飾らない清廉な味を磨く、京都・祇園『松むろ』

造りも椀物も煮物も、凛として澄んだ味わい。飾らないおいしさの意味を知るなら、ぜひ京都・祇園『松むろ』へ。味だけでなく、雅な器使いも楽しめます。

祇園に店を構えて約35年

日本料理『松むろ』が京都の祇園エリア内で店を移したのは、2012年のこと。繁華な祇園町のビル中から古美術商や骨董店が立ち並ぶ古門前通の一軒家へと佇まいを変えて、早くも10数年が経ちました。

随所に銘木を用いた店内は、聚楽塗りの壁や桐の戸棚を配した上質な雰囲気。京都でハレの日を過ごすのに相応しい設えです。

京都『松むろ』外観
京都『松むろ』店内&店主
店主の松室治隆さんは1960年京都生まれ。19歳で料理人を志して、門を叩いたのは京都の老舗料亭『瓢亭』。約10年修業した後、1990年に祇園町で独立を果たしました。
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造りでわかる、食材への自信

昼は縁高弁当もありますが、おすすめしたいのは懐石コース。前菜、造り、椀物、煮物など全9品をしっかりいただく内容です。

まず注目すべきは、正統派を極めたような造り。へぎ造りにされた鯛は、2代にわたり40年近い付き合いになる明石の “担ぎ屋”から届く名品。咀嚼する度に広がる旨みの深さに、溜息が漏れます。

造り盛合せの顔ぶれとしてはごく定番ですが、味ののったシビマグロもハリのある剣先イカも、口にすればひと味違うおいしさ。潔い造りに、松室さんの食材への絶大なる自信がみなぎっています。

造りに添えられた茶色のジュレは、莫大海(ばくだいかい)という中国の乾物を水で戻して作るもの。「寒天やゼラチンではなく、莫大海の成分でこうなるんですよ。誰もやらなくなった昔の仕事も、繋いでいきたい一念で続けています」と松室さんは微笑みます。

京都『松むろ』の造り
料理はすべて昼の懐石コース7700円から。造りは鯛、シビマグロ、剣先イカが『松むろ』定番の組合せ。
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庖丁技に見惚れる鱧の椀物

京都『松むろ』の椀物
盛夏の椀物は、葛打ちした大ぶりの鱧が主役。口の中で身がふわりと儚くほどけます。
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骨董の塗り椀の中に、まるで花が咲いたよう。「昔より数をこなせなくなりました」と松室さんは謙遜しますが、くるんと見事に身が反り返るのは、鮮度に加えて細かい骨切りがあってこそ。冴える庖丁技にベテランならではの風格が漂います。

澄んだだしは、真昆布と血合い抜きのマグロ節。「カツオ節もおいしいけれど、馥郁(ふくいく)たる香りがかえって主素材の邪魔をすることが多くて。マグロならではの後からじんわり追いかけてくるような、存在感はあれど控えめな旨みが、私の好みですね」。

名品をさりげなく交えた器使い

椀物に続く焼き物は、この日は鮎の塩焼き。茶道具作家である千家十職の焼物師を務める永楽即全(えいらくそくぜん)による、乾山写香魚(あゆ)皿に盛り付けて。「器の良さは触れることで価値を知るものですから」と、昼の懐石でも惜しみなく名品を使います。

「冷房が利いた空間で温かいものをいただくのも夏の楽しみ方のひとつです」と、蒸し物をあえて温製で供するのも粋。向こうが透けるほど薄く切った冬瓜で車エビやキクラゲを覆いながら蒸し上げ、仕上げに銀あんをかけた一品が、胃を優しく温めます。

京都『松むろ』の鮎の塩焼き
香ばしく焼き上げた鮎の塩焼きは、お好みで蓼酢(たでず)を付けて。庖丁細工を施した酢取りレンコンに細やかな心づかいを感じます。
京都『松むろ』の冬瓜包みのあんかけ
透け感が美しい冬瓜包みのあんかけは、薬味にショウガを添えて。彩りに飾られているのは、笹打ちした三度豆。シャキシャキとした食感がアクセントになっています。
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16名まで入れる個室も完備

2階には、広さが異なる個室が3部屋あります。すべて和室ですが、長テーブルに椅子を合わせたり、掘りごたつ式にしていたりと、どこも足をのばせる造り。最大16名まで入れる大きめの部屋もあるので、中規模の会食や宴会の場としても重宝されています。

京都『松むろ』の個室
最大16名まで入れる個室は、贅沢感ある赤松の長テーブル。5名以上から利用可能です。
京都『松むろ』の個室
こちらの個室は2~6名まで。フローリングと畳を組み合わせた、ややモダンな設えです。
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