『とんかつ 乃ぐち』世界を見据えた“日本のとんかつブーム”構想

大阪・関西万博で、唯一、個人店の出店が決まっている『とんかつ 乃ぐち』。
大企業が名を連ねるなか、店主の野口典朗さんは大きな舞台に立つことを決めた。
大阪・関西万博まで残り1カ月を切った頃、大阪・とんかつブームの火付け役が語ったのは万博、さらにその先の大きな構想だった。
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日本が誇るとんかつを世界へ

「日本の優れた豚肉は、和牛や車にも負けない可能性のある食材です」
「80年以上前から日本人を支え、愛されてきたとんかつは世界で活躍できる」
「天下の台所と言われた大阪。おいしい食材をおいしく調理し、安く面白く提供する大阪の料理人の心意気を伝えたい」

大阪・関西万博の食部門の参加企業が発表された際のステージで、野口さんは豚肉の可能性を堂々と語った。

「2025大阪・関西万博 未来の食の楽しみ発表会~EXPO FOOD COLLECTION 2025~」
「2025大阪・関西万博 未来の食の楽しみ発表会~EXPO FOOD COLLECTION 2025~」にて。豚は年に平均2.4回、1度に10頭以上出産し、雑食で半年で出荷できるという意味でも、大変効率的な家畜であり、その意味でも未来的な食材であると語った。(画像:amakara.jp編集部)
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『乃ぐち』といえば、野口さんが様々な銘柄豚のあらゆる部位を、一貫ずつ提供するという独自スタイルを提案し、瞬く間に予約が取れない超人気店となったとんかつ屋だ。大阪・中津という下町から、大阪のとんかつブームを牽引する存在となった。

今回の万博では、世界では珍しく、そして高度な調理技術を要する「とんかつ」という日本の料理を発信するとともに、日本の優れた豚を紹介する。さらに大阪の料理人と協力し、個人店だからこそ“繋がり”や“共に創る”ことの意味を万博で伝えていく。

御殿場でパワーアップして挑む万博

実は野口さん、今年1月から2月にかけての1カ月間、今回の万博スタッフたちと、静岡・御殿場でポップアップストア『とんかつ 壱(はじまり)』を出店していた。

「大阪ではメディアにも出て、街で声をかけられることも増えましたが、こちらでは誰も僕を知らなくて(笑)。おかげで自分がまだまだだと思えましたし、豚肉と真剣に向き合える非常に充実した時間を過ごすことができました」と大きな手応えを感じていた。

御殿場にある『渡辺ハム工房』とともに、乾燥や塩加減などを変えた熟成の試行錯誤などを通して、より深く豚肉を知ることができたと嬉しそう。

万博では『とんかつ 乃ぐち』同様のスタイルで料理を提供するが、その味は密かにパワーアップしているということなので、『乃ぐち』常連にも新たな魅力を提供していく。
『とんかつ 乃ぐち』大阪・関西万博参戦! 気になる内容・予約方法は

とんかつ10カ年計画!?

20年以上あるイタリアンの料理人というキャリアを通じて、豚肉の可能性に気が付いたという野口さん。その魅力を伝える方法として思いついたのが、一貫ずつ提供するスタイルだった。

「僕の中で、いろんな部位が食べられる焼肉や焼き鳥は、牛や鶏の最上の食べ方のひとつだと思うんですね。食べる人に毎回新しい発見があって、楽しみが深い。これを豚肉でするなら、と考えたのが、一貫スタイルの原点です。
『TOKYO X」が有名ですが、実は日本には、素晴らしい生産者さんたちによる400近い銘柄豚があります。一貫ずつなら、銘柄や部位の異なるいろんな味を、一番おいしい瞬間に提供できますからね。僕にとって豚肉の最上の食べ方の答えがとんかつだったんです」

とはいえ、いろいろな味を食べられる場所がなければ、その楽しみや面白さを感じられない。そこに、大きな伸びしろを感じているという。

とんかつ乃ぐち
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ところで、2023年8月号の雑誌「あまから手帖」の取材で、既に世界を見据えた目標を口にしていた野口さん。まるで万博出店を予見していたかのようだ。

その点に話を振ってみると、
「イタリア料理店で働いていた時から世界進出は考えていました。大阪(『とんかつ乃ぐち』)で3年、万博で半年やったら、東京で2年、次にロンドンで3年くらいやったら、また大阪に帰ってくる予定です」と。なんと万博は約10カ年計画の一部だったのだ。
「もともと万博が好きで、愛知やミラノにも行っていました。今回もスタッフの一人として参加するつもりでしたが、まさか公募に受かるとは思っていませんでしたね」。

万博の後は、大阪のとんかつを引っ提げて東京に進出し、更なる“とんかつブーム”を作りたいという野口さん。海外の出店先にロンドンを選んだのは、イギリスが大ヨークシャー種やバークシャー種など、原産地のひとつだから。この地から日本のとんかつブームを仕掛ける予定だ。

「豚は黒豚・白豚・赤豚があり、ワインの赤・白・ロゼのようにそれぞれタイプが異なります。牛や鶏と比べるものではなく、豚ならではのおいしさがある。
東京では仲間と勉強会などもして、豚肉もワインのように世界共通の“味の基準”のようなものを作れたら、食文化はより成熟するはず」と野口さんが語る構想は尽きない。

取材の後、ふと、「どうして中津だったんですか?」と聞いてみた。
梅田やなんば、天満、谷町…もっとわかりやすいグルメエリアではなく、あえて下町を選んだのはなぜ?
野口さんは少し間をおいて、「だって面白そうでしょう」と。
ワクワクすることで世界に挑む野口さんの原点は、こういうところなのだなと思った。

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amakara.jp編集部

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関西の食雑誌「あまから手帖」(1984年創刊)から生まれたwebメディア「amakara.jp」を運営。カジュアル系からハレの日仕様まで、素敵なお店ならジャンルを問わず。お腹がすくエンタメも大好物。次の食事が楽しみになるようなワクワクするネタを日々発信中。