ミナミ・雑居ビルの隠れ家で、癒しの割烹風おでん『由堂』

久々に会う友人と、話したいことを一気に話して盛り上がる一軒目。
ほどよくお腹も満たされたら、次の二軒目はちょっと落ち着いた良い店へ……となれば、いつもより贅沢をして、洗練のおでんが食べられる大阪・心斎橋の『由堂(よしたか)』はどうだろう。

夜が深まるとともに寒さが増していく今の季節は特に、ゆるり、だしと日本酒で身体を温めたい。

歓楽街の雑居ビル2階、一番奥へ

飲食店が多数入った心斎橋の雑居ビル。
2階に上がり、賑やかな看板を横目に進む細い廊下は少し緊張するのだけれど、ミナミのこんなツウっぽい場所に連れて行けば必ず喜ばれるだろうし、だからこそ、ちょっと自慢したくなるというか。

由堂外観
店はこの廊下の一番奥。
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ガラリと引き戸を開けると、雰囲気は一変。緊張が解け、ふわぁっとだしの香りと温かい空気、ご主人・日野由堂さんの「いらっしゃいませ」という元気な声が迎えてくれる。

カウンターに座ると、まずはお突き出し、と「ネギマ」が。ネギととろとろマグロの入った優しい味わいのおでんのだしが、冷えた身体を芯からじんわりと温めてくれる。

鯖サンド
お突き出し2品目の鯖サンド。レアに仕上げた鯖、ぶりがっこ入りのからしマヨと大葉をパンで挟み、さらに海苔を巻いてガブリ。お突き出し(2~3品)1650円。
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メニュー
お品書きに値段が書いてないので不安なときは、遠慮なく聞いてOK。
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まずはアテから。実は魚もおすすめ

二軒目は多くは食べられないのでメニューは慎重に選びたいところ。
メインはおでんだが、実はお造りもおすすめしたい。
せっかく身体を温めたところではあるのだが、日野さんは魚も好きで、しばしばSNSにその日入った自慢の魚を上げている。ならば食べたくなるのは必然。客席10人余りのこじんまりとした店だが「5軒の魚屋さんとお付き合いさせてもらってます」とこの日は鯛とマグロを切ってくれた。

お造り
お造り2種盛は2750円~。この日の鯛とマグロは白子ポン酢付きで4180円。
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いよいよ、おでん。定番+変わり種

品書きに常時20ほどあるおでんは、大根や玉子、白滝といった定番が並ぶ中に、「岩もずく」「鴨と太水菜」などのおでんらしからぬ食材が。
そう、ここは変わり種が特に面白いのだ。北新地の日本料理店や、心斎橋の有名割烹『翠』(現『翠 大屋』)などで学んだ日野さんのおでんには、煮物椀からヒントを経た食材の組み合わせや、調理の技法などにその経験が生かされていて、一品一品が繊細で美しい。

由堂さんが考える「おでん」とは?
うーん…と少し悩んで「食材を、おだしで優しく包んだ料理です」。
なるほど~!

日野さん
お客と会話しつつ、後ろのおでん鍋の世話をする日野さん。煮詰まらないよう、水、昆布やカツオでとった「素だし」、そこに醤油やみりん等で調味した「味付けだし」の3種で調整する。季節によって塩味の利かせ方なども変えている。
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というわけで、大根と変わり種の「カキとねぎ」をいただいた。
定番の大根さえ、見るからに上品な佇まい。実は切れ目が入っていて、パカッと二つに分かれる。食べやすい配慮も嬉しいし、友人ともシェアもしやすい。舌の上でホロリと崩れたら、たっぷりと湛えただしが流れ出す。

大根
「3日間おだしの“お風呂”に入れています」という大根660円。だしを皿に張らなくてもいいほど、だしを抱え込んでいる。同じく定番の煮卵660円は、提供までに4日かかるとか。
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次は「カキとねぎ」を。提供と共に山椒と柚子がふわりと香る。とろみのついたおでんだしをまとった、小ぶりだがツルリと味わい深い牡蛎と、トロトロの甘いネギ。滋味深くて温かなひと口に満たされていく。

カキとねぎ
カキとねぎ」1980円。小鍋に取り分けたおでんだしで、葛打ちした牡蛎をさっと炊く。飛騨高山産のネギが甘い。『やまつ辻田』の山椒とふり柚子の香り。
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熱燗
だしで熱燗が進む。日本酒は1合1320円~。この日は石川「奥能登の白菊」を。
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オトナの歓楽街にオープンして12年。日野さんが独立したのは若干28歳のときだ。こんな奥まった場所になぜ?
「当時は恥ずかしくてご新規さんに『いらっしゃいませ』と言えなくて。隠れたかったんです(笑)いまも人見知りは相変わらずですが」と穏やかな応えが。
そのはにかんだ笑顔が、ご新規さんの緊張をほぐし、常連さんにはいじられキャラとして愛されている。

1日の終わりに、締めのおでん。ネオン街を歩きながら、友人や日野さんとの会話の余韻に浸りつつ、家路に着くのがいい感じだ。

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1軒目のあと、もう1軒くらい行きたいなと思う、そんな時間。
仕事帰りに、遅掛けの食事を食べる、そんな時間。
コロナ前ほど遅くまで飲み歩かなくなったけれど、それでも時計が20時なら、家に帰ってしまうのはもったいない。
20時以降の楽しみをお届けします。

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amakara.jp編集部

amakara.jp

関西の食雑誌「あまから手帖」(1984年創刊)から生まれたwebメディア「amakara.jp」を運営。カジュアル系からハレの日仕様まで、素敵なお店ならジャンルを問わず。お腹がすくエンタメも大好物。次の食事が楽しみになるようなワクワクするネタを日々発信中。