海藻から見る、海・食・未来 第1回海藻サミット【前編】
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海の現状を知り、考える
サミットは『菊乃井』村田吉弘さんの挨拶から始まった。
「食料自給率の低下の現状を鑑み、このままの進度でいくと、未来の日本の子どもたちが飢えるのではないかという危機感を持っている」。
この国の食を次の世代を担う若い人たちがどうしていくのか考えてもらうプラットフォームとして「一般社団法人Ocean Forest Project(オーシャンフォレストプロジェクト)」を立ち上げ、理事長に就任したという。
海に囲まれた日本において海藻は、食文化に影響を与えてきた食材のひとつであることは間違いないが、近年、海の中で海藻が減少している。
このサミットは海藻を起点とした海と食の未来を語り合う場で、今後も毎年会を重ねていきたいと考えていると宣言した。
海と地球の実情とは
基調カンファレンスでは、海で今起こっていることについての話に会場が耳を傾けた。
進行は「合同会社SEA VAGETABLE(シーベジタブル)」共同代表の友廣裕一さん。同社は全国各地の海水で、海藻の養殖を行い、生態系の変化を観察。また食べる施策として商品化や販売も行なっている。
登壇者は「オーシャンフロントプロジェクト」の村田吉弘さん。
「一般社団法人グッドシー」の代表理事であり、「海藻研究所」所長でもある新井章吾さん。福井県の現役の海女である石森実和さんの3名だ。
新井さんは、全国の潜水調査から判明した、「藻場(もば)」の減少=「磯焼け」についての報告があった。温暖化の影響で海水温が上がり、大量に繁殖した魚のアイゴが海藻を食べてしまうこと。そしてこうした海の中の現状がほとんどの国民に知られていないことも問題だと提議があった。
海藻が消えると地球にどのような影響があり、どんな変化があるのかの基本事項が解説された。そこで、養殖藻場を作ることを模索。藻が増えると、生み出される循環として、消費量増加、地域雇用の創出、海の生態系の回復など連鎖的に考えられると語る。
さて私たちは、海女さんがどのような仕事をしているのか、具体的には知らない。興味深かったのは、福井県で、現役の海女をしている石森さんの1年間の活動内容の解説だ。
海女さんは、海の恵みを獲るだけではなく、海と共存すべく、様々な仕事を行なっている。アワビの稚貝を放流したり、不要な藻を刈り、海に光を通すことでワカメが生育しやすい環境を作る作業も行う。他にもバフンウニの天敵であるヒトデの駆除。また年々増加しているムラサキウニを駆除することで、アワビやサザエの生育しやすい環境の担保と、海藻の生育も守っているそうだ。
毎年8月には海底の保全活動として海の底の岩をひっくり返す「岩おこし」という活動もあるそうだ。岩を返すことで海藻が育ちやすくなり、ウニや貝類、その他の生物の住処を確保する目的もある。
日本での海藻の消費減少を回復するのは「料理人の仕事や!」と村田さん。飲食店でも家庭でも様々な種類の海藻をおいしく調理できるレシピを提案するなどしていかねばならないと語り、『菊乃井』村田知晴さん作の海藻料理が、来場者に配膳された。海藻の生い茂る海をイメージし、スーナやひじきなどの海藻をだしで煮て、塩で味付けとろみを付けた一品だ。シャクっとした食感と磯香りが生きている。
藻場再生活動現場の声
続いて、基調カンファレンスで提示された課題をもとに、実際に活動として始まっている取り組みが紹介された。登壇者は「シーベジタブル」共同代表の蜂谷潤さん。岩手県の大槌町藻場再生協議会から芳賀光さん。進行は国立研究開発法人水産研究の島袋寛盛さん。
冒頭、今、海で起きている磯焼けを、森林と置き換えてイメージしてみてほしいと島袋さん。私たちが日常目にしている山の木が4割減少したら、視覚的に理解できるから、事の重大さに気づくだろう。ところが海中で起きていることについては、目にする機会がないため、進行に気がつかない。
藻場の減少には様々な要因がある。海水温の上昇。「アイゴ」の大量発生。ムラサキウニの増殖、高水温など、地域や年によって様々な事柄がきっかけになり起こる。
東日本大震災の津波被害にあった、岩手県大槌町在住の芳賀さん。本業は石材屋だが、6年前からワカメの養殖を始めた。震災後の漁師の減少や三陸の豊かな海が失われている現状を見て異業種への参入を決めた。昔からの漁師や漁協の話を聞き、自ら海にも潜り、新規参入だから気づく問題点があると語る。
10年前の大槌の海には昆布類が豊かに生い茂っていたが、今は磯焼けが進んで、その結果ウニの身はスカスカ。アワビも獲れず魚も減っている。そこで官民連携して、大槌町の藻場を再生すべく活動を始めていることが報告された。
一方、海水を用いた青のりの陸上養殖を行う「シーベジタブル」の蜂谷さんからは、藻場が必要な理由や養殖藻場がもたらす変化と可能性についての解説が。北海道、愛媛、熊本など各地のデータを用いて現在の取り組みが紹介された。
活動により新たに見えてくる課題も含めて、様々なトライアンドエラーがあると思うが、次の世代へ残したいと思える環境を再生すべく各地で継続していく必要があると、島袋さんが結んだ。
料理人は何ができるか
続いてのセッションは料理人の目線から。サミットに先立ち、西伊豆の海藻・海上養殖の現場を訪ね、気づいたことが話題に上る。
登場したのは『レフェルヴェソンス』生江史伸さん。『一子相伝なかむら』中村元紀さん、『チェンチ』坂本健さん。進行は「味の素株式会社 食品研究所」の川崎寛也さん。
川崎さんは「磯焼け」というフレーズ自体初めて聞き、海の中がまるで砂漠のようになっている現実をこの日、ここまでの発表で知り、驚くことが多かったと語った。おそらく来場者のほとんどが同じ感想を抱いていただろう。
海藻の養殖現場を訪れた料理人たちも、日頃店で海藻を扱うが、現場で見ると色や香りなど違いが多く、発見が多かったと語った。
料理人の立場からは、海藻をどのように消費していくのか、どうおいしく調理していくのかが課題ということで、それぞれが考案した料理が試食として来場者に配られた。
東京・西麻布にあるフランス料理店『レフェルヴェソンス』の生江さんは、スジ青のりをふんだんに混ぜ込んだ海藻バターを提案。さらに、ワカメとトサカのりでピクルスを作るという独創的なアイディアも。
それをハムの上に重ねて、バゲットでサンド。海藻のピクルスの食感と酸味、スジ青のりの磯香り。バターが全体をまとめ食べ応えのある一品を披露した。
今のような国際情勢が不安定ななかにおいては、原油を使う第一次産業が影響を受けると生江さん。海がすぐそばにある日本において、今後、紛争の影響を受けない1つの食材として海藻にはポテンシャルがあるのではないかと思い始めていると語った。
元々海藻は好きではなく、塊の海藻を見て美しいと思えなかったと話した『一子相伝なかむら』中村さん。そういう人にも、食べたいと思わせる見た目の工夫も大事なのではないかと感じたと語る。また海藻を齧った際に、ほのかに煎茶のような香りを感じ「海の中の茶葉なのかなと思ったんです」と、日本料理人らしい、発想も。
そうした気づきのパーツを集めて、どう調理するか考えている最中、南仏の海岸で塩キャラメルアイスクリームを食べている時に思い付いたという海藻のアイスクリームを披露した。
すじ青のり醤油を使った甘すぎないアイスクリーム。上には牛乳に厚葉アオサを浸して乾燥させてチップに仕立て飾った。
食感のコントラストも海の塩気も生きた、甘すぎないアイスクリームは日本料理のコースで出てきても面白い。
苦手だと思う味や見た目を転換させる発想や視点も必要だ。
イタリア料理『チェンチ』の坂本さんは、以前、韓国人の女性シェフに教わったワカメスープを軸に考えた一品を披露した。
韓国のレストランの厨房では賄いでワカメスープが出されるなど、日常に浸透している。家庭では産後の滋養食として食べられるなど体にもよく、またワカメスープも、牛肉のだし、ハマグリのだしなどバリエーションも豊富にあることを教わったという。また韓国では元イタリアンのシェフが始めたモダンなワカメスープの専門店があるなど、他国の海藻食事情を含めて考えたと語った。
日本人の発想とは違う、他国での海藻の扱い方や種類、調理法などに視野を広げてみることで思いつく新しい食べ方もあるかもしれない。各国料理に精通する料理人たちの着想は、海藻の食材としての可能性を感じさせるセッションだった。
【後半
】へ続く。

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