栗のスイーツ2025.10.16

『Patisserie Miagola』足を運ぶ価値がある、オンリーワンな和・洋の栗

文：小林明子　撮影：岡森大輔

閑静な住宅街に1軒の洋菓子店がオープンしたのは7年前。
交通の便が良いとは言い難い立地ながら、『Miagola（ミャーゴラ）』に行けば、他の店では見たことがない個性的で素材の持ち味を生かした無二のケーキに出合えると、スイーツマニアの間で話題を呼ぶように。

読書好きでもあるオーナーパティシエが創り出す独自の世界観。その独自性は栗の季節にも存分に発揮される。

和栗の繊細な味わいを存分に
イタリア産の栗をたっぷり使う“白い山”

和栗の繊細な味わいを存分に

静かな住宅街に建つ一軒家の目印は小ぶりのフランス国旗。
店内には洋菓子店に付き物の冷蔵ケースは無く、大理石のカウンター上には10種前後の見本が並ぶ。レモンかと見紛う「シトロン」、豆のリアル感を再現した「ピスタチオ」、いわゆる苺ショートなどは見当たらず、どのケーキも個性的なフォルムをしていることに初めて訪れた人は驚かされる。

築年不詳の一軒家を改装した店舗。手前が販売スペース、奥が厨房になっていて、ケーキ作りと販売を奥山さんが一人で行っている。店名の『ミャーゴラ』は、イタリア語の猫の鳴き声。

そんな既視感の無いケーキを創作しているのは奥山智浩さん。東京の有名店を始め、数々のパティスリーで腕を磨き、2018年、大宮商店街近くに自店を構えた。旬の食材のフレッシュ感を「加工しすぎずに楽しませたい」と考える奥山さん。熱意を注ぐ素材のひとつが栗だ。

スイートチョコレートとカカオバターで皮付きの栗を表現しているのが「宝珠（ほうじゅ）」。その名からもわかる通り、観音像や菩薩像の掌に乗せられている先端が尖った珠をモチーフにしている。チョコレートでコーティングした表面に小さなブラシを当ててガシガシこすることで栗の佇まいを表現。既成概念にとらわれない、自由な境地が奥山さんの武器だ。

作業中の奥山さん — 小さなブラシを駆使して“栗”を作っていく奥山さん。手元を見ているだけで楽しい。

スイートチョコを全体にまとわせた後、フィルムに伸ばしたカカオバターを密着させて渋皮と鬼皮の質感を出している。「日本では、栗に合わせるのはラム酒が定番ですが、僕はブランデー派です」。

チョコレートをパリッと割ると現れるのは、卵黄ベースのバタークリームを加えた九州産和栗。その内側には、マスカルポーネとカスタードクリーム、“カミュ”のコニャック・イルドレの風味を添えたマロンクリーム。さらに、上半分にはマロングラッセ、下半分には塩味をつけたヘーゼルナッツの自家製プラリネを加え、食感に変化を出している。

“和栗爆弾”の別名も持つ、栗三昧の贅沢なプチガトー。岐阜県中津川市の名物である栗きんとんを思い出させる、なめらかでコク深い和栗とコニャックやヘーゼルナッツの香りやコクが相まって栗好きを魅了する。

仏像と宝珠 — 仏像好きということで、店内には小さな仏像が複数、おしゃれに置かれている。写真の、手の上に載った珠が「宝珠」。

イタリア産の栗をたっぷり使う“白い山”

「雪塊（せっかい）」と名付けられたもうひとつの栗菓子はイタリア産の栗が主役。タルト生地の器に、砕いたイタリア産マロングラッセ入りのブリュレを乗せ、カラメルソースを流した上から宝珠と同じマロンクリームをたっぷり。表面には、ヴァニラ風味のホワイトチョコガナッシュを絞り出し、モンブラン（白い山）に。こちらもどこを食べても栗の風味が楽しめる仕掛けになっている。