『デリチュース』[大阪]どこにでもあるけど、どこにもないチーズケーキ。

2002年、大阪府箕面市の閑静な住宅地にオープン。店名を冠した看板商品「デリチュース」は、ベイクドチーズケーキなのにレアチーズケーキのような滑らかな食感と、豊かなチーズの風味、頬をとろけさせる優しい甘さで、瞬く間に行列ができるほどの人気を博した。その評判は大阪市内まで轟き、07年にはJR大阪駅構内に出店。現在7店舗を展開し、大阪を代表するチーズケーキの1つとしてしっかりと根付いている。

始まりはVIPのためのスイーツ作り

『デリチュース』の創業者・長岡末治さんは、『守口プリンスホテル』で長らくシェフパティシエを勤めた。

「一流ホテルとして、松下幸之助さんや海外のゲストなどVIPを迎えることも多く、毎回異なる特別なお菓子を作りました。プレッシャーとやりがいの両方がありました」と長岡さん。全国のプリンスホテルのシェフと競いあい、コンテストにも挑んだ。「20~30代はこれでもか!って挑戦的なものを作っていましたね。でも40代に入り、見た目より“おいしい”を大切にしたいと思うようになりました」。
同じ頃バブルが崩壊。原価を抑えなければならず、おいしいお菓子をひたすら追求することが難しい環境になっていった。そんな中、長岡さんは独立を決意。47才にして町のケーキ屋さんになる夢を叶えた。

希少な最高のチーズをたっぷりと

大阪・箕面『デリチュース』ブリー・ド・モー、ロゴ
木箱に入ったご自慢の最高品質のブリー・ド・モー。あれ?このロゴデザインは、「デリチュース」のパッケージとよく似ている。「そうなんです!」と、ちょっと得意気に話してくれたのは創業前の逸話。長岡さんは自身のチーズケーキを現地に持参し、生産者に食べてもらったのだそう。「とても気に入ってもらって、ケーキの箱にチーズと同じ意匠を使うことを許されたんですよ」。
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デリチュースとは、デリシャス(おいしい)を意味するイタリア語。その名を付けたチーズケーキに長岡さんは絶対の自信を持っている。
「独立の2年前に完成させました。チーズの王様と呼ばれるブリー・ド・モーの完熟品、表面の白カビが生きたまま貯蔵されているものが手に入るようになって開発したものです」。ブリーは白カビチーズのことで、モー村の無殺菌乳のみを使用している。「フランスで最古のチーズのひとつと言われるほど伝統があり、無殺菌乳が許されているんです」。

大阪・箕面『デリチュース』ブリー・ド・モー
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「ほら、これです」
見せてくださったのは、立派な木箱に入った直径30cmを超す大きな円盤型のチーズ。スイーツに使う一般的なチーズの5倍ぐらいの価格という代物。これをさらに自社の貯蔵庫で3~4週間熟成させる。「届いた当初は中心に白い層があるんですが、全体に淡い黄色になるまで熟成させます。そうすると上から下まで柔らかくなって、洗練された風味になります。カットせず丸ごと熟成させないとダメ。ここがよそには真似できないポイントの1つです」と長岡さんは胸を張る。

大阪・箕面『デリチュース』ブリー・ド・モー、カット
大阪・箕面『デリチュース』ブリー・ド・モー、貯蔵庫
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「デリチュース」の作り方

大阪・箕面『デリチュース』製造イメージ
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「デリチュース」専用工房で、作っているところを見学させていただいた。
熟成したチーズと牛乳と小麦粉を混ぜながら、湯せんでゆっくりと溶かし、生クリームと手搾りしたレモンジュースを加えてアパレイユを作成中。
「100%のジュースでも既成のものは皮ごと搾っているので苦味があるんですね。手搾りだと実の良い部分だけを使うので、やはりおいしいんですよ」。

大阪・箕面『デリチュース』製造シーン
左/チーズ、牛乳、小麦粉を湯せんしながらゆっくり攪拌。工房ができる前は手作業だったとか。
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そのアパレイユを、型に嵌めたタルト生地の中に流し込み専用窯へ。200~230度で1時間強焼く。なのになぜレアチーズケーキのような柔らかな食感にできるのか不思議だ。 「特注の窯なんです。これでないと出来ないんですよ」。それにね、と焼き上げたケーキの上に流すジャムも重要だと長岡さん。オリジナルのアプリコットジャムの製法は企業秘密。この甘酸っぱさが、豊かなチーズの風味をエレガントにまとめ上げる役割を担っているのだ。

大阪・箕面『デリチュース』製造シーン2
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3日目までの味の変化

大阪・箕面『デリチュース』
1ピース520円。写真は17.5㎝ホール5000円、ほか12㎝ホール2500円、13.5㎝ホール3500円。
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「デリチュース」の楽しみ方を長岡さんに訊ねてみた。
「タルト生地は硬めで、アパレイユはマイルド。1日経つと中の水分が移ってタルトがしっとりします。チーズの酸味も感じられるようになります。初日から3日目まで味の変化を楽しんでほしいですね」。

さらに、何と冷凍しておくことも可能だとか。「レンジで15秒ほど温めると、焼きたてのとろりとした食感も味わっていただけますよ」。

本店限定!小豆味、喫茶コーナーも

大阪・箕面『デリチュース』喫茶コーナー
「デリチュース」のアントルメセット1320円(ドリンク付き)
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本店では、18席のイートインスペースを設置。「デリチュース」のアントルメセットは、季節のフルーツと生クリームを添え、アングレーズソースを掛けて供する。

また「デリチュース」以外にも、小豆が入った「ジャポネ」や卵白とクリームチーズで作る「白いチーズケーキ」、スフレやレアチーズ、ベイクドなどチーズ系を5種ほど季節限定や曜日限定で用意しているので、こちらも試してみたい。

50年後、100年後まで、続けおいしさ

2026年、70才になった長岡さん。今も週に2回は本店に顔を出しているが、そのレシピと想いをしっかりと受け継いだ若き本店店長兼シェフ・鶴園愛斗(つるぞのちかと)さんが本店のキッチンを担っている。
「もともと60才、1代でやめるつもりでした」と長岡さんは言う。 「贅沢をしたいなんて欲はないですし、個人の名を売りたいわけでもない。 『デリチュース』のチーズケーキを世に出したいだけでしたから。ただ、もし50年後まで続いていたら、『これおいしいな、誰が最初に作ったん?長岡ゆうオッサンらしい』なんて言ってもらえたらいいな」と穏やかに笑う長岡さん。

大阪・箕面『デリチュース』長岡末治さんと鶴園さん
長岡末治さんと、若きシェフ・鶴園さん。18歳から長岡さんの元で修業してきた生え抜きだ。
大阪・箕面『デリチュース』店内
生菓子は本店で製造。「デリチュース」専用工房は、本店横に5年ほど前に完成。
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おいしいものを作りたい。喜んでもらえるものを作りたい。
その想い、ぶれない姿勢が、このまま鶴園さんに受け継がれ、さらに次代へと繋いでくれたら、永遠にこのおいしいチーズケーキがスイーツ好きを楽しませてくれるはずだ。

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writer

団田芳子

danda yoshiko

食・旅・大阪を愛するフリーのフードライター。その地の歴史や物語を感じる食べ物・気質・酒が好物。料理人さんに“姐さん”と呼ばれると、己の年齢を感じつつもちょっとウレシイ。著書に『私がホレた旨し店 大阪』(西日本出版社)、 『ポケット版大阪名物』(新潮文庫・共著)ほか。