さりげない遊びが素敵な京都・室町夷川『京夕け 善哉』の和食

鮮度の良さと庖丁の冴えが分かるシンプルなお造りがあれば、椀物は花見団子を模した愛らしい仕立てで登場。もの静かな店主と陽気な女将が待つ日本料理店が振る舞うコースは、店主夫妻の人柄そのもの。温かみある澄んだ味わいに癒されます。

室町通から入った細路地の先に

室町通沿いの入口にかかる看板は、うっかり見過ごしてしまいそうな慎ましさ。石畳の細路地を抜けた玄関の先に潜むのは、色鮮やかな朱塗りのカウンターと坪庭を望む個室を備えた館。築100年を超える京町家の風情を程よく生かした空間が広がっています。

『京夕け 善哉』アプローチ
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『京夕け 善哉』1階個室
坪庭を望む個室は2部屋。こちらは隣とつなげて最大16名まで入れる掘りごたつ式のお部屋。10名までなら椅子とテーブルに変えることも可能です。
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祇園『鳥居本』で磨いた質実とした味

店主の笹井喜晃さんは京都出身。料理の道に目覚めたのは喫茶店でのアルバイトがきっかけだそうです。京料理の名店『鳥居本』での13年に渡る修業などを経て、2007年にこちらで独立を果たしました。

「修業先で学んだ、素材の良さがわかる丁寧な仕事を大切にしたいですね」と笹井さん。だしを引く水は近くの井戸水を汲み上げて使用。真昆布とマグロ節を独自に配合して、深みはあるけれど旨みは柔らかなだしを毎日引いています。

『京夕け 善哉』店主の笹井喜晃さん
調理を一手にこなす店主の笹井喜晃さんは1966年生まれ。接客は同じく京育ちの女将・由香里さんが担当しています。
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硬軟交えたコースが13200円から

料理は昼夜共通のコースのみ。全8品ほどで13200円から用意されています。

ある初夏の日は、お造りは明石のタコと鯛、カツオの3種盛合せ。繊細な旨みを浮き彫りにするため、鯛は厚切りにして塩とワサビで。カツオは少しだけ寝かせてもっちり感を持たせて。見た目はシンプルですが、素材の良さを引き出す丁寧な仕事振りに、笹井さんの誠実さが窺えます。

『京夕け 善哉』の造り盛合せ
写真は昼夜共通13200円のコースから。この日の造りはカツオ、タコ、鯛。
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『京夕け 善哉』の若竹煮
色白に炊いた品の良い若竹煮は、フキの青煮を添えて。この日のタケノコは京都・向日市の物集女(もずめ)から。
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『京夕け 善哉』のマスの付け焼き
甘辛い醤油ダレを塗り焼いたマスの焼き物。皮目はパリッと香ばしく、身はふっくらとしています。
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「あまり真面目過ぎてもなんですので」と、椀物や水物などに施すちょっとした遊びも楽しみどころです。女将の由香里さんの「花より団子です」という解説付きで登場したのは、花見団子を模した椀物。エビ・黄身・ヨモギを使った3色の真薯が、澄んだだしの中に愛らしく浮かびます。

コースの中で特に意外性を意識しているという甘味は、アメーラトマトを主役にしたり、イチゴのジュレをかけたかき氷を作ったりすることも。季節感溢れる楽しい甘味にもファンが多いそうです。

『京夕け 善哉』の椀物
エビ・黄身・ヨモギの真薯をゴボウの串に刺した洒落た椀物。ウドで出来た桜の花びらも素敵です。
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『京夕け 善哉』の水物
とろんと甘く煮たアメーラトマトに、その煮汁を生かしたミント風味のジュレを合わせた甘味。夏らしい爽やかな香りで、さっぱりいただけます。
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