正統派江戸前鮨の技術と味を、大阪・福島『鮨ふみ』で愉しむ

大阪・JR福島駅の北側は、道を西へ進むと少しひっそりとした雰囲気。そのエリアで明かりを灯す『鮨ふみ』では、正統派江戸前鮨の技術と味を堪能できます。

背筋が伸びる美しい檜のカウンター

洗練された店構えからも今から始まるおいしい時間への期待を高めてくれる、大阪・福島の『鮨ふみ』。若い頃から料理人を志し、大阪の老舗と呼ばれる江戸前鮨店でも修業を重ねたご主人・平谷史郎さんが腕をふるいます。

『鮨ふみ』内観
店内に入るとすぐ目に飛び込んでくる美しい檜のカウンター。すっと背筋が伸びる心持ちも、鮨店を訪れる愉しみです。
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生きているのは『福喜鮨』で学んだ技術

平谷さんが主に修業を重ねたのは、大阪・日本橋に本店を構えていた『福喜鮨』(現在は西中島南方へと移転)。1910年に東京で創業し、100年以上の歴史を持つ江戸前鮨の名店です。そこに伝わる伝統的な技法と味を体に染み込ませるようにして学んだ平谷さん。「『福喜鮨』では苦労しながらたくさんのことを学んだぶん、ひとつひとつの仕事を大切にする心が備わりました」と話します。

『鮨ふみ』調理
カウンターの中で調理をする平谷さんの所作のひとつひとつが丁寧でキビキビとしていて、つい目を奪われます。
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平谷さんが修業を通して学んだたくさんのことは、しっかりと『鮨ふみ』で生きています。例えばシャリ。程よく水分が抜けてシャリにした時には1粒ずつの米がしっかりと立つ古米を用いて、鮨酢には米酢と穀物酢を独自にブレンド。関西で食べるにぎりのシャリとしては甘さを控えめにしているのも修業時代の学びから。

そしてにぎりにも大きな特徴があります。平谷さんが鮨をにぎる際に少し独特な動きをするのですが、それが「本手返し」という技法。シャリにネタを乗せ、手のひらを上手く使ってくるりと鮨を反転させて成形するのです。

『鮨ふみ』にぎり
とにかく見て学ぶ、そして反復することを繰り返し「本手返し」を体に馴染ませていったという平谷さん。今『鮨ふみ』で修業を重ねている若い職人さんも、平谷さんの手元を見つめていました。
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曰く「この握り方だとシャリの成形がよりきれいになるんです」。目指すのは、口に入れたときに心地よくほぐれるシャリであること。周りはしっかりと握られているけれど、中に程よい空間があってふんわりやわらかい。そんなにぎりを目指しているそう。

そしてもうひとつ、ご注目いただきたいのが玉子焼き。柔らかでしっとりした質感が見た目だけでも伝わってくる玉子焼きは、『福喜鮨』時代に平谷さんが親方から直接指導を受けて学んだ作り方をそのまま継承しています。この玉子焼きは門外不出と言われていて、焼くことができるのも選ばれた数人の職人のみなのだそう。

『鮨ふみ』玉子
『福喜鮨』の許可を得て、『鮨ふみ』では玉子焼きを提供。秘伝ともいうべき玉子焼きを使ったにぎりはシャリを挟み込むような独特の形。
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口に含むと溶けていくスフレにも似た食感に驚きます。その不思議な食感のカギとなっているのは卵液に含ませた鱧のすり身。そして食べた後に余韻としてふんわりとした甘みが広がります。「本来鮨店ではデザートを提供しないので、代わりみたいなものですね」と平谷さんは話します。

日本酒と楽しむおまかせコース

こちらでいただける「おまかせコース」は2種類。18400円のコースでは、突き出しに始まり、お造り、小鉢2〜3品、焼き物、鮨が9貫ほどに細巻き、そして茶碗蒸しまでが供されます。一品料理と江戸前鮨を心ゆくまで堪能できるのはもちろん、季節ごとにラインアップが変わる日本酒も『鮨ふみ』をたびたび訪問する楽しみです。

『鮨ふみ』車エビ
この日は沖縄で水揚げされた車エビを使用。見慣れないこの形、細長く成形されたシャリをクルリと巻くようにネタを乗せて仕上げています。「シャリをしっかりと包み込むことで口いっぱいにエビの風味が広がるように考えました」と平谷さん。
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『鮨ふみ』銀だらの西京焼き
その日の仕入れ状況によって内容が変わる焼き物、この日は銀だらの西京焼き。上品な甘みの西京味噌とふわふわの銀だらの身。少しずつ口に運んでチビチビと日本酒が楽しめる極上の酒の肴でもあります。
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