イタリア最北端の旬味──大阪『タヴェルネッタ ダ キタヤマ』の「ホワイトアスパラとプロシュートコット ボルツァーノ風」

2023年に上本町に移転した『タヴェルネッタ ダ キタヤマ』は、ワイン片手に北イタリアの郷土料理をアラカルトで楽しめる希少な一軒です。最北端の街での修業時代、北山伸也シェフが衝撃を受けたのは、ホワイトアスパラと卵のタルタル、薄切りハムを取り合わせた温かいワンデッシュ。春から5月末まで、この時季だけの旬味です。

今が旬! イタリア最北端のワンデッシュ

北山伸也シェフは20代の後半を、オーストラリア、スイスと国境を接するイタリア最北端の州で過ごした。トレンティーノ=アルト・アディジェ州。その州都トレントよりもさらに北のボルツァーノで、このワンデッシュに出合い、衝撃を受けたという。

ボルツァーノは山岳地帯に囲まれた街で。見たこともない郷土料理を学ぶことができたのは、今でも僕の財産です。その中でも、この一皿は強烈な印象でした。ホワイトアスパラガスに卵のタルタルの組合せは定番やけど、そこにプロシュートコット(イタリアのボンレスハム)が重なる。初めての取合せで、シンプルにめっちゃ旨かったんですよ!

ホワイトアスパラガスの蒸し煮
塩とオリーブ油を熱したところに、皮をむいたホワイトアスパラガスを。「パチパチッといったら」少しの水を加え、蓋をして金串がスッと通るまで、強火で一気に蒸し焼きにするのが北山シェフ流。
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ホワイトアスパラガスに卵のタルタルをかける
盛大に湯気を上げるホワイトアスパラに、湯煎で温めた卵のタルタルを。自家製マヨネーズに茹で玉子を混ぜたシンプルなソースだが、「現地でもネギを入れるので、僕は奴ネギを使ってます」。
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プロシュートコット
プロシュートコットを注文ごとにスライスし、タルタルの上にふんわりと被せて完成。
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ボルツァーノで知った郷土の味を、北山シェフはほぼそのまんま供す。ぬくぬくのホワイトアスパラガスとハムをナイフで切り分け、卵のタルタルを絡めて一口。春から初夏のほろ苦さが大音量で舌に響き、ハムの塩気、タルタルのまろやかさが重なる。それらが混然一体となった和音のアクセントは、ふわっと香る青ネギ。優しい滋味が一口ごとに力を増し、思わず白ワインに手が伸びる。

ホワイトアスパラガスとプロシュートコット ボルツァーノ風
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うちでは、イタリアのベネトとフランスのロワールのホワイトアスパラガスを使うのですが、4月からぼちぼち出てきて、5月末まで。「そろそろホワイトアスパラが出る頃でしょ?」と、常連さんは毎年、心待ちにしてくれていて。この時季、カウンター全員がこのワンデッシュから始めることが多いんですよ。春から初夏の、うちの恒例の光景になってます(笑)。

北イタリアの郷土料理をアラカルトで

北山シェフは1974年に大阪の堺で生まれ、現在51歳。18歳でホテルの洋食部門に入り、カジュアルな街場のイタリアンを経験し、一念発起。「郷土料理を学びたい」と2002年にイタリアに渡り、現地の料理学校に通ったという。

「タヴェルネッタ ダ キタヤマ」の北山伸也シェフ
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当時、関西のイタリアンに少しずつ郷土料理の波が来ているな、と感じていて。トスカーナやピエモンテなど北イタリアでの修業を希望したのですが、最北端のトレンティーノ=アルト・アディジェ州のレストランに行くことになって。それ、どこ?って感じでしょ(笑)。マイナーな州やけど、オーストリアの食文化も入っていて、独特な南チロル料理も学べたのは大きかったです。1年3カ月と期限付きの修業だったので、最後はイタリア全土を回りました。

帰国後、先輩のイタリアンを手伝っていた北山シェフに、白羽の矢が立つ。郷土料理のアラカルトで一世を風靡した『マーブルトレ』に入店し、32歳で3号店の『リット・マーブルトレ』の料理長に抜擢された。3年務めた後、2012年、小さな食堂を意味する“タヴェルネッタ”を本町に開店。10年を機に心機一転、2023年に上本町に移転を果たした。

「タヴェルネッタ ダ キタヤマ」の外観と内観
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北イタリアの郷土料理をアラカルトで楽しませる『リット・マーブルトレ』のスタイルを踏襲しています。僕はルーツのない料理はやらないと決めていて。古典的な料理に自分の解釈を加えた一品料理を作り続けています。移転を機にワンオペになったんですけど、アラカルトが性に合ってるんでしょうね。コースにしようと思ったことは、一度もないんですよ。

ワイン片手に楽しむ割烹的タヴェルネッタ

『タヴェルネッタ ダ キタヤマ』の黒板には、いつも旨そうな文字が並んでいる。メニュー数は約40種。春先のとある夜、移転後のカウンターに4人連れで陣取った。胃袋に自信ありの食いしん坊揃いで、「5品も食べたら満腹ですよ」というシェフの助言を制して6品をオーダー。背中から胃が飛び出すかと思うほど、お腹がはちきれそうになった。

「タヴェルネッタ ダ キタヤマ」の黒板メニュー
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前菜とパスタを2皿ずつ、メインの肉料理を1皿というのが、うちの定番。最後までワインを楽しんでほしいから、デザートはご用意してないんです。旬の食材を目当てに、というお客様も多くて。5月末からはアーティチョーク。秋からは白トリュフやポルチーニ。今の時期はやっぱりホワイトアスパラガスですね。今日(3月末の取材時)のは50円玉くらいの直径やけど、4月中旬からの最盛期は500円玉くらいになって、風味も甘みもぐっと強くなるんですよ。

ベネト産ホワイトアスパラガス
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旬の一品をアラカルトで楽しめるスタイルは、まるで割烹のようだ。この時季ならば、前菜は今回のワンデッシュと、魚介と空豆のクレープ。金華鯖のマリネもいい。パスタは、修業先のレストランの名物で、北山シェフのスペシャリテでもあるチーズフォンデュを詰めたカッペレッティ。お得意の肉料理は、全国的に人気の滋賀の木下牛あり、ビゴール豚あり。いやはや、やはり悩ましい。

オーダーに迷ったら、気軽に声をかけてくれはったら。ワインも含めて、ある程度任せてもらうことが多いんですよ。今回のワンデッシュは撮影用に2本盛りましたが、本来は一皿に1本。うちでは、何人でいらしても、必ず1人前ずつ盛って、それぞれお出ししていて。「取り合いにならへんわ」と喜ばれてます(笑)。一つだけお客様にお願いしているのは、ワインと共に楽しんでほしい、ということ。ホワイトアスパラには、ぜひトレンティーノの白ワインを合わせてほしいですね。

ホワイトアスパラガスとプロシュートコット ボルツァーノ風
「ホワイトアスパラガスとプロシュートコット ボルツァーノ風」3600円(2人前)。
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今やイタリアンもフレンチもコースが主流で、アラカルトの店は希少だ。カウンターに座したら、北山シェフと相談しながらメニューを決めて、あとはグビグビ飲んで、モリモリ食べるべし。なんせここは、気さくな“タヴェルネッタ”なのだから。

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writer

中本 由美子

nakamoto yumiko

青山学院大学を卒業し、料理と食の本を手掛ける東京の「旭屋出版」に入社。4年在籍した後、「あまから手帖」に憧れて関西へ。編集者として勤務し、フリーランスを経て、2010年から12年間、編集長を務める。21年、和食専門ウェブ・マガジン「和食の扉〜WA・TO・BI」を立ち上げ、25年に独立。フリーの食の編集者&記者に。産経新聞の夕刊にて「気さくな和食といいお酒」を連載中。