko
青山学院大学を卒業し、料理と食の本を手掛ける東京の「旭屋出版」に入社。4年在籍した後、「あまから手帖」に憧れて関西へ。編集者として勤務し、フリーランスを経て、2010年から12年間、編集長を務める。21年、和食専門ウェブ・マガジン「和食の扉〜WA・TO・BI」を立ち上げ、25年に独立。フリーの食の編集者&記者に。産経新聞の夕刊にて「気さくな和食といいお酒」を連載中。
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