半﨑美子さん【前編】「お弁当」は言葉を介さない貴重なコミュニケーション

気になるあの人のインタビュー。今回のゲストは、シンガーソングライター・半﨑美子さんです。ショッピングモールでのライブ等を通して出会った人たちの想いを受け止め、自身の歌へと落とし込んできた半﨑さん。やさしくも強く、心に寄り添うように響く歌声に、涙を流すファンが大勢います。2024年11月23日(土)、大阪『森ノ宮ピロティホール』にて「読売新聞創刊150周年記念 半﨑美子 コンサートツアー~「人生案内」と私~」を開催する半﨑さんに、ツアーへの思いや、代表曲「お弁当ばこの歌~あなたへのお手紙~」について伺いました。

「お弁当」という名のお手紙

17年間の下積みのなかで、“ショッピングモールの歌姫”としてメディア等でも注目を集めた半﨑さん。デビューした2017年に「NHKみんなの歌」の為に書き下ろした「お弁当ばこのうた~あなたへのお手紙~」は、毎朝娘に渡すお弁当を、母からの手紙に例えた名曲です。ポップなメロディーでありながら、その愛情深い歌詞に思わず目頭が熱くなります。

amakara.jp:
半﨑さんの代表曲のひとつに、「お弁当ばこのうた~あなたへのお手紙~」がありますよね。この歌を収録した1thミニアルバムのタイトルは「うた弁」ですし、その後はシリーズ化しています。半﨑さんにとって「お弁当」は重要なワードなのかなと思ったのですが。
半崎さん(以下、半﨑):
そうですね。あの歌は、母にお弁当を作ってもらった側として書いたものなんですね。私は三姉妹なんですが、母は毎朝三姉妹のお弁当を作ってくれていて。当時は全く有難みを感じていなかったんですけど(笑)。
半崎
半﨑:
振り返ってみると、お弁当は言葉を介さない貴重なコミュニケーションだと感じています。歌詞にも書いていますが、食べているところを想像しながら作ってくれているであろうお弁当…身体のことを考えつつ、お財布とも相談しながら毎日何とか変化を付けてくれていて。残っていたら、何かあったのかなと気にするでしょうし…すべてにおいてそれが、コミュニケーションツール、お手紙のような気がしたんです。思春期になって会話が少なくなっても、お弁当を通した繋がりは特別だなという思いがありました。当時それに気が付けなかった後悔の思いを歌にしたのですが、こんなに多くの方に届くとは思っていませんでしたね。
半﨑美子さんのうた弁シリーズ
半﨑さん自ら作ったお弁当がジャケットになった「うた弁」シリーズのジャケット。4枚目は中身が手紙に。
半崎:
この歌を収録するアルバムとして「うた弁」を作りました。“歌のお弁当箱”ですが、身体の栄養が食べ物なら、心の栄養は言葉ですし、「弁」にはメッセージという意味もあります。この「うた弁」という言葉が、自分の活動そのもののような気がして、2、3と続き、次はお弁当に手紙を入れた写真をジャケットにした「うた弁 4 you」。誰かと誰かを繋ぐものとして、うた弁、お弁当、お手紙…食べ物の歌が入っていなくても、心と身体、言葉と食べ物というところが共通しているように思えたんです。

名物コラムと音楽活動の共通点

大阪でも公演されるツアー「読売新聞創刊150周年記念 半﨑美子 コンサートツアー~「人生案内」と私~」。「うた弁」のお話でも出てきた「手紙」という言葉が、ここでも重要なキーワードに。

amakara.jp:
今回のコンサートは読売新聞とのコラボ企画ということですが、普段のコンサートとの違いを教えてください。
半崎:
読売新聞さんの「人生相談」は、相談者の方が悩みを投稿し、著名人の方々が回答するという、大正時代から続く人気コーナーです。一方、私の音楽活動は、サイン会などでお客様が背負っている切実な思いや胸の内を打ち明けてくださり、それを歌にすることが大きな軸となっています。お話をいただいたとき、そんな私の活動と「人生案内」とで、すごくリンクする部分があると感じました。

今回のコンサートは二部構成を予定しているのですが、一部では、実際に新聞に掲載されたお悩みと回答をご紹介するとともに、私からの返事をアンサーソングとして歌い、点を結ぶような流れを作っていきたいと思っています。二部では、人生案内をテーマにした歌を、書き下ろしも交えて歌います。

パーソナルな手紙を共有する意味

amakara.jp:
ファンの方も初めて聞く新曲というわけですね。アンサーソングという試みも楽しそうです。
半崎:
ありがとうございます。以前、手紙をテーマにしたツアー(「うた弁 4 you」発売記念)を行ったことがあって。皆さんからお手紙をいただき、そこから一通をご紹介して、歌でお返事するという、往復書簡のような企画をしたのですが。そのとき、手紙という、本来は送り手と受け手のふたりしか共有できないパーソナルなものを、皆さんで分かち合うことの意味をすごく感じました。それは、今回のツアーにも繋がっています。
半﨑美子さんインタビュー
ファンの思いを受け止める半﨑さんのサイン会は、毎回2~3時間にもなるのだとか。
amakara.jp:
分かち合うことの意味とは?
半﨑:
これは、「人生案内」と私の活動との間で共鳴する点でもあるのですが。
「人生相談」に掲載されているお悩みは、投稿した人だけではなく、読者の皆さまにとっても当てはまるところがあり、書き手と読み手の間に連帯感が生まれます。
一方、私のサイン会では、私の前に立たれた人が、思いやお悩みを伝えてくださいます。私から最初に声をかけることはなく、お話を聞いて一緒に涙を流したり、固い握手をするしかできないのですが、皆さん、来た時よりもすっきりした表情で帰られるんですね。後ろの人は、そんな様子を少し離れて見ながらずっと待ってくださって。その時間が、お互いの悩みはわからないけれど、大変なのは自分だけじゃないんだっていう、こちらも連帯感があるんです。
amakara.jp:
では、今回のコンサートでも、読まれる手紙は一通だけど、そこにお客さんたちは共感できるし、アンサーソングもその会場の皆さん全員に向けられているということなんですね。
半﨑:
まさにそうです。それは、コンサートならではですし、言葉で回答するのと、歌で届くものはまた違うと感じていて。新聞の回答者さんの言葉は本当に投稿者さんに寄り添っていますし、読者は違う視点からの言葉に気付くこともあると思います。そこに、歌が加わるとどうなるのか、自分なりに形にしたいので、アイデアをひねり出しています。
半﨑美子さんインタビュー
「心の内にあったこと、近しい人にも言えなかった思いを書き出す、それだけでも、すごく前に進むことだと思います」と半﨑さん。

――どんなことも受け止めてくれそうな半﨑さんの優しい声や笑顔が印象的でした。大阪生まれのあの曲や、お気に入りの大阪フードなどなど、続く後編もエピソード盛りだくさんです。

profile

シンガーソングライター

半﨑美子さん

北海道出身。単身上京して全国のショッピングモールでライブを重ねる。「ショッピングモールの歌姫」としてメディア等でも注目されるようになり、17年の下積みを経て2017年にメジャーデビュー。同年、「NHKみんなのうた」に向けて書き下ろした「お弁当ばこのうた~あなたへのお手紙~」などを収録したミニアルバム「うたべん」がロングヒット。「地球へ」が、令和6年の小学校の音楽の教科書(教育芸術者)に掲載が決定し話題に。9月より、「読売新聞創刊150周年記念 半﨑美子 コンサートツアー~「人生案内」と私~」がスタート。大阪は11月23日(土)森ノ宮ピロティホールにて。

writer

amakara.jp編集部

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